【第3回】教育基本法の改正から専門職大学が出来るまで

専門職大学・専門職短期大学が55年ぶりの新しい大学制度として創設されたのは、国が取り組む大学教育改革のなかで、社会や産業界からの要請に応えるものであった。

教育基本法改正の動き(平成12~18年)

我が国の教育制度の憲法ともいえる教育基本法は、昭和22年に制定されて以来、平成18年まで一度も改正されずにきていた。平成12年3月に小渕内閣で設けられた教育改革国民会議は、同年12月に「教育改革国民会議報告―教育を変える17の提案―」をまとめた。

報告では、家庭や地域の教育力低下・大学の国際競争力・学ぶ意欲の低下など、当時の現状を危惧し、戦後の教育システムからの脱却、未来志向の教育システムへ改革・改善を図るために教育基本法の全面的な改正と教育振興基本計画策定の必要性が提言された(*1)。

教育改革国民会議報告を受け、中教審では1年4か月にわたる検討の末に「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」とする答申をまとめ(*2)、その後、平成18年、第1次安倍内閣により設置された教育再生会議が提出した報告等が教育基本法等をはじめとする教育三法の改正へとつながる(*3)。

改正教育基本法では、教育の目的として「職業」というキーワードが、教育振興基本計画においても、高等教育の中で「職業教育・キャリア教育」という言葉が盛り込まれている。専門職大学創設のはじまりはここにあったと言える。(*4)

職業教育に関する新たな枠組みの整備(平成18~23年)

改正教育基本法に基づく第1期教育振興基本計画では、まず、既存の学校種で実践的な職業教育を促すとし、その実現に向けた取り組みを行うとした。

第1期教育振興基本計画をもとに、既存の学校種におけるキャリア教育・職業教育に関して中教審で検討・議論がなされたが、その答申によると「既存の大学・短期大学で職業教育の機能を期待していたが、職業教育の意義や位置付けが不明確で、十分な成果が得られない」との指摘があり、職業教育に関しては「新たな枠組み」の整備が必要であるとの提言がなされた。(*5)

新たな高等教育機関の制度化(平成24年~28年)

平成26年7月の教育再生実行会議第5次提言では、職業教育に関しての「新たな枠組み」からさらに一歩踏み込んで、「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化」が提言された(*6)。その制度化に関する有識者会議が設置され、翌平成27年3月には「審議のまとめ」を発表(*7)。それを受けて、中教審は平成28年5月に「個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」とする答申をまとめた(*8)。

この答申では、新たに制度化される高等教育機関を大学・短期大学の体系に位置付けることとし、さらにこれまでの職業教育に関する教育改革のまとめとして、現状と課題の把握から始まり、新しい高等教育機関の制度化の方向性として、養成すべき人材像、推進すべき教育、基本制度設計などが提言されている。

図 職業教育に関する学校体系のイメージ

出典 文部科学省「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議 審議のまとめ」(平成27年3月)

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gaiyou/1356314.htm

また、平成28年5月の中教審答申では、新たな高等教育機関の制度設計にあたり重視すべき4つの視点として、以下が示された。

__≪制度設計に当たり重視すべき視点≫

①理論と実践の架橋による職業教育の充実

②産業界・地域等のニーズの適切な反映、産業界・地域等との連携による教育の推進

③社会人の学び直し等、多様な学習ニーズへの対応

__

文部科学省「個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について(答申)」平成28年5月

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1371833.htm

①は大学体系に位置付けるために諸外国との共通概念との整合性から、実践教育だけでなく、学術に基づく理論教育や教養教育を行うことが必要とされた。②~④については第1期教育振興基本計画に盛り込まれた内容の具現化である。

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