子どもの憩いの場「かのん」 維持費捻出へCF開始 佐世保・島地町

ピアノや書籍などが並ぶ「かのん[奏音]」=佐世保市

 長崎県佐世保市島地町にある、子どもらが自由に読書や休憩などに利用できるスペース「かのん[奏音]」。開設した心療内科「かなでクリニック」=同市下京町=の野口栄二院長(54)は、活動継続のためクラウドファンディング(CF)に取り組んでいる。
 心療内科医として思春期の子どもらと関わってきた野口院長は、医療につながる前の子どもたちの力になりたいと、2019年に「かのん」を開設した。約90平方メートルのスペースにピアノや3千冊以上の書籍が並び、Wi-Fiも完備。学生は無料で、大人も一口千円のサポーター会員登録をすれば利用できる。
 開設費用は野口院長が個人で負担。これまで維持費捻出のため、同会員登録による寄付の募集や雑貨、書籍販売などに取り組んできたが十分ではなく、維持費のほとんどを野口院長が支出しているのが実情だ。そこで持続的な活動を展開するため、2種類のCFに挑戦することにした。
 一つは目標額を100万円として、2月末まで行う。支援は3千円からで、金額に応じて同施設で利用できるクーポンやスタッフ手作りのマスクなどの返礼品がある。もう一つは期限を設けず、毎月支援を行う。千円から可能で、こちらも金額に応じた返礼品がある。
 同施設は、別室に読書部屋と家族相談を有料で受け付けるスペースを整備し、2月に提供を開始する予定。また、AIを利用した学習システムも導入し子どもたちの学習支援を強化する。
 CFの詳細は同施設HP(kanon-sasebo.com)で。問い合わせは同施設(電080.7802.6296)。

◎一問一答 かなでクリニック・野口院長 「子どもが尊重される場所に」

 開設から約2年が経過した「かのん[奏音]」。開設への思いやこれからの課題などを「かなでクリニック」の野口栄二院長に聞いた。

「生きている、ただそれだけで素晴らしいということを伝えたい」と語る野口院長=佐世保市、かのん[奏音]

 -開設の理由は。
 経済的に厳しい環境の子どもたちが勉強したり本を読んだりできる場所を作ろうと思った。他方で経済的に恵まれていても窮屈な環境で生きる子どももいる。そこで全ての子どもが利用できる場所にしようと思った。

 -なぜ「場所」なのか。
 自分が損なわれるような不快な場所にいると健やかな成長は難しい。成長には安全で、自分が尊重される「場所」が必要。それはそこにいる「人」によって作られる。
 親や先生は子どもを立派に成長させたいと思いがちで、その使命感は素晴らしい。ただ、傷ついて弱った子どもにとって「正しい」大人は少し苦しい。良い子でいないといけない、叱られないようにしないといけないと思っている子どもは多い。
 それに比べ第三者はちょっと気楽な立場で、子どもにとっては弱みを見せやすい存在になる。「良い、悪い」で評価されない関係は、子どもにとってそれほど多くない。

 -活動上の課題。
 利用者があまり増えていない。「交流の場にしたい」と思っていたがコロナ禍では難しい。診療所の売り上げの5~10%を活動に注いでおり、診療所を辞めた後は継続が厳しい。1人でやっていくのは難しいので、もっと周りの人を頼ろうと思う。

 -支援者へPR。
 子どものための場所を作ろうとしている大人がいて、それを支えようとしている大人がいる。そういう状況を作ることができれば、子どもには希望になるのではないか。
 ゆくゆくは、看護師やソーシャルワーカーなど協力の輪を広げ、いろんな“誰か”が管理人を務め居場所を作っていく。そんな場にしたい。

 -子どもや大人に伝えたいこと。
 子どもには、あなたは大切な存在だということを伝えたい。何かができるから素晴らしいのではなく、苦しいことがあっても、生きている、ただそれだけで素晴らしい。人は失敗するし失敗して学んでいく。周りの大人は、子どもが失敗しても存在を否定しないでほしい。失敗した時こそ成長のチャンスだから。


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