避難行動で見えた課題 トンガの海底火山噴火による空振で宮城県に津波注意報

特集は「被災地は今」です。1月にトンガで起きた火山噴火に伴う津波では、宮城県内の沿岸部に津波注意報、そして避難指示が出されましたが、避難所に避難した人は1%未満でした。なぜ避難しなかったのか?見えてきた要因と今後の災害に備え、適切な避難について考えます。

海岸から2キロほど内陸にある亘理町の浜吉田北地区。区長を務める福本眞さん(76)です。
浜吉田北地区福本眞区長「日本に影響はありませんという気象庁の情報が(事前に)流れましたから、あまり気にしてなかったですね。12時(午前0時)15分に津波注意報、それでもまだ情報としては信じられないですからね」

日本時間の1月15日午後1時すぎにトンガで起きた海底火山の大規模な噴火。噴火の際に生じた空気の振動、空振により津波が発生しました。気象庁が統計を開始して以降、初めての現象でした。気象庁は噴火から6時間後の午後7時すぎ、日本沿岸では「若干の海面変動が予想されるが、被害の心配なし」とする情報を出しました。しかし、午後11時ごろには1メートルを超える津波が観測され始めたため、16日未明に日本の広い範囲に津波警報や注意報を発表。県内の沿岸部の14の市と町は避難指示を出しました。

「揺れもないし分からない。判断できなかった」

「判断できなかった」

亘理町では、常磐自動車道より東側に住む町民、約5000人を対象に避難指示を発令。しかし、福本さんは、すぐには避難しませんでした。
浜吉田北地区福本眞区長「(予想される津波の高さが)1メートルとか遠地(地震)とかということだと、揺れもないし分からない。非常に判断ができなかった」
福本さんは、2021年3月の福島県沖の地震で津波注意報が発表され避難指示が出された際は、速やかに避難しました。しかし、今回は「揺れなかったこと」が避難を遅らせました。福本さんはその後、テレビで状況を確認していましたが、各地で次々と津波が観測されたため、午前3時すぎに避難所になっている小学校に避難しました。その時点で、小学校に避難していたのはわずか3人でした。
浜吉田北地区福本眞区長「今回たまたま(町内に)何もなかったから良いんですけど、遠地津波というのが1960年にチリでありましたよね。(被害が)それと同じようなこともあり得るわけで、遠くても津波注意報、あるいは警報が出たら基本的にはまず逃げる。それを個人で判断しないというのが前提でしょうね」

避難者は対象者の1%未満

避難者は対象の1%未満

県内では避難指示の対象者、約8万8000人のうち、避難所に避難した人は177人と対象の1%未満でした。2021年3月の福島県沖地震の際の半分以下です。亘理町箱根田東地区の区長、櫻井幸次さん(72)も避難しなかった1人です。
箱根田東地区櫻井幸次区長「地震の揺れも何もなくて向こう(遠い海外)の津波だから、そんなに大きくはならないだろうと。(津波)警報じゃないからそんなに大きいのは来ないだろうと」
東日本大震災の津波で自宅が全壊した櫻井さん。2021年3月の福島県沖地震ではいち早く避難しましたが、今回は揺れなかったため、切迫感を感じなかったと言います。
箱根田東地区・櫻井幸次区長「近海の地震で津波が起きるんだったら、それは避難しなければならないだろうけど」

避難行動に詳しい東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授は、例のない現象のため判断は難しかったと指摘した上で、こう分析します。
東北大学災害科学国際研究所佐藤翔輔准教授「宮城の方、被災地の方というのは、揺れが起きることと津波がセットになってですね。これはすごく良い定着で、多くの方がですね、実は、気象庁さんや町の情報を待たずにもう揺れたら逃げると。そういったものが体ににじみ混んでる中で、『あれ、揺れていないのに津波注意報なのか』と。避難する、立ち退きするということに結び付かなかった要因の一つではないかなと」

「揺れを感じなかったこと」以外にも「深夜だったこと」「冬で寒かったこと」。そして「コロナ禍であること」も避難につながらなかった一因とみられています。
浜吉田北地区福本眞区長「深夜で動くにしても寒いですからね。下手に動くと危険という時もありますから」
亘理町総務課遠藤匡範主査「一連して(避難を)決心できるっていうのは、なかなかハードルが高いものだとは思います。ひとえに同じ注意報だとしても、対応は苦慮したなって印象ありますね」

佐藤准教授は真冬の深夜の避難も想定し、防寒具を含めた非常用持ち出し袋の準備や可能であれば深夜に訓練を実施することを検討してみることも大切と話します。トンガからの津波では仙台港で午前0時38分に70センチ、石巻市鮎川で午前2時11分に70センチ、石巻港で午前7時2分に50センチの最大波を観測。県内では人的被害はありませんでしたが、漁船が転覆したり、養殖ワカメなどに被害が出ました。
東北大学災害科学国際研究所佐藤翔輔准教授「今回のような空振については、その正確な予測、妥当な予測ができないんですね。つまり、何が起こるか分からないと。(発表された津波注意報は)あまり高くないとイメージされるかもしれませんが、それを超えることは十分あり得ると。考えていただいて行動していただくことが重要になると」
佐藤准教授は、予測しきれない災害は多くあると指摘し、自治体の避難指示には躊躇なく従ってほしいと呼び掛けます。
東北大学災害科学国際研究所佐藤翔輔准教授「今、我々が受け取ることができる津波の警報や注意報については、事前に計算したもので出してるということに限界があります。より危険側、最悪側に考えていただいて行動していただくことが、よりご自身の命を守ることにつながるというふうに思います」

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