最終回 辞書を引く習慣を 身に付けさせる

現地邦人の子どもたちに向けて日本語教育を行っている皆本みみさん。「みみ先生」からニューヨークでの日本語教育について大切なことを伝えていく連載。


子どもに「漢字は難しくない」という先入観を植え付けることは、後々の学習に大きな影響を与えます。

例えば、小学校3年生くらいの漢字を勉強している時、「それじゃ、5年生ではどんな漢字を習っているのか見てみようか」と、声をかけてみるのです。きっとこの時子どもは、難しい漢字を覚悟しているでしょう。

そこで、画数が少なく、比較的簡単な「久」とか「旧」、「可」といった漢字を見せてあげます。そうすると、思ったほど難しくないというイメージができてくると思うのです。この時、教科書などを使うよりも、その漢字が出ている絵本や読み物を見せるほうが、ぐんと親近感を持ってくれるようです。

これらの漢字をその場で覚えさせるのが目的ではありません。あくまでも、難しくないという先入観を持たせるために行うのです。

そして、こんなささいなことでも、次の段階への準備になります。5年生、6年生になった時のための準備です。将来、辞書を使う時のための準備も、低年齢の時からやっておくとよいでしょう。何も分厚い辞書を持ってきて、それを引かせる必要はないのです。その年齢でできることをやればいいのです。

辞書は積み重ねで使えるようになっていく

例えば、子どもが折り紙で「飛行機」を折りたいと言ってきたとします。そうしたら、折り紙の折り方が書かれた本を子どもに渡し、目次のページを開かせます。「飛行機」のページを探させて、そして、そのページを開かせる。すべて子ども自身にやらせます。

同様に「クッキー作って」と言ったら、料理本で同じことをします。雑誌でも何でも目次の付いている本でしたら「○○のページを開けてみてごらん」と言って、開かせます。こんなことの積み重ねが、やがて辞書を使う時になって役に立つのです。

また、辞書を引く準備ができていれば、早い段階で辞書を引くチャンスが訪れるものです。

よく、書棚に整然と並べられた高価な百科事典を見かけますが、辞書や辞典はインテリアではありません。中には完全にインテリアとして置いている人もいるようですが、子どもの手の届くところに置いて、辞書や辞典は必要な時にすぐに使えるようにしておかなくてはなりません。

そして、わからないことがあったら、間を置かずに、即調べるということも大切です。すぐに調べられない時は、忘れないようにメモを取り後で調べられるようにします。メモをしないと調べたいことを忘れてしまいますし、調べること自体忘れてしまう事もありますから。

そういった意味では、メモ用紙はいつも手元にあると良いでしょう。自宅のあらゆる場所に置いておいたり、出掛けるときにはいつも携帯することです。親がまず実践することによって、メモを取る習慣や、後からでも辞書を調べるという習慣を子どもに身につけさせることができます。

日常で学ぶことが日本語習得につながる

人間は、わからないことがわかった時に満足感を得る生き物です。基本はすぐに調べること。すぐに調べれば満足感も高くなります。不明点を放置しない習慣は日常生活の中で育んでいかなくてはなりません。

言語は、生活の中で学んでいくのがよいのです。しっかりした日本語を獲得できた時、第2、第3の言語の習得も容易になるのであり、算数や理科、社会といった他の教科にも良い影響を与えるようになるのです。やはり家庭での日本語教育が鍵を握るでしょう。

ついに、この連載も今回で最後です。ここまでお読みいただきありがとうございました。多くのニューヨーク在住の子どもたちが日本語をきちんと習得できることを切に願っております。またどこかでお会いしましょう。

※このページは、幻冬舎ルネッサンスが刊行している『ニューヨーク発 ちゃんと日本語』の内容を一部改変して掲載しております。

皆本みみ

1952年、東京都八丈島生まれ。
79年に来米。
JETRO(日本貿易振興会)、日本語補習校勤務を経て公文式の指導者となり、シングルマザーとして2人の娘をニューヨークで育てる。
2007年『ニューヨーク発ちゃんと日本語』(幻冬舎ルネッサンス)を上梓。
現在もニューヨークで日本語の指導者として活動中。

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