ブロードウェーウィークがスタート!今、見るべき ミュージカルガイド

昨秋、1年半ぶりに再開されたブロードウェーミュージカル。今月18日からはブロードウェーウィークが始まり話題の新作やリバイバル作品がめじろ押しだ。今、見るべきおすすめのミュージカルやその見どころをダンサーの小野由利加さんに紹介してもらう。


ダンサー小野由利加さんが解説!

2022年、ブロードウェーの見どころは?

ブロードウェーミュージカルが再開し早4カ月。現在の劇場の様子と上演作品について、ダンサーの小野由利加さんに話を聞いた。

現在の劇場の様子は?

再開直後の昨年9月に「ウィキッド」の初日公演を見に行きました。印象的だったのが、開演の30分前には大半の人が着席して幕開けを待っていたことです。ミュージカルファンがこんなにもいて、みんながこの瞬間を待ち望んでいたんだと、マスク越しにでも感じることができました。

そんな中、昨年末にはオミクロン株拡大の影響で再び休演が相次ぎました。演者は劇場を一歩出るたびにラピッドテストを受けるなど、感染防止のために細心の注意を払いながら公演を続けている状況です。

公演中の作品の特徴は?

BLM(ブラック・ライブズ・マター)の影響が色濃く出ています。劇中に社会の風潮を取り入れるのがブロードウェーの特徴。「ウィキッド」や「オペラ座の怪人」のメインキャストにアフリカ系アメリカ人が起用されたことや、1960年代アメリカの黒人差別社会を描いた「キャロライン・オア・チェンジ」が話題を呼びました。

少し前になりますが「ハリー・ポッターと呪われた子供」のハーマイオニー役にアフリカ系女優ノーマ・ドゥメズウェニさんが抜擢されました。誰もがイメージするハーマイオニー像とは異なる配役でしたが、彼女の演技には全く違和感がありませんでした。演技力は人種の壁を越える、そう感じた瞬間です。原作者のJ・K・ローリングや映画で同役を演じた女優エマ・ワトソンも彼女の演技を絶賛しています。

昨年11月、「シカゴ」の公演25周年を記念したフラッシュモブでダンスを披露する小野さん

今、何を見ればいい?

とにかく新作ミュージカルの鑑賞をおすすめします。新作に出演するオリジナルキャストは、役柄に演者自身のキャラクターが反映されたり、その人のためのパートが作られたりします。彼らは、そこで成功させないといけないというプレッシャーがあるので、気合いとパワーが違うんです。

新作「マイケル・ジャクソン・ミュージカル」や「シックス」、3月に再演予定の「ミセス・ダウト」はどれもおすすめです。64年ぶりにリバイバルされた「ザ・ミュージックマン」はチケットが他に比べて高いですがヒュー・ジャックマンの名演が見れるので払う価値ありです!

英語が心配な人は?

英語が理解できないのが心配という人には「ライオンキング」がおすすめです。また「ハミルトン」や「ディア・エヴァン・ハンセン」「シカゴ」「オペラ座の怪人」など、ミュージカルが映画化されている作品がたくさんあるので、英語が心配でも予習していくと十分理解できると思います。「ミセス・ダウト」や「ムーラン・ルージュ」など、映画をもとに作られているものは、原作を見てから劇場に足を運ぶとより楽しめますよ。
次頁では、引き続き小野さんにおすすめのミュージカルをピックアップして詳しく紹介してもらう。

お話を聞いた人

小野由利加さん

1995年東京生まれのNY在住学生ダンサー。
2017年に来米しSteps on Broadwayでダンスを学ぶ。
22年に同校を卒業。
4月よりアメリカン・ミュージカル&ドラマ・アカデミー(AMDA)に入学する。
来米以来全てのブロードウェー作品を鑑賞する。
Instagram: @ulikaxx

2022年ブロードウェーウィークの
対象ミュージカルをチェック!

年に2度のブロードウェーウィークがスタート。2月13日(日)までに公演される作品の、2枚のチケットが1枚分の値段で購入できる。公式サイトから、対象作品を確認してみよう。

おすすめのミュージカルを紹介!

前頁で話を聞いたダンサーの小野由利加さんに、引き続きおすすめミュージカルを紹介してもらう。


今、見てほしい新作

マイケル・ジャクソン・ミュージカル〈歌・ダンス〉

【あらすじ】マイケル・ジャクソンが、世界的大ヒット曲をどう作り上げたのか。1992年にブカレストで行われたライブ「デンジャラスツアー」のリハーサル風景にさかのぼり、そこから彼の半生を描く。マイケルがこれまでリリースした25曲以上のヒットソングが盛り込まれ、舞台上の姿だけでなく、舞台裏のマイケルを知ることができる。

小野さんのコメント

誰もが知ってる曲がたくさん流れるので、英語が分からなくても楽しめます!マイケル・ジャクソン・エステートが監修し演技指導しており、マイケル役のダンスや立ち振る舞い、動きのすべてがマイケルそのもの。映画「THIS IS IT」とライブ「Dangerous Tour」の映像を見て行くとより楽しめます。オリジナルキャストの今、絶対に見てほしいです!

Neil Simon Theatre
250 W. 52nd St.
mjthemusical.com


シックス〈歌〉

【あらすじ】舞台は16世紀のイギリス。イングランド王ヘンリー8世は宗教上離婚や再婚ができないという原則があるにもかかわらず、自身の都合で6人の女性と結婚と離婚を繰り返し、うち2人を処刑するという暴君だった。同作では、そんな6人の王妃がバンドを組み、誰が最も苦しめられたかを歌やパフォーマンスで競う。

小野さんのコメント

ライブのような、ノリノリのロックポップミュージカルです。原作はなんと、ケンブリッジ大学の学生が制作したプロジェクト。公演時間が1時間20分と短いので気軽に見ることができます。英語が少し不安という人は、登場するどの王妃が誰なのかだけでも予習していくと、十分楽しめますよ。

Brooks Atkinson Theatre
256 W. 47th St.
sixonbroadway.com


ミセス・ダウト〈映画あり〉

【あらすじ】失業中の俳優ダニエルは、妻ミランダから愛想を尽かされ、離婚を言い渡される。家を追い出されたダニエルは、子供たちに会いたいがために女装し、家政婦ミセス・ダウトとなって家に近付くことに。家族になじんでいく彼女(ダニエル)は、徐々にみんなにとって大切な存在となっていく…。(※3月15日から再公演予定)

小野さんのコメント

これぞ王道ミュージカル、といった作品です。1993年公開のコメディー映画「ミセス・ダウト」が原作で、今は亡き名優ロビン・ウィリアムズが女装を演じて大ヒットしました。原作ファンなら必見です! 原作を見ていなくても、ストーリーが明快に展開していくので気軽に鑑賞できます。ファミリー向けの内容なので、子ども連れの方にもおすすめす。

Stephen Sondheim Theatre
124 W. 43rd St.
mrsdoubtfirebroadway.com


初心者にもおすすめ

ムーラン・ルージュ〈歌・ダンス・映画あり〉

【あらすじ】1900年のパリ。作家を目指してモンマルトルに来たクリスチャンはキャバレー「ムーラン・ルージュ」で働き始める。そこで出会った歌姫サティーンと恋に落ちるが、彼女のパトロンである公爵には関係を内緒にしなければならなかった。そんな中、サティーンの体が病にむしばまれていく…。

小野さんのコメント

昨年トニー賞で最多10冠に輝いた作品。ビートルズやマドンナ、レディー・ガガやアデルなど、誰もが知っている楽曲が流れ、コンサートのように楽しめます。ダンサーたちのクオリティーが高く、ストーリーが分かりやすいので初心者にもおすすめしたい作品です。

Al Hirschfeld Theatre
302 W. 45th St.
moulinrougemusical.com


ディア・エヴァン・ハンセン〈ストーリー・歌・映画あり〉

【あらすじ】主人公エヴァン・ハンセンは、母子家庭で育った自分の居場所が見つけられない高校生。友達が1人もいない対人恐怖症の彼は、セラピストからの宿題で自分自身への手紙を書くことに。この手紙がきっかけでエヴァンの人生は、今までと全く異なる方向へ進んでいく。

小野さんのコメント

「ラ・ラ・ランド」や「グレイテスト・ショーマン」の音楽チームが担当する楽曲がとても素晴らしいです。舞台上にSNSの画面を投影するなど斬新なアイデアで、公開当初はミュージカル界に新しい時代の流れを作りました。英語が心配な人は、映画で予習ができますよ。

Music Box Theatre
239 W. 45th St.
dearevanhansen.com


シカゴ〈ダンス・映画あり〉

【あらすじ】1920年代、ジャズ全盛期のシカゴが舞台。愛人殺しの罪で一躍有名となったロキシー・ハートが、メディアや法廷を巻き込みながら、名声欲しさにあらゆる手段に出る。天才振付師ボブ・フォッシーが手がけるダンスが見どころの、欲望を描いた人間ドラマ。

小野さんのコメント

ブロードウェーミュージカルのアイコンとも言える、ロングラン作品の一つ。オーケストラが前に出ていて、シンプルなセットがシックでおしゃれ。セクシーでかっこいいダンスと音楽が見どころ。ミュージカル鑑賞するなら一度はちゃんと見ておきたい、王道作品です!

Ambassador Theatre
219 W. 49th St.
chicagothemusical.com

知ってるともっと楽しめるかも?

ブロードウェーミュージカルの豆知識


ブロードウェーとミュージカルの歴史

ミュージカルの起源は?

ミュージカルの起源は、ヨーロッパから持ち込まれたオペラや、それを大衆的に娯楽化させたオペレッタだといわれている。

それらがアメリカに渡り「ボードビル」という歌やダンス、漫談や曲芸を披露する寄席演芸や、ダンス主体の「レビュー」などさまざまな演劇に影響を受けてミュージカルへと発展した。

ニューアムステルダムシアター

ブロードウェーの始まり

現在の劇場街は、先住民の踏み分け道「インディアントレール」だった。ニューアムステルダム植民地をつくったオランダ人が、そこを南北に縦断する道を「ブロードウェー」と命名。独立戦争を経てタイムズスクエア一帯をブロードウェーと呼ぶようになった。

劇場街はいつできた?

1767年に、ニューヨーク初の常設劇場、ジョンストリート劇場が建設された。1830年には庶民向けの劇場も続々と登場。70年頃になると、当時の娯楽の主流だったオペラだけでなく、ボードビルやサーカスなどの見せ物が上演されるようになった。それと同時に多くの劇場が作られ、タイムズスクエア周辺が劇場街と称されるようになった。

タイムズスクエアの真ん中に立つ、ブロードウェーミュージカルの父、ジョージ・M・コーハン。ボードビルを舞台に持ち込み、ミュージカルのもとを作ったといわれている

1904年にはニューヨークに地下鉄が開通し、街が白球電球の看板で彩られ、「Great White Way」と呼ばれるきらびやかな街となっていった。


ミュージカル用語集

「プリンシパル」

主役および準主役を演じる人。役名があり、歌のソロや芝居の大きな見せ場がある。

「アンサンブル」

プリンシパルを支える役者やダンサーのこと。集団で踊ったり歌ったりすることが多く、1公演で複数の役を演じる。

「オリジナルキャスト」

初演、または再演時に最初に配役される出演者。リハーサル期間を経て自分で役を作り上げるので、演者自身のキャラクターに合わせて、歌詞やセリフが作られることがある。

「オフブロードウェー」

客席数500未満の劇場、またそこで上演される作品のこと。一般的にブロードウェー作品と呼ばれるのは「オンブロードウェー」を指す。現在「ストンプ」や「ブルーマングループ」などが公演中。

「プレービル」

劇場で配られるプログラムのこと。作品のあらすじや出演者のプロフィールなどが記載されている。ウェブ版のプレービルでは、日々ミュージカル情報が更新される。

「ブレーク・ア・レッグ」

「幸運を祈る(Good Luck)」という意味で使われる慣用句。舞台に上がる前やオーディションを受ける人に言われる。演劇界では、幸運を祈ると不運を呼んでしまうという迷信があるため「Break a leg」と不運を祈ることで、幸運を引き寄せるといわれている。

「レガシーローブ」

演者やステージマネージャーなどスタッフ全員が、オープニングナイトの公演前に舞台上に集まって行う伝統行事。ブロードウェーの出演作が最も多いアンサンブルメンバーが、ローブを着てその場で3回周り、他のメンバーがそれに触れることでミュージカルの成功を祈る。ローブはその年に始まるミュージカル作品間で引き継がれる。以前はジプシーローブと呼ばれた。


ブロードウェーウィークを逃しても大丈夫!

チケットをお得に手に入れる方法

★劇場のボックスオフィス

手数料がネットで購入するよりも安い上に、予算に応じて見やすい席を教えてもらえたり、直接窓口で相談することができる。

★TodayTix

1〜3カ月ほど前から、20〜60%オフの格安チケットが購入できるサイト。席は細かく指定できず、セクションしか選べないので場所にこだわらない人にはおすすめ。

todaytix.com

★tkts(チケッツ)

各劇場の当日券を最大半額で販売してくれるチケットブース。タイムズスクエア店は混むことが多いので、リンカーンセンター店に行くのがおすすめ。

tdf.org

★Rush Ticket(ラッシュチケット)

劇場窓口で先着順に手に入れられる格安チケット。1日に販売される枚数はかなり少ないが、ほとんどの作品のチケットが25〜50ドルで購入できる。とにかくチケットを安く手に入れたい、早朝から劇場前に何時間も並べるという人にはおすすめ。全ての劇場でラッシュチケットを販売しているわけではないので、劇場窓口か下記のサイトから確認しよう。

playbill.com

★Lottery(ロタリー)

当たればラッキーな、チケット抽選サイト。「ブロードウェーダイレクト」のウェブサイトか、各上映作品の公式ホームページから申し込む。競争率が高く当たる確率が低いので、くじ引き感覚で申し込んでみて。

lottery.broadwaydirect.com

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