甲子園優勝が「頑張る原動力に」 大学では3登板の苦難を糧に社会人野球へ

東北福祉大からENEOSに入社する綱脇慧【写真:高橋昌江】

綱脇慧は花咲徳栄を全国Vに導くも東北福祉大では3試合登板

昨年10月に行われたプロ野球ドラフト会議で、オリックス1位の椋木蓮投手ら4選手が東北福祉大から指名された。社会人野球には12人が進み、2017年夏の甲子園で埼玉・花咲徳栄高の一員として優勝を経験した綱脇慧(つなわき・すい)投手はENEOSに入社する。昨年の都市対抗野球を現地で観戦。士気を高め、「日本一になるために必要なピッチャーになりたい」と意気込む。

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社会人の選手がぶつかり合う都市対抗野球。綱脇は昨年大会を東京ドームで観戦した。「初めて観たのですが、1球1球にかける姿勢に圧倒されました。ピッチャーのコントロールがすごいですし、バッターも振りが強くて厳しいコースにも食らいついてくる。社員の方々の応援も一体感があり、その中で野球ができている選手がかっこよく見えました」。この大舞台で投げたいと、モチベーションが高まった。

思い描いていたような大学野球生活ではなかった。高校3年の夏の甲子園では全6試合に先発。清水達也(中日)との2枚看板で花咲徳栄の初優勝に大きく貢献した。「常に活躍して、ガンガン投げて」とビジョンを持って東北福祉大に進学するも、リーグ戦での登板は3試合にとどまった。

2年秋と4年春に優勝をかけた仙台大戦で登板したが、コンスタントにマウンドに上がることはなかった。2学年上に津森宥紀(ソフトバンク)、1学年上に山野太一(ヤクルト)がいた。そして、同級生から3人がドラフト指名されるほどハイレベルな投手陣にあって「打たれると考えてしまったり、誰かがいい投球をすると焦ったりした」。“負のスパイラル”に陥ることが多かったと振り返る。

毎日試合があるプロ野球を経験している大塚光二監督(元西武)からは切り替えの大切さを説かれてきた。だが「うまくできなかった」と唇をかむ。オープン戦に「頼むぞ。頑張れ」と握手して送り出してくれる指揮官の期待に応えられず「苦しかった」。それでも後悔はないという。

「うまくいかないことの方が多かったのですが、監督さんをはじめ、指導者の方々が『お前なら大丈夫だから』と、いつも寄り添ってくださった。1度も腐らずに頑張れたのは指導者のおかげだと思っています。今、率直に思うのは東北福祉大に来て本当に良かったということ。小、中、高校もいい指導者に恵まれました。花咲徳栄の岩井(隆)監督の母校である東北福祉大を卒業できるのも自信が持てますね」

ENEOSで「日本一になるために必要な投手になりたい」

高校で130キロ中盤だったストレートのアベレージは140キロにアップ。カットボール、スライダー、チェンジアップも「自信を持って投げられる球種になった」とうなずく。上体が強かった投球フォームを3年冬に下半身主導に変え、4年春には最速を143キロに更新。「そういう意味では、まだ伸びるかなと思っています」とさらなる成長を誓う。

大塚監督は「綱脇の存在は大きかった。人としても練習態度も素晴らしい。同級生、後輩に与える影響が大きかった」と姿勢を称える。「ENEOSの大久保(秀昭)監督も『技術だけでなく、人として魅力を感じた』と言ってくれた」と嬉しそうだ。

リーグ通算15勝を挙げた椋木やリーグ戦に28試合登板した三浦瑞樹(ソフトバンク育成4位)のようにチームの勝敗に関わる機会は多くなかったかもしれないが、野球に取り組む姿勢でチームに好影響を与えた。同級生31人の内、卒業後も野球を続けるのは20人。硬式の社会人野球には12人が進む。「全国にいるので、しのぎを削って対戦できたら」と、その日を心待ちにする。

「気持ちが折れそうになることもあったのですが、あの経験があったから頑張れました。高校の時に甲子園で優勝したんだから、まだまだやれる。綱脇というピッチャーはこんなところで終わってはダメだって奮い立たせていました。甲子園優勝というのは頑張る原動力になっています。ENEOSという素晴らしい企業の野球部に入れるということで、どんな形でもチームに貢献したい思いが強くあります。日本一になるために必要なピッチャーになりたいですね」

高校野球で全国制覇という最高の結果を得て、大学では激しい競争の中で苦悩したが、その全てが野球人生の糧になる。都市対抗野球で最多11回の優勝を誇るENEOSで目指す日本一。そのピースになるため、右腕を振る。

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(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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