「引き分け増加」は2021年シーズンをどう変えた? 上位に直結する試合巧者ぶり

オリックスの本拠地・京セラドーム大阪【写真提供:(C)ORIX Buffaloes】

引き分けの多いシーズンは過去にも

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、延長は行わずに9回打ち切りだった2021年シーズンのプロ野球。試合の短縮は過去にもあり、2011年と2012年には東日本大震災に伴う電力節約のための措置として「試合開始から3時間30分が過ぎた後に、新たな延長イニングに入らない」という“3時間半ルール”が導入された。

2011年からの2年間は3時間半ルールが影響してか、例年に比べて引き分けの数が増加。しかし、2021年シーズンは、その2シーズンと比べてもさらに多くなった。昨季のパ・リーグ順位表は以下の通り。

2021年パ・リーグ順位表【画像:(C)PLM】

6球団すべてが15以上の引き分けを記録する歴史的な多さに。そこで今回は、2010年以降のパ・リーグにおける各順位ごとのチーム成績を、それぞれ表にして紹介。引き分けの多かった年とそうでない年ではどんな変化が生じていたのか見ていきたい。

2010年以降のパ・リーグ勝率1位球団【画像:(C)PLM】

2010年以降のパ勝率1位球団、ソフトバンクが6度

10試合の引き分けがありながら88勝を積み上げた2011年のソフトバンクは、144試合中98試合が引き分け以上という安定感を発揮。敗戦数46は直近10年間では最も少なく、勝率.657という数字も2017年と並んで最高タイだった。

2012年の日本ハムは11試合の引き分けを記録し、試合数が24試合少なかった2020年のソフトバンクと勝利数がほぼ変わらず。勝率も2010年のソフトバンクに次いで下から2番目と、数字の面ではやや低い水準となった。ただ、敗戦数は他の年と比べても極端に多いとは言えず、「負けないこと」がリーグ優勝をもたらしている。

2020年のソフトバンクは143試合換算でも引き分けの数が6試合と、他のシーズンに比べてもさほど多くはなく、勝率も.635と十分に高い水準だった。しかし、昨季のオリックスは引き分けが18個と極めて多く、勝利数も過去12年間で最少。それでも最終的な勝率は.560と極端に低くはなく、2012年の日本ハムと同様に、引き分けを効果的に優勝へとつなげている。

2010年以降のパ・リーグ勝率2位球団【画像:(C)PLM】

2016年のソフトバンクは勝率6割超えでも優勝逃す

2016年のソフトバンクのように、勝率.600を超えながら優勝を逃すケースも存在。80勝以上を記録しながら2位に終わったチームも2014年以降の8年間で3度存在しており、シーズンによっては優勝していてもおかしくない成績だった2位チームは少なくない。

そんな中で、2011年の日本ハムは72勝で、2019年までの2位チームの中では2012年の西武と並んで最も少ない数字に。勝率の面でも期間内で最も低い数字であり、2012年も下から3番目。やはり、引き分けの多さが、順位の面で好成績を収めたチームの勝率にも影響していたと考えられる。2020年と2021年のロッテはともに60勝台で、期間内では最少に。ただ、最終盤まで優勝を争った2021年は引き分けの数が19と多い一方で、57敗と表内で2番目に少ない数字だった。

2010年以降のパ・リーグ勝率3位球団【画像:(C)PLM】

2010年以降で唯一…2020年の西武は勝ち越さずにAクラス入り

2010年以降のパ・リーグでは、シーズン負け越しでAクラスに入ったチームはない。そんな中で、2011年の西武は勝ち越しが1つ、2012年のソフトバンクは勝ち越しが2つと、揃って5割ラインギリギリの成績で3位に入っていた。

2020年の西武は勝率.500で、唯一勝ち越しなしでAクラスに。2021年の楽天は勝率こそ.516だったが、66勝という数字は143試合以上のシーズンでは最少だった。やはり、引き分けが多くなりやすいルールが導入されたシーズンは、3位のチームに関してもそれぞれ特異な傾向が出ていたと言える。

2010年以降のパ・リーグ勝率4位球団【画像:(C)PLM】

Aクラス入りを逃した2011年のオリックスと2012年の楽天も、ともに勝率5割以上を記録。2011年のオリックスは勝利数では3位を1つ上回っており、2012年の楽天は3位と勝利数が同じだった。ただ、両チームともに3位とは引き分けの数がそれぞれ2つずつ少なく、明暗を分けている。

2020年の楽天と2021年のソフトバンクは引き分けの数こそ3位チームよりも多かったものの、それぞれ勝率は.500未満。2011年と2012年のケースとは逆に、負け越してしまったことにより、引き分けの多さがマイナスに働いてしまったといえる。

2010年以降のパ・リーグ勝率5位球団【画像:(C)PLM】

2011年、2021年は下位チームでも引き分けが多い

2012年に5位に沈んだロッテはリーグ最多の15試合、2021年の日本ハムはリーグ最多と1個差の20試合と、多くの引き分けを記録。順位が低いということは、チーム自体が上手く機能していたとは言い難いはずだが、これだけ多くの試合を引き分けに持ち込めているという点が、この2シーズンの環境を象徴している。

2010年以降のパ・リーグ勝率6位球団【画像:(C)PLM】

最下位に沈んだ2011年のロッテ、2012年のオリックス、2021年の西武も、それぞれ10試合以上の引き分けを記録。その影響もあり、2011年のロッテが記録した54勝は、勝率.300台と大苦戦を強いられた2017年と同数に。2021年の西武が記録した55勝もそれに近い数字であり、引き分けの多い環境下では、得失点のバランスが崩れた下位チームほど厳しい成績に直面していた。

優勝チームはいずれも、引き分けが多い中で試合巧者ぶりを発揮

2011年と2020年のソフトバンクは引き分けの多さも含めて高い勝率を記録。2012年の日本ハムと2021年のオリックスは、勝利数こそほかの年の優勝チームより少なかったものの、引き分けによる勝率の維持を効果的に生かした。優勝チームはいずれも、引き分けをうまく結果に結び付けていたことが分かる。

2011年、2012年、2020年では、勝率.500近辺の争いとなったAクラス争いでも、引き分けの数が3位と4位の差に直結。勝率が高いチームのみならず、勝ち負けがほぼ同数のチームにとっても、勝ちでも負けでもないという、「引き分け」という結果が持つ価値は大きくなっていたといえる。

その3シーズンと比べても、2021年は非常に特異なシーズンに。勝てずとも引き分けに持ち込む試合運びを見せて上位に入ったチームが、今季以降もその時々のルールに応じて試合巧者ぶりを発揮するのか。2022年は延長12回までの実施に向けた調整が行われているが、新型コロナの影響で予断を許さない。状況に応じた変化も、ペナントレースを占う上では重要なファクターとなってくる。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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