誰も気にせーへん

 雪や氷の上で速度の極限に挑み、高難度の技を繰り出す…それがウインタースポーツだ。冬季五輪では一瞬の転倒やコースアウトが明暗を分けるシーンをこれまで何回も見てきた▲それらとは明らかに異質な後味の悪さだ。北京五輪のスキー・ジャンプ混合団体で日本女子のエース・高梨沙羅選手がスーツの規定違反に問われ、1回目の飛躍が失格とされた一件▲この競技はスーツの性能が飛距離を大きく左右するため、ジャンプ台を離れた場所でも各国の開発競争が繰り広げられているそうだ。サイズにも厳密な決まりがあるが、体調変化などでゆとりが規定を超えるケースも、と解説記事にあった▲ただ、それぞれの選手が用心に用心を重ねて臨むはずの夢の舞台だ。高梨選手の他にも失格者が続出したと聞いて、ルールの運用に問題はなかったのか、と感じるのは素人考えだろうか▲自身のインスタグラムで謝罪した高梨選手に仲間が贈った言葉がいい。プロスノーボーダーの角野友基さんが「誰も気にせーへんから」と関西弁でコメントすると、北京で競技中の日本代表・小林陵侑選手が短く呼応した。「そゆこと!」▲声に出して読みたい…。20年前のベストセラーを不意に思い出した。誰も気にせーへん、そゆこと。温かさがしっかり届いているといい。(智)

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