スピルバーグ監督最新作など「旧作オマージュ系」作品に込められた理由 発掘された邦画の名匠にも注目

スティーブン・スピルバーグ監督の最新作「ウエスト・サイド・ストーリー」が11日から日本公開される。1961年に公開され、アカデミー賞10部門を獲得した「ウエスト・サイド物語」へのオマージュがささげられているが、今作に限らず、現役クリエイターが触発された作品をリブートする傾向が国内外で続いている。娯楽映画研究家の佐藤利明氏がその現象を解説し、さらには自身が刊行した生誕100年を迎える松竹映画の名匠・番匠義彰監督の作品解説本を踏まえて旧作映画の魅力を語った。

60年代に人気を博した英国の特撮人形劇「サンダーバード55/GOGO」が今年1月に公開されると、「ウエスト・サイド・ストーリー」が2月に続き、5月には樋口真嗣監督の「シン・ウルトラマン」、来年3月には庵野秀明監督の「シン・仮面ライダー」が公開予定だ。

この状況に対し、佐藤氏は「スピルバーグも庵野監督、樋口監督も、子どもの頃に、人生の指針となるような『映像体験』があって、それを再現したい、というモチベーションで、それぞれの作品を作り、映像の新世紀を切り開いてきました。昨年から今年にかけて、彼らが自分の原点である『オリジン世界』を限りないリスペクトを込めてリブートして、それが新たなスタンダードになっていく。それが、このコロナ禍で『同時多発』的に行われているのは象徴的だと思います」と指摘した。

「ウエスト・サイド・ストーリー」について、同氏は「傑作リブートです。庵野・樋口監督の『シン・ゴジラ』同様、オリジナルへの最大の讃辞を込めながら、新たに作る意味を提示し、時空を超えた興奮と感動をもたらしてくれます。61年版でプエルトリコ人のアニタを演じていたリタ・モレノ(※90歳の現役女優)が、今回、舞台にも映画にも登場しなかったヴァレンティーナという重要な役を演じ、21年版の同役(アリアナ・デボース)と対じするシーンには『マルチバース』(※多重宇宙)的興奮があります」との見解を示した。

佐藤氏はAmazon Kindleペーパーバックから「番匠義彰 映画大全-娯楽映画のマエストロ」を今年1月に刊行。「ウエストサイド物語」は舞台で57年に初演され、61年に映画化されたが、まさに番匠監督が松竹で映画を量産していた時期とリンクする。その影響を感じさせる場面は番匠作品にもあったのだろうか。

「番匠監督の『三人娘乾杯!』(62年)に『ウエストサイド物語』上映中のロードショー劇場『丸の内ピカデリー』が登場します。岩下志麻さんと川津祐介さんがデートで、この映画を見に行くシーンで、公開から半年以上ロングラン上映していた同館での人気と熱気が伝わってきます。鰐淵晴子さんと一緒に観ていた大泉滉さんがパンフを手に『フィンガーティップス』をしながら出てくるショットに、60年代の映画ファンに『ウエストサイド物語』がもたらしたインパクトを感じることができます」

では、番匠作品が令和の時代に訴えかける魅力とは。

「1955年から65年の10年間に番匠監督が撮った38作品には昭和30年代の空気が凝縮されています。普通に作られ、量産されていた娯楽映画であるのに、その面白さは驚くほどです。当時の日本映画と比べても、ハイセンス、ハイテンポ、ハイテンションで、モダンでスピーディーなコメディーが味わえます。同時に、今は失われてしまった東京風景や、今も変わらない風景が楽しめます。倍賞千恵子さん、鰐淵晴子さん、有馬稲子さん、小山明子さんたちが、それぞれ主演した『花嫁シリーズ』は、きっと若い女性たちにも共感していただけると思います。映画による昭和30年代の東京探検とともに、彼女たちのレトロなファッションも楽しめます」

新刊書籍と連動し、2月20日から4月2日まで、旧作邦画を上映する都内の映画館・ラピュタ阿佐ヶ谷で「番匠義彰 松竹娯楽映画のマエストロ」と題した特集を行なう。

「番匠監督の作品はどれも面白く、ハズレがありませんが、DVD化されているのは全38作品のうち2本だけ。松竹映画3千本記念作品『三羽烏三代記』(59年)と坂本九さん主演の『見上げごらん夜の星を』(63年)だけです。今回の番匠本は『観られないからこそ、語る』をコンセプトに番匠全作品を詳説しました。ラピュタ阿佐ヶ谷での特集のガイドブックであり、これから楽しむ方々のための道標になり、再発見、新たな評価の機運が高まれば、配信や上映で、番匠作品が観られる機会が必ず訪れると思います」

温故知新の旧作へのリスペクト。初めて見る人にとっては、どんな古い作品でも新作となり、新たな発見がある。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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