監督就任時の期待感消える 内容を楽しむサッカーとは違う森保ジャパン

サッカーW杯最終予選 サウジアラビアに快勝し、笑顔を見せる森保監督(中央)=埼玉スタジアム

 もう森保ジャパンの内容を楽しむことを、期待してはいけないのかもしれない。

 日本代表の試合をW杯の本番で楽しめるか。当然だが、ワクワクドキドキの要素は含まれている。ただ、そのほとんどが結果についてだ。勝ち点を計算しながら、決勝トーナメントに進出できるかどうかの期待や緊張で心が揺れる。しかし、残念ながら大舞台で試合内容を楽しむほど、そのサッカーは成熟していない。

 森保一監督が日本代表を率いるようになったのが2018年の夏。初戦の札幌でのチリ戦が北海道で発生した地震のために中止となる波乱の船出だった。秋口からの強化試合ではコスタリカとパナマに3―0の快勝。10月16日の強豪ウルグアイ戦では、当時アトレチコ・マドリードの守備の要だったディエゴ・ゴディンを手玉に取った。そして、点の奪い合いから4―3の記憶に残る勝利を飾った。

 森保監督のサッカーは攻撃的で面白い。チームの立ち上げ当初は、そういう印象を持った。特に4―2―3―1の2列目に右から並べられた堂安律、南野拓実、中島翔哉という個性的でフレッシュなアタッカーの躍動は強烈だった。その姿を見て日本も世界を舞台に攻撃的なサッカーを演じて戦えるのでは、という期待を多くの人が持ったのではないか。

 しかし、今、大きな期待を抱かせた2列目はかなりしぼんでしまった。堂安はベンチに座り、南野は所属クラブこそビッグになったが、左サイドに配され最終予選8試合でわずかに1得点。中島は代表から遠ざかっている。

 確かに森保監督にはハンディがある。日本代表の主力となる選手が欧州各国に散らばり、チームをつくりにくいという現実だ。ただ、この日本を取り巻く状況は当分変わらないだろう。特にセルティックで活躍する選手の存在で、日本選手は巨額契約を用意しなくても手に入れられると欧州に知れ渡ってしまった。日本代表の編成はますます難しくなる。

 日本代表の試合内容をわれわれが楽しむ機会。それはアジアを舞台にした大会しかない。しかし、2019年初めのアジア・カップでも準決勝まで6試合のうち5試合が1点差勝ち。決勝ではカタールに1―3で敗れた。その事実を振り返れば、森保監督の攻撃サッカーは幻想だったと思える。面白い試合という印象がないのだ。

 3月24日、アウェーでアジア最終予選の大一番、オーストラリア戦が待ち受ける。日本は勝てばW杯出場が確定する。ただ、負ければ得失点差で3位に転落。いまさらながら、格下の中国やベトナムから1点しか奪えなかった昨秋の試合結果が響いてくる。

 アジア最終予選の4試合目、昨年10月のオーストラリア戦以来、森保監督は4―3―3の新システムに切り替えて5連勝している。とはいえ、硬直していないだろうか。確かにサッカーには「勝っているチームはいじるな」という言葉がある。森保監督の頑固さを考えれば、3月のオーストラリア戦も同じ布陣だろう。しかし、次に負けて策を変える余裕など残されていない。現在、なぜ勝っているか。突き詰めれば、必ずしもチームが機能しているのではなく、こと攻撃に関しては伊東純也の存在があるからなのだ。

 今後、伊東が不在になることは十分に考えられる。なぜ、その時のために試すことをしないでここまで至ったのか。硬直したシステムと硬直した交代策。同じ先発メンバーからの定番の交代は、さすがに敵も予想がつくだろう。オーストラリアは確実に対策を練ってくる。それなのに、連係という要素がほとんど見当たらない攻撃陣になぜ手を加えないのだろう。中盤の3人、遠藤航、田中碧、守田英正は実質的に3ボランチで、事実、ゴールの場面にはほとんど絡んでいない。前回オーストラリア戦の田中の先制点が印象的すぎて多くの人が幻想を抱いているだけだ。

 スピード一辺倒ではない、しっかりした技術とアイディアを持ったアタッカーはいる。伊東と右サイドでかぶるが、久保建英や堂安というリズムを変えられる選手をうまく使いこなせないものか。システムも含め、それを工夫するのが監督の役目なのだが。

 現在、日本が採用している4―3―3。久保は興味深いことを語っている。バルセロナ時代に同じシステムを経験した上で「そもそも4―3―3でプレーするチームは世界でも限られている。変な話、圧倒的にボールを保持してポゼッションに絶対的な自信を持っているチームしか僕は見たことがない」。運よく日本がW杯に出たとしよう。格上を相手に、森保ジャパンが4―3―3のシステムを採用するのであれば、中盤の3人はただ守るだけのボランチになってしまうだろう。さらに、機能していない3トップは、伊東のスピードが抑えられればゴールは限りなく遠くなる。

 W杯まで9カ月。今回の日本代表に楽しさは期待しない。ただ、少しは選手たちの個性を生かした戦えるチームにしてほしい。選手個人だけの能力を見れば、過去のチームに比べて穴は少ないのだから。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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