<県政の現場から 2022知事選> 石木ダム、諫干 懸案事業どこまで関心広がるか

知事選候補者に手を振る石木ダムの反対住民=川棚町

 石木ダム建設と国営諫早湾干拓の開門調査は長年、賛否が割れたまま解決せず、長崎県政の懸案となってきただけに、知事選(20日投開票)での論戦が注目される。だが現職の中村法道候補(71)、新人の大石賢吾候補(39)はいずれも石木ダムの「早期完成」を主張。新人の宮沢由彦候補(54)が「見直し」を訴え争点化を図っているが、どこまで広げられるかは未知数。諫干開門調査の舌戦はそれ以上に低調だ。
 選挙戦初日の3日、長崎市内で出陣式を終えた宮沢氏が最初に向かったのは、石木ダムの水没予定地、東彼川棚町川原地区だった。土地収用法に基づき県が所有権を取得した後も反対住民13世帯が暮らす。宮沢氏は県内各地の街頭演説で積極的にダム問題に言及し「立候補するきっかけ。この問題を抜きにして政策は語れない」と最重要視する。
 ただ、ダムの受益圏は佐世保市や川棚町。それ以外で県民の関心を引き出せるかは計り知れない。島原市で宮沢氏の演説を聞いていた30代女性は「(キャッチフレーズの)『ワクワク』しか印象に残らなかった」と冷めていた。
 中村氏は新型コロナウイルス対応を理由に選挙活動を自粛。公約に石木ダムの表記はないが、佐世保市などの支援者からは「4期目こそ完成を」との声が上がる。4日、同市の出発式では朝長則男市長も「石木もあと一歩のところへ来ている」と念を押した。
 大石氏は政策集に「早期完成のために知事自ら現地へ足を運び対話を行う」と盛り込んだものの、演説で触れることはほぼない。陣営関係者は「多くの市民にとっての関心はもっと身近な話題。長崎市で石木ダムの話をしてもピンとこない」と説明する。
 候補者や地域によって温度差はあれど、川原地区の住民は「知事選でこれほど石木ダムが話題になるのは初めて。地域の小さな問題じゃない」と関心と理解が広がるよう期待する。同地区の取材を続ける写真家の村山嘉昭さん(50)は10日、住民13世帯のほぼ全員が出演する動画「石木ダム水没予定地 こうばるの声」をユーチューブに公開。特定候補への支持は求めず「選挙に行きましょう」「ひとごとと思わないで」と投票を呼び掛ける。村山さんは「知事選をきっかけに当事者の思いを知り、ダム問題について考えてほしい」と語る。
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 諫早市小長井町の漁業、松永秀則さん(68)は、やるせない思いで選挙戦を眺めている。
 諫干の潮受け堤防開門の是非を巡っては、訴訟合戦が繰り広げられてきた。2010年の開門確定判決に対する請求異議訴訟の差し戻し審は、今年3月に判決が言い渡されるが、司法判断が抜本的解決にならないことは一連の訴訟結果が示している。漁場悪化を理由に開門調査を求め続ける松永さんは「多くの県民に関心を持ってもらえれば(選挙の)争点にもなる」と願う。
 だが知事選候補者が、国営事業の諫干に言及する機会は乏しい。死者・行方不明者630人に上った1957年の諫早大水害を経験した市内の男性(82)は「潮受け堤防の防災効果は明らか。争点にならないのは当たり前」と冷静に話す。


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