「やることなすこと成功してきた」 元同僚が語る“新庄監督”の可能性と上位進出の鍵

日本ハム・新庄剛志監督【写真:荒川祐史】

新庄監督は「何をするにもしっかり準備する男」

キャンプイン後も抜群の発信力で話題を集める日本ハム・新庄剛志監督。現役時代のチームメートで、自身も「ミスター・ファイターズ」と呼ばれた野球評論家の田中幸雄氏が「BIG BOSS」の成功の可能性と上位進出への鍵を探った。

「正直言って、新庄に監督の資質があるかどうか、現時点ではまだ分かりません」と言う田中氏だが、「彼はこれまで常に有言実行で、やることなすこと成功してきた。今回も彼に引っ張られてチーム全体がいい方向へ行けばいいと思うし、行きそうな気がします」といい“予感”を抱いている。

新庄監督は現役時代、2000年オフにFA権を取得すると、所属球団の阪神が提示した5年総額12億円(金額は推定)の条件を蹴り、わずか契約金30万ドル(当時のレートで3300万円)、年俸20万ドル(同2200万円)でメッツへ移籍し球界を驚かせた。ジャイアンツ在籍時の2002年に日本人選手初のワールドシリーズ出場を果たすなど、3年間過ごしたメジャーで足跡を残した。

2004年の日本球界復帰に際して北海道移転初年度の日本ハムを選択し、入団会見で「札幌ドームを満員にする」「チームを日本一にする」と宣言。現役最終年の2006年に、25年ぶりのリーグ優勝と東映時代の1962年以来44年ぶりの日本一へ導いた。チームは同年から4年間で3度リーグ優勝を飾った。田中氏が指摘する通り、当初は意外に見えた野球人生の決断を、最終的に成功させてきた。

新庄監督が日本ハムに加入した2004年の時点で、田中氏は日本ハム一筋、プロ19年目のチームリーダー。「新庄は非常に明るくプラス思考。メジャーへ移籍した経緯といい、日本ハムでの様々なパフォーマンスといい、普通の人が考え付かない発想力が凄かった。彼のような人間はなかなかいない」と舌を巻く。「チームも新庄の言動で流れが良くなっていった。彼がいなかったら、その後の強い時代はなかったかもしれない」と振り返る。

背景には「新庄をテレビ画面でしか見たことがない人には、理解不能の“宇宙人”と映るかもしれないが、実際には非常に繊細で、礼儀正しく、先輩に気を遣い、何をするにも必ずしっかり準備する男」と田中氏が評する人間性もあった。

日本ハムで活躍した田中幸雄氏【写真:荒川祐史】

「今季はAクラスで十分、ましてや優勝させれば…」

新庄監督の持ち味は指揮官就任後、新たに導入された練習方法にも生かされている。昨年11月の秋季キャンプでは、グラウンド内にワゴン車を入れ、監督自らその屋根の上に立ってノックバットで理想的な高さを示しながら、山なりにならないように送球練習をさせた。そして春季キャンプでは、約3メートルの高さに設置された直径約80センチのフラフープの中を通す「低く、強い」ボールを投げる練習をさせている。斬新で工夫を凝らしたメニューの数々に、田中氏は「選手の能力を高める方法を見出し、提供し続けている」とうなずく。

日本ハムは昨季、開幕直後から最下位に低迷。シーズン最終盤に西武を抜いて5位でフィニッシュしたとはいえ、今季も戦力的に上位進出を予想するのは難しい。「昨年12勝のエース・上沢(直之)、新人ながら10勝を挙げた伊藤(大海)を擁する投手陣はある程度計算できますが、問題は野手陣です」と田中氏は見ている。

昨年のチーム打率はリーグワーストの.231。特に長打力不足が深刻で、チーム本塁打はリーグワーストの78発。2桁本塁打を放った選手は11本の近藤健介外野手だけだった。シーズン中に主砲の中田翔内野手の暴力行為が発覚し、巨人へ無償トレードされた上、オフには西川遥輝外野手、大田泰示外野手も“ノンテンダーFA”として放出。田中氏は「現時点で不動のレギュラーと呼べるのは近藤1人。若手の台頭が不可欠」と語る。

「本塁打が全てではないとはいえ、20~30発打てる選手が3人はいてほしい」と田中氏。新庄監督の指令で約9キロの減量に成功した清宮幸太郎内野手、成長著しい万波中正外野手、高卒3年目の昨季10試合で4番を務めた野村佑希内野手らに期待がかかる。タイプは違うが、快足の2年目・五十幡亮汰外野手も注目の的。「元阪神の赤星憲広氏のような選手になれるかもしれない。五十幡が出塁して即盗塁、近藤が返すパターンができれば得点力は上がる」と田中氏も期待を寄せる。

「今季はAクラス進出で十分。ましてや優勝させれば、新庄の力は凄かったという結論になる」と田中氏。あの手この手で打力をアップさせることが躍進への第1歩となりそうだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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