俳優の堀海登さんを旅のゲストに 流氷、温泉、タンチョウ、夕日 道東の鉄道・JR釧網線にリモート乗車【コラム】

知床斜里駅でキハ54とキハ40が行き違います。キハ54は快速「しれとこ摩周号」として運行されます

北海道の東端を南北に縦貫する鉄道、それがJR北海道の釧網線です。路線は網走―釧路(正式には一駅手前の東釧路)間の169.1キロ。雄大な自然のなかを列車が走り、沿線には知床半島や摩周湖、釧路湿原といった観光スポットが点在します。JR北海道も観光線区と位置づけますが、首都圏からは最遠の鉄道の一つで、乗車にはハードルもあります。

そんな釧網線の旅、幸運にも体験するチャンスに恵まれました。といっても本当に乗車したわけでなく、実際はインターネット配信の映像で旅行気分に浸るオンライントラベル。沿線自治体が2022年2月5日に実施した、「堀海登と行く北海道釧網本線リモートトラベル」を取材しました。網走から釧路へ、川湯温泉で宿泊する一泊二日の旅も、オンラインなら90分のコンパクトサイズ。でも、鉄道や沿線の魅力はパソコンの画面からしっかりと伝わりました。

コロナで遠出が難しい時代 沿線の実行委員会が企画

ツアーを主催したのは、釧路、網走の両市と釧路、標茶、弟子屈、斜里、小清水の5町、それに鶴居村の沿線9市町村で構成する「JR釧網本線維持活性化実行委員会」。釧網線の利用促進に向け活動しますが、コロナで遠出が難しい環境も踏まえ、オンラインツアーを企画しました。実際のツアーは、高速バスや旅行事業を手がけるWILLERに委託されました。

WILLERと釧網線の関係は後段に回し、まずはツアーのアウトライン。オンラインツアー(リモートトラベル、シェア旅とも)にもいろいろあるようですが、今回は沿線の見どころを90分間のコンパクトサイズにまとめ、ゲストも参加するという、テレビの旅番組に近いスタイルで配信されました。

ゲストは堀海登(ほり・かいと)さん。昨年、若手俳優グループから独立してテレビや舞台で売り出し中。スタジオでツアー参加者と一緒に配信映像をみながら、チャットで会話するという、SNS方式の視聴者参加型プログラムが組まれました。

流氷が押し寄せるオホーツク海。堀さんは切り込みのワイプ画像で登場。右側にはツアー参加者のつぶやきがチャットで表示されます

「鮭の漁獲量日本一の町は?」

旅のうんちく・釧網線クイズ。正解は本文の通りで、北海道では全国の9割の鮭が水揚げされるそうです

旅の始まりは網走市。毎冬季、流氷が初めて目視された「流氷初日」がニュースになります。札幌―網走間の特急「オホーツク」からの乗り継ぎで、釧網線の旅が始まります。

コンパクトなオンラインツアーでも、渡り鳥が飛来する濤沸(とうふつ)湖、知床観光の玄関口・知床斜里駅といったスポットは押さえます。鉄道ファンの皆さんはご存じでしょうが、知床斜里駅はJR北海道発足後の1998年に斜里駅から改称され、知床の表玄関という性格が分かるようになりました。

ツアーでは、「鮭の漁獲量日本一は北海道のどの町?」(正解は斜里町です)といったクイズも出題され、旅のうんちくを学べます。

主力は「国鉄キハ54」 「キハ40」の観光列車も

川湯温泉駅からのキハ54は塗り分けが独特です

ここからツアーで紹介されなかった、〝鉄道ファン向けうんちく(?)〟を少々。釧網線の主力はキハ54形気動車です。「国鉄キハ54形」と紹介する資料もあるのは、JRグループ発足前年の1986年、JR北海道とJR四国向けに製作された車両だから。国鉄時代の車両が次々に引退する時代を迎え、そろそろ貴重な存在になりつつある気もします。

釧網線では、もう少し古いキハ40形気動車も現役です。オンラインツアーではキハ54とキハ40がすれ違うシーンも一瞬あったのですが、目を止めたのは私だけかも(80人近い参加者の多くは旅行ファン、そして堀さんのファンのようでした)。

釧網線のキハ40でもう一題。冬季観光列車の「流氷物語号」が2022年1月29日~2月27日、網走―知床斜里間に運転されています。知床斜里行き2本は、〝オホーツク海に一番近い駅・北浜駅〟に10分間停車して写真タイム。網走行き1本は、道の駅に隣接する浜小清水駅の20分停車をお土産タイムにあてるなど、観光利用に配慮します。昨冬に続き、レトロテレビゲーム「オホーツクに消ゆ」とのコラボレーションも話題です。

浴衣姿で「スクショタイム!」

山小屋風の外観で風情ある川湯温泉駅

初日は川湯温泉駅で下車、日本旅館に宿泊します。温泉の映像も流れますが、ここだけは「オンラインで残念!」と誰もが思うはず。「コロナが落ち着いたら、釧網線利用で訪れて」と実行委も呼びかけます。

温泉旅館の正装は浴衣。ツアーでは、参加者限定のスペシャルプレゼントが用意されました。堀さんが浴衣に着替え、参加者のリクエストに応じてポーズを決める「スクショタイム(スクリーンショットタイム)」。チャットには、「スマートフォンの待ち受けにします」のお礼の言葉が飛び交いました。

地ビールを片手にポーズを決める堀さん

「MaaSでひがし北海道の観光振興に貢献」(WILLER)

2日目の釧網線の旅は川湯温泉から終点の釧路までですが、ここで小休止をいただいてWILLERと釧網線の関係を少々。WILLERは2019年、JR北海道や地元とタイアップして交通パス「Eastern Hokkaido Nature Pass2019Winter(ひがし北海道ネイチャーパス)」を発売するなど、道東の観光振興に取り組みます。

前提がWILLER版MaaSで、スマホで移動ルートの検索や予約・決済(支払い)が一発OK。釧網線はJR北海道が「自社では維持困難」とする線区で、WILLERも利用促進に交通・旅行業者の立場で参画します。WILLERの村瀬茂高社長はMaaSセミナーで、「交通空白地帯を埋めるのがMaaSで、自動運転などと絡めながら普及を図りたい、日本国内に続き、海外展開も考えていく」と発言しています。

「SL冬の湿原号」 2月中はDLけん引に

迫力いっぱいの「SL冬の湿原号」。2月はDLけん引で運転されることが画面でも告知されます

ツアー2日目、鉄道ファン目線で注目なのは「SL冬の湿原号」。C11 171号機が5両の客車をけん引。釧路―標茶間を3月21日までの金~日曜日と祝日を中心に運転する計画……でしたが、既に報じられる通りSLにピストン破損が発生してしまいました。

現時点では、2月中はディーゼル機関車(DL)けん引で運転。3月は未定とのことです。JR北海道によると、SLは1940年製造で車齢80年を超し修理には時間がかかるそう。

冬の湿原号の客車は、今季から「たんちょうカー」が初登場。釧路湿原を代表するタンチョウヅルをモチーフに、温かみと高級感ある室内、眺望性を高めた座席レイアウトを採用しました。地元・標茶町などは「DLでも町にお越しいただける方をもてなしたい」と歓迎体制を敷きます。運転再開の日を待ちたいと思います。

側面の窓を大きく広げた「たんちょうカー」。迫力ある沿線の風景が心ゆくまで味わえます

釧路着 幣舞橋から世界三大夕日をみる

釧路湿原を走る釧網線には、タンチョウが飛来する茅沼駅などの見どころが点在。終点の釧路は、インドネシアのバリ島、フィリピンのマニラとともに「世界三大夕日」が知られます。釧路の夕日は、市内中心部を流れJR釧路駅からも徒歩圏の「幣舞橋(ぬさまいばし)が一番のスポットです。

最後に紹介を忘れていましたが、オンラインツアーには、ご当地グルメを届ける有料のミールキット付きプランも用意されました。ご当地グルメは、鮭の加工品「さざ波サーモン」、「ジャガイモ焼酎パウンドケーキ」、ホタテせんべい「ほがじゃ」、網走地ビール「流氷ドラフト」の4種類。私はせっかくの機会なのでグルメ付きで参加しましたが、味覚の面でも釧網線の魅力を味わえたことをご報告して、釧網線の旅を終えたいと思います。

記事:上里夏生(※写真はリモートツアーの画面をキャプチャしたものです)

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