ライバルから友人、チームメイトへ。KeePer TOM’Sの宮田とフェネストラズが狙うは“最年少王座”

 2022年のスーパーGT開幕に向け、すでにGT500クラスでは3メーカーのラインアップが発表され、メーカーテストがスタートしている。いちはやく体制が発表されたTOYOTA GAZOO Racingの6台のGRスープラのうち、最年少となる22歳同士のコンビがTGR TEAM KeePer TOM’Sの宮田莉朋とサッシャ・フェネストラズだ。2019年、全日本F3のチャンピオンを争ったふたりが、3年の時を経てコンビを組むことになった。

■海外からやってきた強敵

「ええ〜……。ホントですか」

 2019年、全日本F3選手権開幕を前にして、宮田莉朋の表情は曇っていた。2017年から全日本F3に参戦していた宮田は、FIA-F4とのダブルエントリーだった1年目には1勝も飾れず、2年目の2018年は初優勝こそ飾れたものの、チームメイトの坪井翔にシーズンは圧勝を許した。迎えた2019年、他の多くの先輩ドライバーたちがそうだったように、3年目にチャンピオンを獲るのは宮田にとって“マスト”とも言える目標だった。

 しかしその年、宮田が所属していたTOM’Sにとって最大のライバルだったB-MAX Racing Teamは、ヨーロッパのジュニアフォーミュラのトップチームのひとつ、モトパークと提携。体制強化に加え外国人ドライバーを多数起用することになった。その中でも注目だったのが、2018年にヨーロピアンF3を戦い、マカオGPでダニエル・ティクトゥム、ジョエル・エリクソンに次ぐ3位に食い込んだフェネストラズだった。

 前年までルノーの育成プログラムで育ってきたフェネストラズは、ヨーロッパでもトップを争っていた存在。そんなドライバーがライバルチームから参戦する。宮田にとってはチャンピオンをかけた一年となるはずだったが、強敵が登場した。参戦が決まったことを筆者から告げたときの宮田の言葉が、冒頭のものだ。

 宮田の不安は的中する。第1戦からフェネストラズに優勝を許し、序盤からタイトル争いでもリードを許した。さらに逆襲を期した中盤戦、ヨーロッパと日本との考え方の相違から、宮田が勝った2レースで車両規定違反を指摘されるなどポイントを落とした。終盤猛追をみせるも、チャンピオン獲得はならなかった。

2019年全日本F3選手権第16戦もてぎの表彰台。優勝のフェネストラズ、2位の宮田、3位の大湯都史樹
サッシャ・フェネストラズ(B-Max Racing with motopark F3)

■お互いを認め合う友人へ

 そんな宮田だったが、2019年の序盤戦の段階で、フェネストラズと「話してみたい」と口にしていた。宮田もいつか海外で活躍してみたいという目標があり、そんな中で戦ってきたフェネストラズと話し、情報や刺激を得たかった。

 ふたりはともに登壇することが多かった表彰式の前後や、レース後の記者会見で少しずつ言葉を交わすようになり、同い年ということもあり少しずつ友情が育まれていった。レースはレースだが、サーキットを離れた後は、電話をしたり、お互いの家に遊びに行くようにもなった。互いの速さを認め合っていたからだろう。宮田が出場したWTCR鈴鹿には、フェネストラズが自費で応援に駆けつけたりもした。

 2020年、コロナ禍のなかのシーズンとなったが、フェネストラズは宮田と同じトヨタ陣営に加わり、スーパーフォーミュラに参戦を開始。GT500でも戦いはじめた。チャンピオンを獲れなかった宮田は「もう4年生ですよ(苦笑)」と言いながらもう一年スーパーフォーミュラ・ライツで戦っていたが、その年にフェネストラズから「莉朋と早くスーパーフォーミュラで戦いたい」という言葉も聞かれていた。そして宮田は、もうひとりの同い年のライバルで、B-MAX Racing Teamに加わった阪口晴南との戦いを制し、スーパーフォーミュラ・ライツ王者となった。

 2021年には、フェネストラズが開幕前に日本に戻れなくなってしまったことから、スーパーフォーミュラではシーズンを通じた戦いは実現しなかったが、2022年、いよいよふたりのシーズンを通じてのフォーミュラでの“再戦”が実現する。そしてスーパーGTでは、ふたりはチームメイトになった。

第17戦を制した宮田莉朋(カローラ中京 Kuo TOM’S 320)
Q2終了直後、タイミングモニターを見つめる宮田莉朋と坂東正敬監督
TGR TEAM KeePer TOM’Sに移籍しサッシャ・フェネストラズ(左)とコンビを組む宮田莉朋(右)

■目指すは平川/キャシディ組の記録更新

 ふたりで臨んだ岡山でのメーカーテストでは、交代で37号車GRスープラをドライブ。前年までヨコハマを履いていた宮田にとっては、初のブリヂストンを履いての岡山でのテストとなった。「去年のGT500も、その前のGT300もそうでしたが、このテストの時期はすぐグレーニングしてしまいなかなかロングランができなかったのですが、ようやくロングランをすることができました。きちんとフィーリングを掴めたので、自分にとって大きなサプライズでした」と早くも好感触を掴んだ様子だった。

 待望のフェネストラズとの仕事については「12月に体制発表された時点で、ふたりの連携はバッチリだと思っていました」と親友ならではの自信をみせる。

ドライビングがどう違うのかなどは、これからテストを重ねていくだけですが、ドライバーとしてのコミュニケーションや、純粋に仲が良く、うまく連携が取れるのは間違いないです。スーパーGTで同一条件で走れることはありませんが、少し違う部分もあれば、感じているのが同じところもあります。うまく合わせていけば、クルマづくりもタイヤづくりもうまくいくと思っています」と宮田。

 そしてフェネストラズも、宮田のチーム加入を歓迎する。「とても興奮しているよ! 望んでいた強力なラインアップで、ふたりとも22歳だから、すごく若いコンビだよね。若いメンタリティとパワーで頑張りたいと思っている」とフェネストラズ。

「今年はすごく楽しみだよ。3年前、莉朋は僕の『競争相手(opponent)』になった。敢えて言えば『敵(Enemy)』ではなくてね! それがいまや、僕のチームメイトになったんだから不思議だよね。一緒に勝利を目指していく立場になったんだ。すごいことだよ」

 迎える2022年、ふたりが目指すのは“スーパーGT最年少チャンピオンコンビ”だ。「今回、TGR TEAM KeePer TOM’Sのチームメイトとして莉朋と一緒に仕事をしたけど、もう良いフィーリングがあるよ。今年は良いシーズンにできると思う」とフェネストラズが自信をみせれば、宮田も「F3で戦っていた頃から『ふたりで一緒に走りたい』という思いもありました」と語った。

「サッシャも僕も同い年で、22歳の最年少コンビなんです。37号車で最年少チャンピオンだった平川亮選手、ニック・キャシディ選手の記録(2017年にふたりとも23歳で達成)を、同じ37号車で更新したいですね」

スーパーGT岡山メーカーテストでのTGR TEAM KeePer TOM’Sの37号車GRスープラ
スーパーGT岡山メーカーテストで話し込む宮田とフェネストラズ
スーパーGT岡山メーカーテストでのTGR TEAM KeePer TOM’Sの37号車GRスープラ

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