重力波望遠鏡「KAGRA」施設内の計測器がトンガ火山噴火の影響を捉えていた

【▲ トンガの火山噴火がKAGRAにもたらした振動(中央の波形)。国立天文台プレスリリースより(Credit: JMA, NOAA/NESDIS, CSU/CIRA, KAGRA collaboration) 】

日本時間2022年1月15日13時頃、トンガの火山「フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ」で大規模な噴火が発生しました。この噴火は潮位変動を引き起こし、気象庁によると岩手県久慈港をはじめ、国内各地で津波が観測されています。

東京大学宇宙線研究所(ICRR)は2月4日、岐阜県の神岡鉱山跡に建設された重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」施設内にある計測器が、遠くトンガで起きた噴火の影響を捉えていたことを明らかにしました。

【▲ 重力波望遠鏡「KAGRA」中央実験室内の様子(Credit: ICRR GW group)】

KAGRAは長い距離を進むレーザー光を利用した「レーザー干渉計」と呼ばれる仕組みを用いて重力波を検出する観測装置です。中核となるのはサファイア製の鏡を使った2組の「合わせ鏡」。KAGRAでは、3km間隔で鏡を設置した合わせ鏡が、L字型のトンネル各辺に1組ずつ配置されています。

2組の合わせ鏡の間では、レーザー光が往復しています。2つのレーザー光の波形は、普段であれば互いを打ち消すように調整済みです。しかし重力波が到来すると、時空のひずみによって鏡の位置がわずかに変化します。すると、合わせ鏡の間隔が微妙に変化することで2つのレーザー光の移動距離に差が生じ、重ね合わせた波形が打ち消されずに光の干渉が生じます。この干渉の様子を調べることで、KAGRAは重力波を検出するのです。

【▲ サファイア鏡(中央の丸い構造)が組み込まれた重力波望遠鏡「KAGRA」の防振装置(Credit: 東京大学宇宙線研究所)】

重力波による時空のひずみは本当にわずかなものであるため(ICRRによれば、地球から太陽までの距離が水素原子ひとつぶん変化する程度)、人間の活動にともなう振動はもちろん、風や波といった自然現象にともなう振動でさえも「雑音」となって、観測に影響を及ぼします。そこでKAGRAでは、レーザー干渉計を地下に設置して振動の影響を和らげたり、摂氏マイナス253度まで鏡を冷却して原子の振動(熱振動)による影響を抑えたりしています。

こうした対策を施した上でもなお観測に影響する雑音を重力波と区別するために、KAGRAのレーザー干渉計がある地下実験施設や神岡鉱山跡の地上では、地震計・空振計・気圧計・磁力計といった様々な計測器が、環境データを集めています。発表によると、これらの計測器が、KAGRAから8000km以上離れた場所で起きたトンガの火山噴火にともなう影響を捉えていたといいます。

【▲ 左:トンガと日本、神岡の位置関係と、環境データの計測場所等を示した図。右:計測器が捉えた環境データを示した図(Credit: 東京大学宇宙線研究所)】

こちらはICRRの発表から引用した図表です。右側に地震計・空振計・気圧計・磁力計が取得した環境データが示されています。発表によると、噴火によって発生した地球規模の地震波・衝撃波・電磁波は、地上だけでなく地下のトンネルでも明瞭に観測されたといいます。

ICRRによると、地下施設が地上からの雑音をどの程度削減できるのかを評価するために、データの詳細な解析が進められているといいます。またICRRは、このように様々な種類の信号を高い精度で同時観測できる施設は世界的にも珍しいとしており、地球物理学、気象学、防災分野にとって有用になることが考えられると言及しています。

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Source

  • Image Credit: 東京大学宇宙線研究所
  • ICRR \- トンガ噴火(2022年1月15日)によるKAGRAの環境データ
  • 国立天文台 \- KAGRAの環境モニターが捉えたトンガの海底火山噴火
  • 気象庁 \- 令和4年1月15日13時頃のトンガ諸島付近のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火に伴う潮位変化について(第2報)

文/松村武宏

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