「才能が開花する前にやめてしまう」 日本ハムスカウト部長が少年野球の仕組みに警鐘

ロッテ・石川歩(左)とオリックス・杉本裕太郎【写真:荒川祐史】

杉本は30歳で覚醒、日本ハムの大渕隆GM兼スカウト部長「野球は夢を見続けていい競技」

長い目で、広い視野で、子どもの可能性を見る。日本ハムの大渕隆GM兼スカウト部長がこのほど、少年野球の未来を考えるPlayers’ future-first Clubのオンラインミーティング「勝つことよりも続けること~少年野球の現状と未来~」で講演し、才能が開花する前に子どもたちが野球から離れてしまうと今の少年野球へ、警鐘を鳴らした。プロ野球界で活躍する晩熟な選手の例として、オリックスの杉本裕太郎外野手やロッテの石川歩投手の名前を挙げ、ひとそれぞれに成長期があることを説明した。

「長期間に渡って子どもたちの可能性を見る必要があります。野球はプロになりたいのであれば夢を見続けてもらっていい競技です。継続することで可能性やチャンスが広がると考えています」

長年、スカウトとして選手を見てきた日本ハムの大渕氏は、今の少年野球の制度や仕組みを変えることで、子どもたちの可能性が広がると説く。グラブやバットという用具を扱う野球は、上達に時間を要する競技だからだ。

少年野球の主流となっているトーナメント方式では、早々に敗退したチームの選手はプレーの機会が少ない。また、勝利至上主義は選手起用が偏るだけでなく、勝つ確率を上げるために四球を狙ったりバントを多用したりするチームが増える。これでは、大器晩成型の選手は才能が開花する前に野球をやめてしまう可能性があるという。大渕氏は「野球は投げる動作や打つ動作が正確にできないと楽しめません。難しい競技なので、成長の時期が非常にまばら」と説明する。

大渕氏はプロ野球界で活躍する晩熟な選手の例に、オリックスの杉本やロッテの石川の名前を挙げる。杉本は大学、社会人を経て、2015年にドラフト10位でオリックスに指名された。2020年までのプロ5年間で本塁打は、わずか9本。ところが、昨シーズンは32本塁打でタイトルを手にし、4番としてチームをリーグ優勝に導いた。石川は東京ガス2年目にドラフトで指名漏れも、翌年に急成長し、ドラフト1位でロッテに入団。プロ1年目から3年連続で2桁勝利をマークし、2017年のWBCでは日本代表にも選ばれた。

継続すれば広がる可能性、投手から野手に転向して成功したプロ選手も

もう1つ、大渕氏が「野球は継続すれば可能性が広がる」と強調する理由はプレーの幅が広いからだ。野球は打つ、投げる、守る、走ると求められる動きは多いが、全てを得意にする必要はない。プロでは足が速い、肩が強いという1つの分野に秀でたスペシャリストが活躍している。

さらに、コンバートして成功する選手もいる。昨シーズンで現役を引退した楽天の雄平2軍打撃コーチはドラフト1巡目で投手としてヤクルトに入団した。プロ7年目の2009年オフに野手に転向。2014年には打率.316でベストナインを受賞するなど、2021年までプレーしている。大渕氏は「投手で結果を残せなかったから野球に向いていないと判断するのではなく、少年野球でも色んなポジションをやらせてみて、選手の可能性を幅広く見ないといけません」と力を込めた。

可能性を見極めるには当然、期間が長い方が良い。野球を長く続けることが大切になる。そのために少年野球に必要なのは勝利至上主義ではなく、「野球の楽しさ」だと大渕氏は考えている。「勝つだけが楽しさではありません。うまくなる、評価される、考える。大人が楽しさを与えて、子どもたちを丁寧に成長させなければなりません」。(間淳 / Jun Aida)

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