かかりつけ医の確保 医療過疎、高齢化で危惧 西海 2022長崎知事選 まちの課題点検・12

市内の医療体制を示す案内板。市外への救急搬送では交通アクセスも課題だ=西海市役所第1別館

 「近くの医院がなくなり、困っているという声が入ってきた。ならば自分が田舎に帰ってやりたい」。長崎県西海市内で診療所の開設準備を進めている医師、永田純一さん(36)は思いを語る。
 同市出身の永田さんは看護師の母の影響で医療に関心を持ち、自治医科大に進学。卒業後は離島などの医療機関で経験を積み、現在は対馬の病院で働いている。離島での勤務期間を終えるに当たり、父や母が残る地元のことが気になった。「やりたいことを突き詰めると勤務医や大学での研究ではなく、地域医療だった」。西海市へのUターンを決めた。市が2020年度に創設した診療所の新規開業や承継に最大6千万円を補助する制度を費用の一部に充てる。
 市が県内初の補助制度に踏み切った背景には医師の高齢化、後継者不在により医師が減少するという医療過疎への危機感があった。
 市は11年に市立病院を民間移譲しており、現在病院2、民間診療所13、離島の公立診療所3。救急病院はなく救急搬送の多くは市外に向かう。産科はなく小児科は一つしかない。「かかりつけ医」である民間診療所の医師の約半数は65歳以上で、継承や新規開業がなければ10年後には半分程度になると市は試算している。
 県の医師確保計画では西海市を含む長崎医療圏(長崎、西海、西彼長与、時津)は医師多数区域としているが、日本医師会のデータによると人口10万人当たりの診療所数は長崎106、時津92、長与88、西海64(全国平均69)と医療資源の偏在もある。県医療人材対策室は「局所的に医師が少ない地区に対策を講じる制度もある。今後も市町の意見を聴取していきたい」と説明する。
 特に子育て世代の願いは切実だ。3児を育てる西海市西彼町の女性保育士(37)は小児科は時津町に、産科は佐世保市に通う。子どもが夜に発熱しても翌朝まで様子を見ることが多かった。昨年6月、2歳の長女が40度の発熱でけいれんを起こした。親戚のサポートで佐世保市の急病診療所まで車を走らせたが、1時間ほどの道のりは「娘はぐったりとしており、気が気でなかった」と振り返る。「小児科や産婦人科、夜間に診てもらえる病院があれば安心。周りのお母さんとも通院の話はよく出る」
 市の補助制度は市内で10年診療を続けることや在宅当番医、学校医などの地域医療に協力することが条件。新規開業に最大5千万円、承継に最大3500万円を補助し、産科と小児科は1千万円上乗せする。これまでに永田さんも含め3件の申請があり、市は「診療所の減少に歯止めを掛けている」と強調するが、子育て世代の小児科、産科ニーズにはまだ応えられていない。
 永田さんは昨年度閉院した大島町の診療所を改装して6月オープンを予定している。「情報通信技術(ICT)の発達で遠隔診療などが今後発展するが、患者さんに直接寄り添える地域医療の継続が理想。一人の力は限られるため、周辺の医療機関とも連携したい」と将来像を語る。離島に勤務した経験も踏まえ「市内をフィールドに若手が地域医療を学ぶプログラムを官民で連携して取り組めば、将来的な医療人材の確保につながるのでは」と提言する。

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