隅田と佐藤の即戦力左腕に期待 最下位からの巻き返し期す西武

キャンプ初日からブルペンで投球練習する西武・隅田=日南・南郷

 プロ野球のキャンプも中盤に差し掛かり、各球団の新戦力が話題を呼んでいる。

 その中でも高い評価を受けているのが、西武の隅田知一郎(西日本工大)と佐藤隼輔(筑波大)の即戦力投手コンビだ。

 2月12日に行われたシート打撃にそろって登板すると、ともに打者5人に対して無安打3奪三振と上々の内容で首脳陣を喜ばせた。

 昨年のドラフトで西武をはじめ4球団が1位指名した隅田は、多彩な変化球を駆使した完成度の高い左腕だ。

 キャンプイン初日のブルペンを視察したOBの松坂大輔氏が「ストレートとチェンジアップだけでも(プロの打者を)抑えられる」と、ポテンシャルの高さに舌を巻いた。

 球団初の国立大出身として話題を集めたドラフト2位の佐藤も、隅田と同じく最速152キロの速球を誇る左の本格派だ。ブルペンで投球を受けた森友哉捕手は「器用な投手で、とにかく球の質が素晴らしい」と評価する。

 西武は上々の滑り出しを見せる両新人に加えて、昨年のドラフトでは3位に大学ナンバーワン捕手と言われた古賀悠斗(中大)の獲得に成功した。

 専門家たちも「最も収穫の多かったチーム」と口をそろえる。昨季、1979年以来42年ぶりの最下位に沈んだチームの再建はこのドラフトから始まった。

 自慢の強力打線は不発に終わり昨季のチーム打率2割3分9厘はリーグ4位。さらに弱体投手陣のチーム防御率は3.94で同最下位だった。

 開幕直後から山川穂高、外崎修汰ら主力野手に故障が相次ぎ、反撃の糸口すら見つからなかったというのが実情だろう。

 強化ポイントは多岐にわたるが、最大の懸案事項は投手陣の再建にある。高橋光成、今井達也、松本航の若手3本柱は、まずまず順調に育っているが、先発の4人目からが心もとない。

 昨年3人に次ぐ勝ち星を挙げたのが渡邉勇太朗らの4勝では最下位も仕方ない。

 とりわけ深刻なのが左腕の人材不足である。

 2018年まではリーグを代表する菊池雄星がエースとして君臨していたが、大リーグのマリナーズに移籍するとぽっかり大きな穴があいた。

 ちなみに18年に菊池と榎田大樹(引退)のサウスポーで挙げた白星25勝に対して昨季、左腕の勝利は2勝だけ。先発要員の不在と左腕エースの誕生を渇望するチームにとって、隅田と佐藤への期待は高まるばかりだ。

 チーム作りをする上で新人選手の獲得は外国人選手補強と並んで重要である。新人獲得のドラフト戦略は大きく分けて二つ。高校生を中心に将来性を重視するか、1年目からの活躍を計算した即戦力の指名かだ。

 前者はヤクルトの奥川恭伸やロッテの佐々木朗希投手らで、初年度は体力づくりに重点を置いて「プロ仕様」に育て上げる。

 一方では、昨年の阪神のように野手の佐藤輝明と中野拓夢に投手の伊藤将司と、いずれも大学、社会人出身者が目覚ましい働きをした。

 それぞれのチーム事情がドラフトには反映されるが、西武の現状はまさに即戦力の左腕が欲しい。隅田と佐藤が前評判通りの活躍を見せれば、チームは一気に生まれ変わる可能性を秘めている。

 さらに付け加えれば、19年の浜屋将太、20年に獲得した佐々木健の両投手も成長次第では先発陣に食い込む能力のある左腕だ。ファンにとっては近い将来の「左腕王国」にまで夢は広がる。

 現状はチーム内のシート打撃や紅白戦でテストされる段階。この先に待ち受けるオープン戦などの対外試合を経て開幕ローテーションが決まっていく。

 それでも、キャンプ視察に訪れたオリックスの渡辺正人スコアラーは両ルーキーに早くも要注意マークをつけた。

 「隅田は本格派。佐藤は(ソフトバンクの)和田っぽい。二人ともローテーションで回ったら(相手は)厳しいでしょうね」

 もし、仮に隅田、佐藤のどちらかが昨年13勝を挙げた宮城大弥(オリックス)や同9勝の早川隆久(楽天)の両左腕並みの成績を残したら、チームは確実に生まれ変わる。

 二人そろって大暴れしたら、間違いなく優勝戦線に加わってくるだろう。

 西武が無敵の強さを誇ったのは1980~90年代は遠い昔。その後、ソフトバンクの天下が続き、昨年のオリックスの「下剋上」優勝で、パ・リーグは戦国時代に突入した。どのチームにも優勝の可能性はあるが、同時に最下位転落もあり得る。

 西武の逆襲はなるのか。その鍵は隅田と佐藤の即戦力左腕が握っている。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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