平戸の洋上風力発電 反対漁業者 長崎県の姿勢注視 2022長崎知事選 まちの課題点検・13

山中会長(左)から署名を受け取る佐賀県新エネルギー産業課の大野伸寛課長=同県庁(佐賀新聞提供)

 長崎県平戸市の的山大島から佐賀県唐津市馬渡島沖にかけての玄界灘はトビウオやシイラなどが捕れる好漁場。タコつぼ漁なども盛んだ。多くの漁師が生計を立てるこの海域で、大規模な洋上風力発電建設計画が初めて持ち上がったのは2年前。広がった波紋は、次第にうねりになりつつある。
 平戸市などによると、この海域では大手企業などの計画が4件あり、エリアも一部重複している。例えば、ある社は最大65基、別のある社は最大75基の巨大な風車を設置する計画だ。こうした状況に対し、市内の7漁協でつくる市水産振興協議会(振興協)や松浦市、佐賀、福岡両県の漁協は昨年秋「反対協議会」を設立し、反対の声を上げ始めた。
 振興協の山中兵惠会長(平戸市漁協組合長)は訴える。「風車を設置すれば、玄界灘を回遊する多種多様な魚が激減し、漁業が大きな影響を受ける」
 反対協議会は今月9日、事業誘致を目指す佐賀県の山口祥義知事宛てに事業計画中止を求める署名約1万9千人分を提出。署名簿には黒田成彦平戸市長や全平戸市議18人の他、県議15人も名を連ねた。
 平戸では、洋上風力発電設備ができれば、その影響は水産、観光、飲食など広範囲に及ぶと心配されている。黒田市長は「特産のトビウオの漁獲に影響する。あごだしは五島うどんなどの食文化や県内外の産業と結び付いている。平戸だけにとどまらない問題」と懸念。平戸観光協会の松尾俊行専務理事も「新鮮な魚と平戸の食を守りたい」と反対姿勢を鮮明にする。

 国は脱炭素社会実現に向け、洋上風力を切り札と位置付けて大量導入を図る方針だ。この流れに沿って、本県では、五島市の福江島沖海域が初めて国の「促進区域」に指定されるなど、他に先駆けて整備の動きが進む。ただ、同区域指定は地元自治体や漁協など利害関係者の同意が前提。唐津沖の計画はまだ、とば口にも立っていない。
 三方を海に囲まれる本県と違い、佐賀県が洋上風力発電事業を推進していく上での「適地」は玄界灘しか見当たらない。佐賀県は、地域経済への波及効果に期待し事業誘致を目指すと明らかにしているが、「具体的にはまだ何も決まっていない。計画のメリット、デメリットを検討していく」とする。
 再生可能エネルギー推進の掛け声の下、国策として進む洋上風力発電。「環境に優しいはずの再生可能エネルギーを、漁業者の生活を壊して進めようとするのはどうなのか」。平戸市幹部は疑問を投げかける。
 一連の経過について、県は取材に対し「玄界灘の計画は漁業者と平戸市が反対していることを踏まえて対応する。佐賀県は丁寧に議論を進めてほしい」と答えた。県が今後、この問題にどんな姿勢で臨むのか。平戸の漁業者らは注視している。


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