さよなら国鉄車両 JR東海、民営化から35年でついに姿消す

By 関かおり

JR東海の新型車両315系。右は211系=愛知県春日井市

 JR東海が旧国鉄から引き継いだ車両が3月、全て姿を消す。保有する最後の国鉄車両211系の8両が、このほどデビューする315系に置き換わるのだ。JR旅客6社の中で、JR東海は最も早く国鉄車両の全廃を迎える。国鉄分割・民営化から間もなく35年。味のあるカラーリングや昭和の趣が残る内装など、国鉄車両の魅力は今でも鉄道ファンの心を捉えている。時代を駆け抜けた車両を巡る関係者らの思いを取材した。(共同通信=関かおり)

 ▽変化の予感

 「この会社は、健全経営というか、ちゃんと経営が成り立つのか?というところからスタートした」。JR東海の金子慎社長は会社発足時をそう振り返る。

 1987年4月、国の行政改革の一環として、国鉄が分割・民営化された。長引く赤字と激しい労働運動で経営が疲弊していた国鉄の立て直しが目的とされ、輸送網や保有車両は地域ごとのJR旅客6社と貨物1社に振り分けられた。JR東海は当時、5兆円を超える国鉄時代の借金を抱えての門出となった。

 発足時、貨車などを除いた在来線車両25種類1335両を国鉄から引き継いだ。車両は順次更新され、2016年3月に気動車「キハ40系」が引退。残った国鉄車両は211系の「0代」と呼ばれる8両のみとなった。

リニア・鉄道館に展示されている0系新幹線の前で取材に応じる天野満宏館長=2021年12月、名古屋市

 JR東海が運営するリニア・鉄道館(名古屋市)の天野満宏館長(64)は、211系と初めて出会った時のことを覚えている。車両の保守・点検に携わっていた当時、国鉄民営化の荒波のまっただ中にいた。先の見えない不安感で、会社全体が暗い空気に覆われていた。そんなとき、爽やかなカラーリングの211系を見て、はっとした。

「何かが変わるぞ」

 ▽再評価される魅力

 民営化後、バブル経済が追い風となってJR東海の収益は改善していった。大黒柱である東海道新幹線は、前部の形状から「団子鼻」の愛称で親しまれた0系91編成と、0系の性能を下敷きに改良した100系7編成を継承した。順調に輸送量を伸ばす中、0系に続き100系が03年9月に引退。300系以降は全て同社発足後の設計だ。

東海道新幹線の100系車両=JR東海提供

 天野館長は技術管理などに関わりながら、数々の車両を見送った。特に急行「東海」としても活躍した165系は、1996年3月のダイヤ改正に伴う急行「東海」廃止の際のセレモニーのことが心に残っている。

 セレモニーではグリーン車の車体に国鉄時代を思わせるラインを入れた。かつては等級を示す帯が引かれており、急行廃止の節目に復活させた。当時の姿のまま、今もリニア・鉄道館に展示されている。

 165系をはじめ、特急車両の381系や快速電車などで活躍した117系など、利用者から引退を惜しむ声が上がった車両は多い。同館を訪れた鉄道ファンの加藤敏勝さん(84)は「外の眺めが良くなるように、窓が大きい設計だったんですよ」と国鉄車両を懐かしむ。幼少期に見た蒸気機関車(SL)、大学受験の時に緊張しながら乗った列車…。思い出がたくさん詰まっている。

国鉄車両165系=JR東海提供

 熱心に展示車両の写真を撮影していた小学5年の立山珀久君(10)は、富山県から来た若手ファンだ。「今の車両とは違う、渋いカラーリングが好き」と興奮気味に話す。クラシカルなデザインや時代を反映した内装など、国鉄車両の魅力は再評価されている。

 ▽最新型もすごい

 JR東海が新たに車両を造る際、国鉄車両は改善すべき点を洗い出すためのたたき台となり、現役車両の礎として今も息づいている。環境性能を高め、バリアフリー設備を拡充した同社の新型在来線車両、315系も同様だ。

 今年2月、JR東海は報道関係者向けに315系の試乗会を実施した。中央線の名古屋―多治見間を片道約40分かけて往復。鉄道素人の記者は「ぱっと見、普通の電車だけど…?」という印象を抱いたが、乗って説明を聞き、細部の機能が格段に向上していると実感した。

 211系と比べ、座席幅は1センチ拡大。座面は腰の負担が少なくなるように形状を変えた。床下の構造にも工夫を凝らし、車内の騒音や振動を減らした。試乗会の後、東海鉄道事業本部の杉山尚之車両部長は「快適な移動空間を提供する。ぜひ楽しみにお待ちいただければ」と胸を張った。

 JR東海は今後、2025年度にかけて315系を順次新造する。

 ▽あれから35年…

JR東海が旧国鉄から継承した東海道新幹線の0系=JR東海提供

 民営化後の35年間で、車両は時代のニーズに合わせて徐々に進化していった。東海道新幹線からは食堂車が消え、最新車両のN700Sにはスマートフォンやパソコンを充電するコンセントが各座席に設置されている。

 一方、リニア・鉄道館は、歴史的な価値のある車両の保存に努めている。中には天野館長が過去に点検していた車両もある。「徹底的にチェックしていた」ため、車両に振られた番号は今でも記憶しているという。役目を終える国鉄車両に、天野館長は穏やかな表情で言葉を投げ掛けた。「本当にお疲れさんだったな」

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