【サンデー美術館】 No.286 「上方の人気絵師 異色の美人画」

▲舞妓覗き見図(部分)三畠上龍  Gift of the Clark Center for Japanese Art & Culture

 「梅の花が咲いてるな。番頭さんに教えてあげなきゃ…えっ! あーっ!」

 粉雪が舞っているのに気付いて、ふと覗き込んだ庭先では、ちらほらと梅が咲き始めている。そんな可憐な春の兆しも、丁稚の定吉(ということにしておく)自身が発した奇声のせいで台無しである。梅の美しさに驚いたからではない。その視線の先に、突如、とびきり美しい女性が出現したからである。おまけに女性の足元ははだけ、その白い脛がほんの僅か、ちらりと見えている。妙な視線に気づいて驚き、後ずさりしたせいである。

 スペースの都合上、皆さんにお見せできないのが残念なのだが、定吉がこんなにも眼をむいて、「あーっ!」と叫んでしまった本当の原因は、おそらくはこの「ほんの僅か」の「ちらり」のせい。

 定吉の顔の馬鹿馬鹿しいほどの仰々しさは、抑制された「ちらり」を増幅させるために仕込まれた、巧妙な仕掛けなのである。

※「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展」 (3月1日から)展示作品より

山口県立美術館副館長 河野 通孝

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