土木遺産も最新鋭機も活躍~京葉臨海鉄道

 【汐留鉄道俱楽部】澄み渡った空と水平線の間に、もくもくと白煙を噴き出す煙突が並んで見えた。東京都内から東京湾を眺めると、見通しの良い日に限って拝める遠景。千葉県に広がる京葉工業地域の一角だ。東京湾沿いにある大企業の巨大工場の多くは千葉県と神奈川県に立地しているため、両県の海沿いには貨物専用の臨海鉄道があり、原料や製品の輸送に活躍している。今回は千葉県の京葉臨海鉄道を訪れた。

京葉臨海鉄道が誇る最新鋭のDD200形ディーゼル機関車

 まず「京葉つながり」で東京駅からJR京葉線に乗り、終点の蘇我駅を目指した。京葉線はしばらく地下を走り、最初の地上駅の潮見駅を抜けて大きなカーブを曲がると新木場駅で、この先は直線が続く。ようやく高速走行とともに車窓の海を楽しめるようになった。

 電車は葛西臨海公園、東京ディズニーランド、住宅街を見ながら踏切の無い高架線を走り抜け、二俣新町駅の周辺から工業地域らしい風景になった。もともと貨物線として建設された京葉線の原点といえる先行開業区間である。今でも埼玉県方面から武蔵野線を走ってきた貨物列車が、この付近で新木場方面からの線路と合流して蘇我駅まで行く。

 蘇我駅は京葉線、内房線、外房線の乗換駅だけあって、3面6線の規模を誇る。乗り入れる電車は京葉線の10両編成のほか、総武快速線と直通する内房線、外房線の15両編成、内房線や外房線の4両編成など多種多様だ。さらにホームの海側には、貨物専用の線路が並ぶ。

 武蔵野線、京葉線を走ってきた貨物列車は、JR貨物としてはここが終着駅になり、この先は京葉臨海鉄道に乗り入れる。JRの電気機関車から切り離された貨物車両は、京葉臨海鉄道のディーゼル機関車に引き継がれ、京葉工業地域の各工場へ進む。

 京葉臨海鉄道は蘇我駅からしばらく内房線と並走する。内房線を離れると、きれいな戸建てが並ぶ閑静な住宅街へ。さらに住宅街の外れで線路が東京湾岸道路の高架橋をくぐると、沿線は工場街に変わる。同時に線路は工場の敷地と敷地の間に吸い込まれ、貨物列車を観察できなくなった。最大の見せ場と思って楽しみにしていた「千葉貨物ターミナル駅」も、敷地外から車列を見ることは不可能だった。強めの海風が冷たかった。

 気を取り直して地図を頼りに歩くこと数十分。今回の目的地の一つにしていた「村田川橋りょう」というトラス橋に着いた。ごつごつした鉄の骨組みは頑丈そうで貫禄十分。米国製で1912年に東海道本線の大井川橋りょうとして架設された後、使われなくなってから京葉臨海鉄道が再利用した。小さな川を渡るにはオーバースペックに見える反面、どっしりとしていて安定感がある。

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村田川橋りょうを渡る貨物列車

 古いだけではなく、土木学会の選奨土木遺産に選ばれた価値ある施設だ。それでいて化学薬品臭が立ちこめる工場街で風雨に耐え、現役の橋として貨物線を支える力持ち。「貴重な遺産」なのに今も酷使されているというギャップがたまらない。しばらくとどまって貨物列車を待った。車は次々に通り過ぎるが、歩く人には会えなかった。

 しばらくすると汽笛が聞こえた方向に、青っぽい車体が浮かんできた。やって来たのは、国鉄DD13形に似た車体のディーゼル機関車だった。小さな機関車が重そうな貨物列車を引っ張る姿を見ると、応援せずにはいられない。線路の反対側に行けば順光で撮影できるのに、工場なので立ち入り禁止。こっち側は強烈な逆光なのが残念だった。

 日差しが強いので、順光ポイントを求めて歩いた。道路沿いに光線の良い場所を見つけたところで踏切が鳴った。赤い車体が見えてきた。これは2021年夏に導入されたばかりの最新ディーゼル機関車「RED MARINE」ことDD200-801号機ではないか。現時点では京葉臨海鉄道に1両しかない形式。これまでの疲れが吹き飛んだ。

 DD200形は、JR貨物が国鉄形のディーゼル機関車を置き換えるために開発した。京葉臨海鉄道も従来タイプの機関車を置き換えるようだ。同社の機関車は薄い青色の車体が特徴だが、新型のDD200形は赤く塗って「RED MARINE」という愛称まで付けた。関係者の気迫が伝わってくる。

 もう少し歩けば、遮断棒が12本もある踏切に行けるはずだが、次回の楽しみに残しておく。京葉臨海鉄道の沿線にはコンビニが多いし、撮り鉄が殺到することもないだろう。どの機関車がどのタイミングで走ってくるか予測できないのが玉にきずだが、ディーゼル機関車がけん引する貨物列車をのんびり撮影できるありがたい路線だった。

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☆寺尾敦史(てらお・あつし)共同通信社映像音声部

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