戦力外となった広島時代とどう違う? A組昇格の鷹育成右腕が高知で遂げた“変貌”

2回を投げて無安打3奪三振無失点と好投したソフトバンク・藤井皓哉【写真:福谷佑介】

16日に紅白戦に参加し2回無失点と好投、17日からA組に昇格

巡ってきたチャンスでいきなり“昇格”の切符を掴み取った。16日に行われたソフトバンクの紅白戦。藤本博史監督が「今日1番の目玉。良いとは聞いていたけど、ここまで良いとは思わなかった」と絶賛したのが背番号「157」だった。藤井皓哉投手。広島から高知を経て、育成選手としてソフトバンクに加わった25歳の右腕は、同じ育成右腕の中村亮太投手と共に17日からA組に昇格することが決まった。

このキャンプはB組で練習を続けてきた藤井。この日、A組の紅白戦に参加し、6回から登板。甲斐を二飛、中村晃を147キロの真っ直ぐで空振り三振、今宮も二飛に打ち取って3者凡退。7回は井上、柳町を連続見逃し三振。高田に四球を与えたものの、海野を149キロで左飛に打ち取って2回を無失点に抑えた。この日の最速は150キロをマークしていた。

「結果にとらわれず、この時期にA組に呼ばれたことをプラスに考えて、緊張もあったんですけど、1軍で活躍されている選手がたくさんいる中で勝負できたのが良かったなと思います。(150キロは)あまりスピードは気にしていなかった。持っている力をバッターに対して出していこう、とやった結果だと思う」と登板後に振り返っていた右腕。紅白戦後に首脳陣から17日からのA組昇格を伝えられた。

2014年のドラフト4位で広島に入団した藤井。2017年に2試合、2018年には8試合に登板し、1軍の経験を積んでいたものの、2019年は4試合に登板機会を減らし、2020年は1軍昇格なし。そのオフには戦力外通告を受けた。12球団合同トライアウトを経て、加入した高知では、ソフトバンクとの3軍戦でノーヒットノーランを達成。11勝、防御率1.12、180奪三振で最優秀防御率と最多奪三振のタイトルを手にし、ソフトバンクとの育成契約を掴んでNPBへの返り咲きを果たした。

「もう一度野球の楽しさ、投げる喜びを知れたのが大きかった

広島時代から一体、どんな変化があったのか。藤井はこの日の登板後にこう語った。「広島の時は、結果にこだわりすぎて、自分の投球ができなかった。今は結果も大事になってくるんですけど、そこにとらわれ過ぎず、純粋に野球を楽しもうと思ってやっています。1軍に行くと、結果が悪ければ落とされてしまうので、そこを気にしすぎていた部分があった」。1軍争いにおいて、結果を追い求めるがあまり、自分と自分の投球を見失ったのだという。

それに気付き、意識を変えてくれたのが、高知だった。「四国に行って、結果より野球を楽しもうという思いでやってきました。もう一度野球の楽しさ、投げる喜びを知れたのが大きかった。技術的なこともあったと思うんですが、それよりもそういう気持ちの面が僕にとって大きかった」。印象的だった野球の楽しさ、投げる喜び、というフレーズ。自身が何のために野球をやっているのか。その原点に気付くことができた。

独立リーグは当然、環境面ではNPBに遥かに及ばない。練習場所も、トレーニング環境もどう考えたって劣る。その中で藤井は“考える力”も得た。「練習するにしても練習相手を探したり、器具をどう工夫していくか。工夫することで頭を使う。それがいい方に働いていったと思うので、厳しい環境でしたけどプラスになりました」。高知での経験を経て、一回りも、二回りも成長して、再びNPBの舞台に戻ってきた。

藤本監督は「なんで広島クビになったんかな、と。真っ直ぐもズドンとくるし、スライダーもキレがいい。選手にもどんな感じか聞いたら、びっくりするような感じを言っていた。面白いかな、と」と大絶賛。キャンプインからA組にいる重田倫明投手、同じくA組昇格が決まった中村亮と共に「3人は支配下に近い」とまで評価していた。初の紅白戦で強烈なインパクトを残し、A組昇格を決めた藤井。一度は戦力外の憂き目に遭いながらも、NPB返り咲きを果たした25歳はこの先支配下昇格を勝ち取れるのか。ここからのアピールに注目だ。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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