【『中国、13の嘘』】林芳正外相問題の深刻さ|古森義久 「日中友好、新型コロナ、ウイグル・ジェノサイド否定、パンダ親善大使、核先制不使用……国家ぐるみの虚偽(フェイク)が白日の下にさらされる」――産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏だからこそ書けた秘密主義国家が最も隠したい真相情報と米中対立の内幕『中国、13の嘘』が発売中! 今回は本書から一部特別公開!

アメリカも問題視している日中友好議員連盟

2021年11月の岸田文雄新政権のスタートにあたって、思いがけない中国の触手が話題となった。

岸田政権の新たな外務大臣に、衆議院議員(山口三区)の林芳正氏が任命されたことだ。

ベテラン政治家の林氏は日中友好議員連盟の会長だった。

この組織は長年、中国側から「中日友好団体」と名づけられ、中国側の意向を忖度する動きで知られてきた。

尖閣諸島問題などで中国共産党政権が日本への敵性を示し、国際的にも人権弾圧や軍事恫喝で反発を招くなかで、中国側に媚びるような動きをみせてきた団体のトップが日本国の外務大臣となる。

しかもこの友好議員連盟は中国政府が対日政治工作で利用する問題の組織としてアメリカ側からも警戒されてきたのだ。

こんな事態に対して日中関係の変遷を長年、考察してきた一員として、私はまず「この時期になぜこんな人事を」との疑問を禁じえない。

日本全体が中国に対して厳しい姿勢で抗議や反対を表明しなければならない環境下なのに、こんな媚中の言行録がある人物が日本の外務大臣となることへの懸念を感じるのである。

林氏は外務大臣への就任と同時に日中友好議員連盟の会長を辞任した。理由は「無用な誤解を避けるため」。

「無用の誤解」とはなんなのか。

林氏のような中国への全面協調の姿勢をみせてきた政治家が、いま日本の外相になることを懸念するのは「無用」なのか。そもそもそうした懸念を覚えることは「誤解」なのか。

決してそんなことはない。

その理由を、日中友好議員連盟の実態と林氏のその組織へのかかわりを報告しながら説明しよう。

名称だけなら国際交流組織だが……

中国共産党政権は1972年の日本との国交正常化の当時から、日中友好議員連盟を「中日友好団体」と呼び、特別に重視してきた。

日中友好議員連盟がいまの名称で発足したのは、厳密には日中国交正常化の翌年の1973年だが、その前身は「日中貿易促進議員連盟」だった。国交のない1952年に結成された同促進議員連盟は日中両国の貿易、そして国交を求める親中派議員の集まりだった。

1950年代といえば、日本は中華民国(台湾)との国交を保ち、中華人民共和国とは距離があった。だが日本の一部では日中友好運動がイデオロギーや贖罪(しょくざい)意識ともからみ、左傾した政治運動として勢いを広げていた。

だから日中友好のこの議員連盟は、中国政府と直接、緊密な連携を保ち、日本の当局や世論に親北京政府の政策をとるよう働きかけてきた。そんな出自の団体なのである。

日本側で「日中友好」をうたう組織を、中国側は「中日友好七団体」と呼称する。

・日中友好議員連盟
・日中友好協会
・日本国際貿易促進協会
・日中文化交流協会
・日中経済協会
・日中協会
・日中友好会館

7団体のなかでは現職の国会議員を抱える友好議員連盟の影響力が圧倒的に大きい。

だがその友好議員連盟が、中国共産党の対外秘密工作を実施する統一戦線工作部に利用されることもあるという警告がアメリカ側から発せられた。この点は後述する。

日中友好議員連盟は名称だけみれば、日本の国会議員が他国の同様の議員たちと意思疎通をするという、ふつうの国際交流組織のように映るだろう。(中略)

中国側に議員はいない

だが中国との交流はとくに「友好」という言葉を正式名称に入れて、強調する。日本と中国はそもそも友好的な関係にあらねばならないという前提を誇示するわけだ。

日中友好議員連盟が他の議員連盟と異なる、さらに大きな特徴は、中国側には議員が存在しない点である。

この連盟への参加者は日本側ではもちろん、一般国民の自由な選挙で選ばれた超党派の国会議員である。だが国民の自由な選挙による議会が存在しない中国側では、そんな議員はいないのだ。

この連盟での中国側の「議員」は全国人民代表大会(略称・全人代)の代表だとされる。

だがその代表は共産党の独裁支配の中国では日本のような一般国民の選挙では選ばれず、共産党の指名や推薦に限られる。国民が選ぶ議員ではないのだ。

日本の主要メディアは全人代を評して「日本の国会に相当する」などという表現を頻繁に使う。だが全人代は国会ではない。立法府であるふつうの国会ならば法案を審議して、可決もするし、否決もする。

だが中国の全人代では審議される法案が否決されることはない。絶対の権限を持つ共産党政権の意思に全人代が逆らうことはないからだ。

日米同盟関係を堅固措置はすべて中国敵視政策

孔鉉佑大使と中友好団体責任者とのビデオ階段

中国政府は日本との折衝で、日中友好議員連盟をきわめて重視してきた。日本側への中国の政策や要求などの売りこみには、いつもまず同議員連盟を始めとする中日友好七団体を最初の伝達相手としてきた。

日本の議員の側も、ここ2年ほどはコロナウイルス大感染や日中関係の悪化のために中国への友好的なアプローチは目立たなくなったが、かつては北京詣でが花盛りだった。その主体は日中友好議員連盟だった。
(中略)

北京にくる日本の国会議員たちはみな中国側の要人と会い、中国側の日本や日中関係についての主張に耳を傾け、その骨子を北京駐在の日本人特派員たちに発表する。

そのころ中国は江沢民国家主席の下で日本側に対して「過去への反省が足りない」と非難していた。「日本では軍国主義が復活しつつある」などという批判もあった。中国の国内では日本について戦後の対中友好政策をまったく教えず、戦時中の日本軍の残虐行為だけを教える反日教育が徹底していた。

中国政府はまた日本がアメリカとの同盟関係を堅固にする措置はすべて中国敵視政策だとして糾弾していた。

だが北京を訪れる日中友好議員連盟の議員たちからは、中国側のそんな不当な日本非難を批判したり、反論する人物は出てこなかった。とにかく中国側の主張をただただ拝聴するという「対中友好」だったのだ。

中国側はその後、現在にいたるまで日中友好議員連盟などの友好7団体を異様なほど丁重に扱ってきた。中国の首脳の訪日でもこれら友好団体の代表を特別に優先して招き、会見し、懇談するという慣行を保ってきた。

日本の中国大使館でも年頭の挨拶や特別な記念日には必ずこれら友好団体の代表を招待して、中国大使との友好的な交流を進めてきた。中国側のこの姿勢はいまも変わらない。

中国政府が対日工作では日本側の日中友好議員連盟を筆頭とする7団体をいかに重視し、依存するか。2021年1月にも日本駐在の孔鉉佑駐日大使が、林芳正議員をはじめ友好七団体の代表を招き、ビデオ会議を開いた。東京の中国大使館は大使が日本側の友好団体を呼びつけるように、連帯の会議を長年、定期的に開いてきた。

北京五輪への全面協力を表明

駐日中国大使館の公式サイトによると、この会議で孔大使は林氏らと新年の挨拶を交わし、日中両国の交流と協力を同意しあった。しかも林氏は他の友好団体の代表とともに以下の言葉を述べたというのだ。

「中国のコロナ対策や経済成長の成果を積極的に評価し、北京冬季オリンピックに協力し、両国の世論基盤を改善して、友好事業を絶えず新たに発展させ、良好な雰囲気で2022年の日中国交正常化50周年を迎えたい」

まさに中国への全面協力の言辞である。林氏は北京オリンピックに対して全面協力を約束していたのだ。この言動の事例一つをとっても、林芳正という政治家がいまの日本の外務大臣になることへの適性が疑われてくる。

中国で開催される2022年2月の北京冬季オリンピックに対しては、中国政府の人権弾圧の多数の事例を理由に、アメリカ・バイデン政権は21年12月7日、外交ボイコットを決めたと発表した。オーストラリアやカナダも同じ措置を決めた。イギリス、リトアニアなどヨーロッパ諸国も多くが同様のボイコットへと傾いている。

自由民主主義を標榜する米欧諸国では北京五輪への無条件参加は中国の人権弾圧への黙認につながるとして、バイデン政権のように少なくとも政府代表が北京五輪には加わらない外交ボイコットを提唱する声が広がっていた。

岸田政権は中国の人権弾圧は無視しないという姿勢を明確にして、人権問題担当の首相補佐官を初めて設けたばかりである。その補佐官となった中谷元氏は、中国政府のウイグル人弾圧などに対して、議員としては果敢な批判を表明してきた。そんな岸田内閣の外相という中枢に林氏が就任したわけだ。

アメリカのバイデン政権は同盟国の日本にも中国への強固な姿勢の同調を水面下では求めるだろうが、その際に日本の外相が親中一辺倒、北京五輪へもいち早く条件なしの協力を約していたとなると、アメリカ側も当惑するだろう。

中国に抗議・反対を全くしない日中友好議員連盟

程永華駐日大使,日中友好議員連盟総会に出席

林芳正氏はそもそもどんな経緯で日中友好議員連盟の会長になったのだろうか。

林氏は山口県の名門政治家の家に生まれ、1995年に参議院議員選挙で当選して以来、五期在任、その間、防衛大臣や農林水産大臣を務めたベテランである。だが21年11月の総選挙では衆議院に転じて当選した。首相の座を目指すため、と観測される動きだった。

林氏はハーバード大学院修了やアメリカ議会上院でのスタッフ補佐の体験があり、知米派とされてきたが、近年は中国との接触に努めてきた。その理由の一つは父親の自民党長老だった林義郎氏が中国との縁が深く、日中友好議員連盟の会長も務めたことだとされている。

林芳正氏が2017年12月、日中友好議員連盟の会長になったときの同連盟の会合には当時の日本駐在の中国大使、程永華氏が出席して、林氏への祝辞などを述べていた。

駐日中国大使館の公式サイトの記録によると、程大使はこの演説で中国と日本は「平和、友好、協力への大方向の下に一帯一路の推進に協力して、中日関係の前向き善意の政策をとる」と強調した。

そのうえで程大使は林氏の同議連会長就任を祝って次のように述べたという。

「日中議連が林芳正新会長の積極的で力強い指導の下、引き続き優れた伝統を発揚するとともに朝野各党のより多くの若い政治家を迎え入れ、一層豊かで多様な交流活動を繰り広げ、中国の発展に対する日本各界の客観的認識をけん引し、中日実務協力、中日友好促進のために一層積極的な役割を果たすよう期待している」

以来、4年余り、日中関係は中国側の規範破りの行動によって悪化した。日本に直接に影響する動きとしては中国の武装艦艇による尖閣諸島の日本領海への継続的な侵入、中国で活動する日本企業への不透明な圧力、日本人の学者や企業人の理由を公表しないままの逮捕や拘束、年来の反日教育の継続などだった。

さらに中国当局によるウイグル人やチベット民族の弾圧、香港での民主主義の抑圧、台湾への武力での威嚇など国際的な規則違反も目立ってきた。

しかし中国側との接触が日本側でも最も頻繁なはずの日中友好議員連盟はこうした諸点についての中国側への抗議や反対をまったく表明しない。

実は私自身、外相就任直後の林氏にこの点を質問したことがある。BSフジのプライムニュースという討論番組に林氏とともに私も招かれ、直接に話しあう機会があったのだ。

林氏はこの種の日本側の主張について「中国側に非公式には伝えている」という趣旨を述べた。だが非公式では意味がないのだ。日本国として表面で、公式に、オープンな形で日本の主張を述べなければ、なんの効果もない。日本側のだれが、いつ、どこで、中国側のだれに、なにを伝えたのか、具体性がなければ、そんな主張が果たしてあったのかも、疑わしくなる。

要するに日中友好議員連盟が、中国政府に抗議や反対を公式に述べたことはないとの記録はそのままなのである。

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