小出恵介主演 舞台「群盗」 演出 小栗了 インタビュー

「群盗」は、フリードリヒ・フォン・シラーの戯曲第1作。1781年に完成し、匿名で自費出版、翌年にマインハイム国民劇場にて初演。この作品は理想に燃えるシラーの、自由への願望と正義心の現れと言われている。権力に反抗する崇高な主人公、観客に強烈な衝撃を与え、初演ではとりわけ若者たちに支持され、拍手と歓声が鳴り止まなかった。翌年の1782年、シラーはシュトゥットガルトを出奔する。また、日本ではとりわけ、ヴェートーベンの第九交響曲第4楽章の「歓喜の歌」が有名、これはフランス革命直後、シラーの詩作品「自由讃歌」がラ・マルセイエーズのメロディでドイツの学生に歌われていたが、その後、書き直された「歓喜に寄せて」をヴェートーベンが歌詞として1822年〜1824年に引用、書き直したもの。ヴェートーベンは1792年にこの詩の初稿に出会って感動、曲をつけようとしているが、実際に第九交響曲として1824年に完成した時には1803年改稿版の詩を用いている。長年、オペラ制作に関わり、この2月18日に開幕する舞台「群盗」の演出を担う小栗了さんのインタビューが実現した。

――今回「群盗」という作品を選んだ理由についてお聞かせください。

小栗:父・小栗哲家の仕事の関係で毎年、大阪でMBS(毎日放送)さんが行っている「サントリー1万人の第九」(注1)のスタッフをやっていたんです。第九の第四楽章の歓喜の歌の詩、「歓喜によせて」シラーの詩で曲をヴェートーベンが書いています。「歓喜によせて」のイベントで詩の部分だけ役者が朗読するのを毎年やっていたんです。僕のイメージではシラーは詩人。ところでシラーの作品は他に何があるだろうかと調べたら「群盗」が処女作であると…劇場を新しく立ち上げるということもあり、興味を持って読んでみました。僕自身感情的な人間なので、感情が非常にあらわに出る作品だなと、これをやりたいなと…実は小出くんには随分前から出演をお願いしていまして、彼の事務所が決まる前に、僕はインスタで小出恵介くんを見つけ、ダイレクトメッセージで口説いたんですよ。本来でしたら、MIZUHODAI WAREHOUSE(注2)の柿落とし公演でしたので、その意味合いと、あとは小出恵介が役者として復活するという意味としても「こういう作品がいいんじゃないかな」と…、あとは僕としては「サントリー1万人の第九」をずっとやってきたので…今回の作品では第九をベースにしているところがあるんです。
本当は去年上演予定だったんですよ、しかもヴェートーベン生誕250周年…調べたら、ヴェートーベンはこのシラーの詩が好きでそれに曲をつけたいということで第九交響曲が生まれた、これは「1万人の第九」をやっている時にいろんな方から聞いていたので、その2つを繋げてやってみようかなっていうのがスタートです。

――それでシラーの処女作なのですね。

小栗:そこもかけて。あとは古典劇がやりたかったっていうのもあるんです。子供たちに古典劇をわかりやすく見せてあげたいなと。彩の国さいたま芸術劇場では、彩の国シェイクスピア・シリーズと銘打って蜷川幸雄先生が1998年から37全ての作品上演を目指していらして、それを吉田鋼太郎さんが引き継いで、昨年達成なさいましたが、シェイクスピアといえば、もう『彩の国』ですよね。だったらMIZUHODAI WAREHOUSEはこのドイツものをずっとやっていく劇場にしても面白いかなと思ったんです。

――ドイツの作家も多彩ですね、「ブリキの太鼓」とか。この「群盗」ですが、放蕩息子がいてその息子をお父さんは溺愛し、弟は父の愛情が薄いと感じ、兄に嫉妬し、悪だくみをしますが、今回の見どころは?

小栗:ドロドロはしていますが、シリアスにやるつもりはなく…もちろんシリアスにやらなきゃいけないところはあるんですが、色々遊びを入れているつもりです。今、稽古は半分ぐらいまで進んでいますが、本を読んだときに、いい意味で僕も崩したいと思っていたところがありまして、役者さんに演じながらやってもらっていると、もっともっと僕の予想を超えるいい崩し方が入ってきていいバランス感になっているんじゃないかなと思っています。普通にやったらすごくシリアスになってしまう、主人公・カールの弟であるフランツに関してはとことん遊んでくれと言っています。半分気が狂った奴でもいいかな?と思っているんですよ。キャラクター化してすごくデフォルメしている、そんな感じのフランツにしていたり。盗賊たちも、本来は大学生ぐらいの歳の若者が集まるところですが、ここを脚色しているのですが、彼らの“スタート”、ザクセンの居酒屋から始まるんです。全員があんまり若い奴らでやっちゃうと色が立たないなと思ったので。僕の設定上は居酒屋で出会った人たち。だから歳の差もつけたりもしていますが、それをつけたことによって生まれるシナジーもあるんじゃないかなと。僕はここに出てくる人たちは誰も悪者はいないと思っているんです。

――そうですね。私もこの中で一番可哀想なのは悪だくみをする弟・フランツじゃないかなと思っています。

小栗:そうですね。その環境の中で自分が求めるものを一生懸命に生きた人たちの塊だと思っているので、最後には僕なりに救いがあるエンディングになっています。僕は単に悲劇が嫌いなだけです(笑)

――確かにストレートにやったら悲しいまま終わってしまいますね。

小栗:そうなんですよ。役者さんたちの力で意外とちょっと笑えるところもあったり、ほろりとくるところはどこまで感情移入できるかわかりませんが、そういうところも作っています。最後は様式美で終わっています。僕は基本的には全員、「さびしんぼう」だと思うんです。盗賊団の人たちは群れを成すし。カールもアマーリアも、フランツにしても、人間は1人では生きられない。フランツは特に君主になったところから階段を転げ落ちるように周りから人がいなくなっていくような感覚がある。でもフランツに関しては、「面白おかしくやって」って言っていますし、シュピーゲルベルクに関しては「一回も戦ったことのないやつ」と思っているので。ここはすごくコミカルにやらせています。
正直、僕自身は芸術家ではないと、基本、エンタメ屋さんだと思っているので…多分、みんな「群盗」は難しい作品と思っているのではないかと。でも、こうやれば、エンターテインメントになるんだよっていうのをやりたい。オペラ業界には20歳ぐらいの時からいますが、古典に関して…例えば初演が50年前のものでも、物語が当時の設定のまま上演されたりしていまして、それを現代人、とりわけ若い人がわかるのかな?って思っていたんです。そんなのをちょっと感じておりましたので、この「群盗」という古典劇をなんとかわかりやすく見ていただいて「古典って難しくないね」って「次はちょっと違うところで見てみよう」って思ってもらえるようなことをしたい。クラシカルなもののハードルを下げること、それならば、僕ができることなんじゃないかなと思ってやってる部分があります。

――最近のオペラも古典をそのままやるのではなく、コロナ前ですが「カルメン」をハリウッド映画業界にして、エスカミーリオはハリウッドの大スターになっていました。

小栗:「カルメン」が発表された時代では闘牛士が大スターですが、現代の人たちにはピンとこないですよね。昔のお話はストーリーがシンプルなので置き換えやすいんですよね。「フィガロの結婚」や「こうもり」も現代風にやる方がいらっしゃる、僕も若い頃にオペラの現場を色々やってきているのと、特にありがたいことにかなり著名な演出家の現場に稽古からついてやってきたっていうのがありますので、そういう方たちの現場を見ていると発想とか、そういうところはすごく学んできましたし、僕自身もそういうことができたらなと思っていました。でも、今回は意外とクラシカルには作っていますよ(笑)

――最後に読者の方へメッセージを。

小栗:僕がもっと広告上手だったらお客呼べるんですが(笑)。まずはこのコロナ禍の中でみんなが同じ方向を向かなきゃいけないっていうような世の中になっているじゃないですか。例えばコロナに対しても考えがあっても、日本人はどうしても大勢に流される、そういう部分もあると思います。だからこそ、この作品を見ていただくと、意志を持つ大事さや自分なりの考えて動いていいんだってきっと思っていただけるんじゃないかな?と思います。それとコロナで鬱屈している部分を発散できるような作品になっているので、エンターテインメントとして最後、僕が気持ちよく脚色していますので、ストーリーは悲劇ですが、最終的には「こういうこともあったのね」と、こういうことをみんなが望んでいたのねっていう終わり方をしますので、そこを見て頂けたらグジュグジュしている気持ちが少しでも晴れていただけるんじゃないかな?と思っています。あとね、小出恵介が素晴らしいです!ぜひ、いらしてください。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

(注1) ヴェートーベンの交響曲第9番の演奏と合唱を主体として構成。1983年から毎年12月の第1日曜日に大阪城ホールで開催。「1万人の第九」と銘打っているのは、公演のたびに一般からの公募などによって1万人規模の合唱団を結成していることによる。公式HP:https://www.mbs.jp/daiku/

(注2) 新しい価値を見つける場所を目指し、埼玉県みずほ台駅前を中心に富士見市内外の次世代の育成と文化をつなぐ発信基地として、東武東上線みずほ台駅西口徒歩1分の場所に、300人をキャパシティとした劇場と、コミュニティFMサテライトスタジオ、コンセプトショップで構成される複合施設MIZUHODAI WAREHOUSEを2021年秋にオープンの予定であったがコロナ禍の影響により現在中断。

<作品について>
舞台は18世紀中頃のドイツ。
伯爵家に生まれた主人公カールとその弟フランツ。
放蕩息子であるものの父の信頼が厚い熱血漢の兄、幼い頃より父の愛に飢え、
兄への憧れが次第に深い憎しみへと変貌し冷徹に生きる弟。
フランツの策略により兄カールは父からの勘当を言い渡され、
失意の底に落ちたカールはやがて盗賊団のリーダーとなり義賊的な活動に及んでしまう。
共に永遠の愛を誓った恋人アマーリアはカールへの永遠の愛を胸に・・・。
本作は18世紀ドイツにおける啓蒙思想に異を唱える詩人
『フリードリヒ・フォン・シラー』の戯曲第一作目となる作品です。
「理性に対する感情の優越」をテーマに主人公カール、その父モール伯爵、 恋人アマーリア、弟フランツの人間模様と、登場人物の激しくも切ない葛藤を描く傑作戯曲「群盗」。
悲劇の中に芽生える深い愛と憎しみのストーリーは
人が行う不変的な何かを教えてくれることでしょう。
<概要>
日程・会場:初日未定~ 2月27日 富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
決定次第、HPにて告知。
演目:群盗(ぐんとう)
原作:フリードリヒ・フォン・シラー
出演:小出恵介/池田朱那/新里宏太 ほか
演出:小栗了
美術:成本活明
衣装:大岩大祐
音楽:カワイヒデヒロ(fox capture plan)
主催:合同会社VOLTEX
後援: ドイツ連邦共和国大使館
公式HP:https://www.mizuhodai-warehouse.jp
取材:高浩美

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