成長のための「正しい脱皮」を続けていた浦和 リーグ2連覇の王者川崎に完勝

富士フイルム・スーパー杯 川崎を破って優勝を果たし、喜ぶ浦和の(前列左から)岩尾、江坂、酒井ら=日産スタジアム

 5シーズンで4度のJ1リーグ制覇。年によっては独走で、簡単に勝ったように見えることもあった。それでも試合ごとに詳しく分析すると、案外と苦労を重ねていたようだ。

 30回目のシーズンを迎えるJリーグ。その歴史に「川崎フロンターレ時代」は間違いなく刻まれている。鬼木達監督がチームを指揮した過去5シーズン。それまでタイトルにあと一歩届かずに「シルバーコレクター」と呼ばれたクラブは、リーグ、天皇杯、リーグカップの三大タイトルを6度も制した。ここ数年、日本のサッカー界には「強い川崎」以外は存在していない。

 ただし、戦力が常に充実しているかというと、必ずしもそうはいえない。昨季は途中でリーグ制覇の主力、三笘薫、田中碧が移籍した。サッカーの内容そのものを変えなければいけないほどの主力の離脱だ。さらにオフになって旗手怜央がチームを去った。「個」として見れば、間違いなく戦力ダウンといえる。

 ところが、チームとして見れば大きな落ち込みは感じられない。それは鬼木サッカーが戦術的に常にアップデートされているからだ。しかも、そこに組み込まれる選手を見ても、的確な補強がされ、さらに若手がとてもうまく戦力として育っている。選手個々を数値化して、それを足せば年によっての浮き沈みはあるのかもしれない。一方、全体の戦力的数値をみれば、まったく下がっていない。素晴らしいマネジメントだ。

 今年もJ1リーグは、川崎を中心に回っていくことは間違いないだろう。川崎は、鹿島アントラーズしか成し遂げていないリーグ3連覇への挑戦権を持っている。ただ、それを阻止しようとするチームが育っているのも事実だ。

 2月12日のスーパーカップ。欧州サッカーの慣例に従うシーズン到来の合図となる試合。前年のリーグチャンピオンとカップウイナーがリーグ開幕の1週前に対戦する。昔、イングランドでは「チャリティーシールド」と呼ばれていた。文字通りチャリティー活動に関係した試合だ。

 今回、川崎と天皇杯優勝の浦和レッズが対戦したスーパーカップは興味深かった。浦和が川崎を2―0で破ったからだ。浦和の策士リカルド・ロドリゲス監督が「川崎はこうやって倒すのだ」というお手本のような試合をみせたのだ。

 もちろん、川崎からすれば、新加入のチャナティップのポジションも含め、この試合はまだテストの段階という感じだろう。対する浦和はスーパーカップをタイトルとしてとらえていた。監督も「この試合のプランとしてはかなり高いもの、厳しいものを選手たちに要求しました」と本気度の高さを示していた。

 サッカーの戦略には2種類ある。自分たちのサッカーをするのか。相手に本来のサッカーをさせないのか。難しいのは、自分たちのサッカーをするには、実力で相手を上回っていなければ実行できないということだ。ボールを保持し、自分たちのサッカーを貫く川崎。浦和は監督の「川崎に快適にプレーさせないこと」の指示通り、キックオフと同時にプレスを強める。そのなかで浦和は理想的な時間帯でゴールを奪った。

 サイドから質の高いボールが入ればゴールに結びつく。そういう得点だった。開始7分、浦和はスローインからのこぼれ球を酒井宏樹が拾って右サイドを突破。グラウンダーのセンタリングを、ニアサイドにいた江坂任が右足ダイレクトで合わせた。左サイドネットに送り込んだシュートは、思わず「うまい」とうなるようなゴールだった。

 先制点を奪った後、予想通り、川崎にボールを支配された。それでもシュートは打たせない。90分を通して川崎に許したゴール枠へのシュートは1本だけ。浦和には守りのリズムができていた。その状況から浦和は後半36分に二の矢を放つ。自陣から送られた縦パス。川崎の車屋紳太郎と追いかけっこになったのは、この日はFWで起用された明本考浩。競り合った明本は、体の強さを見せてボールをキープ。ターンして中央に駆け上がった江坂にラストパスを通した。

 江坂のシュートはサウジアラビア戦の南野拓実のゴールを思い出させた。右からのパスを受けると、谷口彰悟を左に動いて外し、左足シュート。逆を取られたGK鄭成龍(チョン・ソンリョン)は一歩も動けなかった。カウンターからの見事な一撃。それ以上に驚いたのは速さと強さを見せた明本。昨季は左サイドバックでの起用が多かった24歳。エネルギッシュな運動量とポリバレントな持ち味は第二の旗手だ。

 チームを支えていた阿部勇樹が引退し、槙野智章、宇賀神友弥ら主力がチームを去った。正直、浦和は大丈夫なのだろうかという思いもあった。だが、完勝した浦和を見ていると、チームは正しい成長に向けて脱皮していたのだと思えた。少なくとも王者川崎を倒せるチームが生まれつつあると感じられた。

 浦和だけではない。まだ全貌を現わしていないチームの中にも、川崎を食うためにチーム力を高めているJ1勢がいるだろう。それを考えれば今季はかなり期待が持てる。最後まで、もつれにもつれた優勝争いが見たい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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