政権取れば初期に対日改善 「韓国大統領選キーパーソンに聞く」(1)韓国最大野党の李俊錫代表

ソウルで共同通信と会見する韓国の保守系最大野党「国民の力」の李俊錫代表=2021年11月(共同)

 韓国大統領選が3月9日に迫った。最終盤に入っても革新系与党「共に民主党」李在明候補と保守系最大野党「国民の力」尹錫悦候補が競り合う大激戦。いずれが勝利するかで向こう5年間の隣国の針路は大きく変わる。両陣営のキーパーソンに日韓関係や北朝鮮政策について直接聞いた。国民の力を36歳の若さで率いる李俊錫党代表。尹氏が勝利すれば、対日改善を目指すと表明。自ら特使として訪朝し、同年代である金正恩朝鮮労働党総書記と会談する意欲ものぞかせた。(共同通信=岡坂健太郎)

◎キーワード「国民の力」 

 韓国の保守系最大野党。李明博政権の与党ハンナラ党、同党が改称した朴槿恵政権の与党セヌリ党の流れをくむ。2016年に朴大統領が親友による国政介入事件で弾劾されて保守派は求心力を失い、17年の前回大統領選で革新系の文在寅氏に敗北した。20年に保守系野党3党が前身の「未来統合党」を結成、同年9月に「国民の力」に改称した。21年6月、党員投票と一般国民の世論調査を組み合わせた党代表選で李俊錫氏を選出。世代交代と党刷新をアピールし、政権奪還を目指す。

 ▽若手の最有望株、将来の大統領選出馬の可能性を否定せず

 李氏は公正な政治と党刷新を訴えて昨年6月の代表選に出馬し、若者の支持を集めてベテラン政治家らを破った。議員経験のない30代の主要政党代表は韓国憲政史上初めて。若手政治家の最有望株だ。大統領選の出馬資格は40歳以上のため、今回は立候補できなかったが「より大きな政治をするための努力を続けなければならない」と将来の挑戦の可能性を否定しない。

最大野党「国民の力」の代表に選出され、党旗を振る李俊錫氏=21年6月、ソウル(聯合=共同)

 自身が党代表となっただけでなく、政治家経験のない尹氏や、地方の知事だった李氏が二大政党の大統領候補に選ばれたのは、有権者が既存政治を否定したためだと分析する。

 自身が推す尹氏は、文在寅政権で検事総長に任命されながら、腐敗撲滅を掲げて反旗を翻した。国民はその姿勢に共感しているとの見方を示した。

 ▽歴史問題解決の具体策には踏み込まず

 日韓関係について、まずは元徴用工問題を巡り、日本企業の代わりに韓国側が賠償金を支払う「代位弁済」案への立場を尋ねた。李氏は賛否を明言せず「そういうアイデアがあったとしても、日本側は文在寅政権ではなく、新政権発足後に雰囲気を転換しながら推進すべきだと考えるだろう」と語るにとどめた。

 韓国では対日関係は敏感なイシューで、与野党とも歴史問題解決の具体策に踏み込むことには慎重だ。

ソウルで相星孝一駐韓大使と会談する韓国最大野党「国民の力」の李俊錫代表=21年7月(聯合=共同)

 一方で、経済や安全保障面での日韓協力の重要性を強調した。昨年、供給の大半を依存する中国の輸出制限によって排ガスを浄化するための尿素水が品薄になり、ディーゼル貨物車の運行中断で物流が混乱したケースを挙げ「依存しすぎると産業にとってかなりの阻害要素になる」と指摘。日韓関係が改善すれば、原材料などを互いに融通し合う協力が可能になると展望を語った。

 ▽日米韓「三角同盟」実現を推進

 安保では、日米と米韓がそれぞれ同盟関係にあることを念頭に「韓米日三角同盟」との言葉を使い「決して(実現の機会を)逃す必要はない」として推進すべきだとの考えを示した。一方、日米豪印の枠組み「クアッド」などへの韓国の参加を巡り「日本が韓国にどんな形であれ競争心を抱いたり、排除の意図を持ったりすることは危険だ。多国間の安保協力で韓日が(互いに)どんな姿勢を取るかによって信頼が築かれる部分があるのではないか」と話した。

 ▽対北朝鮮は経済制裁維持「腰を据えて対応」

 対北朝鮮では、文政権が目指す米朝などによる朝鮮戦争の終戦宣言について「なぜ任期末にこういうものを投げ掛けるのか」と否定的な見解を表明した。融和姿勢の文政権が「(北朝鮮に)誤ったシグナルを送った」とも批判した。

 北朝鮮は「(政権交代の可能性がある)選挙がないため、時間に追われることがない」との見方を紹介し、北朝鮮の態度変化が見られない限り、北朝鮮への経済制裁を維持し、腰を据えて対応すべきだと強調した。

 その上で「党代表になり、多くの人が『あなたの次の政治的歩みは何か』と聞いてくる。私は『新大統領が私を対北朝鮮特使として送ってくれたらと思う』と話している」と話した。金正恩氏について正確に知る必要があるとの考えからだ。

韓国南部・釜山で遊説する最大野党「国民の力」の李俊錫代表(左)と大統領候補の尹錫悦氏=22年2月15日(聯合=共同)

 ▽金正恩氏は「根源的悩みあると思う」

 「私たちは(過去に)交渉に携わった外交官らの証言や、料理人(故金正日総書記の元専属料理人で正恩氏をよく知る藤本健二氏=仮名=)が書いた本など、間接的な資料を基に金正恩氏を理解しようとしている(が不十分だ)」と李氏は言う。

 スイスに留学し「西欧的な教育を受けた人物だ」と指摘する一方、20代で権力を世襲し、2013年には国家転覆を謀ったとして叔父の張成沢元国防副委員長を処刑したことを挙げ「いつ裏切るか分からない人々(に囲まれ)、ボディーガードに守られ、叔父も殺さなければならない。一般の人なら心理的ストレスを受けるだろう。その年頃には(本来なら)電子機器や大衆文化に関心が高いはず。兄の金正哲氏の場合は、エリック・クラプトンの公演を見に行ったのに(正恩氏は)銀河水管弦楽団のような(体制宣伝)公演を毎日見ていなければならない」と同情心もうかがわせた。「これからこういう人生を30年、40年生きなければならないのか。根源的な悩みがあると思う」

自転車で国会に向かう韓国最大野党「国民の力」の李俊錫代表=21年6月、ソウル(聯合=共同)

 李氏は北朝鮮や安保問題の専門家ではなく、特使派遣が実現するかどうかは未知数だ。ただ、先の長い韓国の若手指導者が同年代の金正恩氏とパイプを築けるようなことがあれば、停滞する朝鮮半島情勢に新しいパラダイム(枠組み)が開ける可能性はありそうだ。

   ×   ×   ×

 李 俊錫氏(イ・ジュンソク)85年、ソウル生まれ。07年、米ハーバード大卒。韓国に帰国後、教育ボランティア団体代表やベンチャー企業の代表理事を務め、11年に保守系与党の非常対策委員に就任。16、18、20年の国会議員選挙に出馬したが落選した。21年6月、保守系最大野党「国民の力」の党大会で代表に選出された。

韓国大統領選がよく分かるグラフィック解説はこちら
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