JR東日本「HYBARI」報道公開 コンパクトなシステム構成の水素ハイブリッド電車

JR東日本鎌倉車両センター中原支所で公開された水素ハイブリッド電車「HYBARI」

2022年2月18日(金)、JR東日本の水素ハイブリッド電車「HYBARI」が報道陣に公開されました。

「HYBARI」は水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載した試験車両。形式名は「FV-E991系」で、愛称は「HYdrogen-HYBrid Adavanced Rail vehicle for Innovation」の頭文字から取られています。

開発の背景にあるのは、JR東日本が2020年5月に策定した「ゼロカーボン・チャレンジ2050」。鉄道事業におけるCO2排出量を、2030年度には現在の約半分に、そして2050年度に「実質ゼロ」にするという環境長期目標です。

2022年現在、JR東日本はディーゼルエンジンを積んだ車両を多数保有しており、CO2フリーを達成するためにはこれらを置き換えていく必要があります。そこでJR東日本は日立・トヨタと連携し、三社の技術を融合させた水素ハイブリッド電車を開発しました。

「狭軌」に対応したコンパクトなシステム構成

「HYBARI」の特徴を説明するJR東日本技術開発センター 大泉正一所長

水素をエネルギーとする車両はすでに海外で実用化されており、そのくくりで見れば「HYBARI」は世界初ではありません。「HYBARI」の最大の特徴は、狭軌(1067ミリ)で走るためにコンパクトなシステムで構成した点にあります。

軌間の広い標準軌(1435ミリ)を走る車両であれば、先行事例のように水素タンクと燃料電池をともに屋根上に積むこともできますが、狭軌が主流の日本で同じことはできません。「HYBARI」では水素タンクを屋根上に、燃料電池を床下に積み、水素配管を長くするなどの工夫を凝らして日本の規格に対応しました。

その他の目新しいポイントとして、海外では35Mpa(メガパスカル)の高圧水素を積んでいますが、JR東日本技術開発センターの大泉正一所長によれば、「HYBARI」はその倍にあたる70Mpaの高圧水素を積むこともできるそうです。

また、「HYBARI」にはトヨタの「MIRAI」の燃料電池が使用されており、冷却装置などにも自動車の技術が使われています。そういった意味では、世界的にも珍しい車両と言えそうです。

外観は「碧いしぶき」

「HYBARI」1号車正面顔

「HYBARI」の外観の特徴と言えるのは、この鮮やかな青色。燃料電池の化学反応から生まれる水を碧いしぶきと大地を潤すイメージでとらえ、スピード感と未来感を持たせています。

ロゴデザインは春の訪れを告げる鳥の「ひばり」から。新しいエネルギー源を使った鉄道車両、新しい息吹を呼び込むという意味も込められているそうです。

車体側面の「HYBARI」ロゴデザイン
屋根上の水素貯蔵ユニット。水素タンクを固定バンドでユニットフレームに5本固定して1ユニットとし、2号車の屋根上に4ユニット搭載(写真は1号車寄りの2ユニットを写したもの)。合計で20本の水素タンクを搭載しています。
水素貯蔵ユニットから供給された高圧水素は一度「屋根上配管ユニット」で燃料電池装置の稼働に適した圧力に減圧され、写真の「床下配管ユニット」へ送り込まれます。「床下配管ユニット」は減圧された水素を燃料電池装置に供給するための配管系統を主としたユニットです。
2号車床下の燃料電池装置。燃料電池2つを1箱にまとめ、合計2箱搭載しています。燃料電池で電力を発生させる際に生成される水は、この装置から車外に放出されます。

インテリアにも凝った試験車両

「HYBARI」車両内観

「HYBARI」はあくまで試験車であり、営業用の電車として利用者を乗せて走るわけではありませんが、内装も普通の客室のように仕上げられています。

基調となる色は自然のエネルギーを感じさせる緑。シートは大自然の山並みと飛び交うHYBARIのグラフィックを配したデザインとなっています。また床面は山あいの小川に見立て、燃料電池から排出された水が自然に帰っていくことをイメージしたそうです。

「HYBARI」座席

車内にはエネルギーフローを紹介する車内情報表示器も設置されており、「HYBARI」の仕組みが分かりやすく図解されていました。

車内に設置された、エネルギーフローを紹介する車内情報表示器
sustinaブランドであることを示す銘板
「HYBARI」車両運転台

実証試験は3月下旬から

JR東日本は、2022年3月下旬から南武線(川崎~登戸)、鶴見線および南武線尻手支線で実証試験を行います。試験では車両性能をみるだけでなく、水素燃料電池と蓄電池のハイブリッド制御、水素消費量の測定、水素充填方法の検証なども実施します。

鶴見線や南武線が選ばれたのは、水素の製造・供給に適した臨海部であること、また神奈川県、横浜市、川崎市などは水素の施策に先進的に取り組んでおり、水素に関する理解のある自治体であるといった事情からだそうです。

記事:一橋正浩

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