寒い冬こそ!ジャズを聴いて 心も体も温まろう!

気軽に入れるジャズクラブが数多くあるニューヨーク。この街で活動するジャズミュージシャンたちに、現在のジャズシーンとその楽しみ方について聞いてみた。今号を読んでジャズについて知り、ジャズクラブに足を運んでみては?


日本とは少し違う?

ニューヨークのジャズを解説

コロナ禍のジャズシーンについて教えてください。

三富:ニューヨークでは2020年の夏から屋外に限り、飲食店の営業が再開されました。僕自身、秋から活動を再開しミッドタウンにあるトミジャズというジャズバーの外で演奏する機会を頂きました。冬になっても屋内営業が全面解禁にならず、寒空の下、店の外で演奏した日々は印象深いものとなりました。

21年春からは屋内で演奏できる店が増え始め、市内のジャズクラブは席を完全予約制にしたり、チャージ料を値上げしたりと試行錯誤を重ねながら営業している様子でした。Youtubeで演奏を配信する店も増えましたね。

演奏を通して感じたのは、パンデミック前よりもチップが多かったことです。またニューヨークで活動するミュージシャンへの助成金制度があるなど、アーティスト、そして生演奏に対してリスペクトがある街だと改めて実感しました。演奏活動を続けられているのは、この街のおかげだと思っています。

老舗ジャズクラブのブルーノート

日本との違いは?

三富:ニューヨークのジャズクラブは日本よりも敷居が低く、誰でも気軽に入れる雰囲気があります。友人と会話を楽しみながら演奏を聴く人をよく見掛けますよ。演奏開始時間が遅く、早くても午後7時半から、遅いと10時スタートのステージもあり、仕事終わりや食事の後にも演奏を聴くことができます。

三上:日本と比べると、ミュージックチャージが安い印象があります。値段の割に、レベルの高い演奏が聴けるんです。また、予約をせずに飛び込みで入れる店も多いですよ。

地下鉄のホームや道端など、ニューヨークではあらゆる場所でジャズの演奏が聴ける

NYでのジャズの楽しみ方を教えてください。

三富:ジャズは予備知識がなくても感じることのできる音楽です。なのであまり気負わずに楽しんでください。ジャズクラブでは演奏を聴くだけでなく、周りを見てみるのも面白いですよ。僕が初めてニューヨークのジャズクラブを訪れた際に、隣にいたおじいさんがとても印象的でした。彼は店に現れるとお酒を一杯頼み、リラックスした様子で鑑賞していたと思うと、バンドメンバーのMCと楽しそうに絡み、演奏後にさっと帰って行ったのです。音楽が日常の一部となっている姿がとてもかっこよくて、今でも覚えています。

三上:初心者なら難しく考えず、まずは一度演奏を聴いてみてください。そして演者が何を考え、どう演奏してるのかを知るとより一層楽しめると思います。ジャズの曲は基本的にイントロ、テーマ、アドリブソロで構成されます。テーマはメインとなるメロディーのことで、テーマを弾いた後にそのコード進行に合わせて各プレーヤーがソロを取っていきます。ソロが良ければ拍手してもいいですよ。良い音楽は聞き手の心に無条件に響くものなので、純粋な気持ちで楽しんでほしいと思います。

お話を聞いた人

三富悠斗さん

ニューヨーク在住のサックス奏者、作編曲家。
2011年より来米し15年にニューヨーク市立大学シティカレッジ音楽学部ジャズ科を卒業。
19年に自身のリーダーアルバム”Continuation”を発表。
18年にギタリスト・金澤悠人さんとのアルバム”Utopia”21年に”Imaginably”をリリース。
yutomitomi.com/@yutomitomi

三上麟太郎さん

ブルックリン在住の学生ドラマー、パーカッショニスト、作曲家。
2016年よりニューヨークに移住し、コレクティブ音楽学校に入学。
19年より奨学金を取得し、ニュースクール・フォー・ジャズ&コンテンポラリー・ミュージックに入学。
linktr.ee/rintaromikami/@rintaro_mikami

おすすめジャズクラブを紹介!

前項でお話を聞いたジャズミュージシャンの三富さんと三上さんに、おすすめのジャズクラブを紹介してもらった。


ローカルミュージシャンの息遣いを感じる
SmallsLive Jazz Club

グリニッジビレッジの地下にあるこじんまりとしたジャズクラブ。客席は椅子が並べられただけのシンプルな造りで、しっかりと演奏を聴きたい人におすすめ。ステージと客席との距離が近く、演者の熱気を感じることができる。地元のミュージシャンの演奏が多い。カバーチャージが手頃で、初心者でも安心して入れる雰囲気だ。

ドリンクのみ・しっかりジャズ・気軽

183 W. 10th St./TEL: 646-476-4346/smallslive.com


レジェンドたちが通った老舗のジャズクラブ
Village Vanguard

1935年創業。マイルス・デイビスやビル・エバンスといったレジェンド級のアーティストたちが演奏を行い、そのライブ音源が名盤として残る歴史あるジャズクラブ。地元のミュージシャンから世界各国をツアーで回るアーティストまで、幅広い演奏が楽しめる。しっかりとジャズを聴きたい人におすすめ。

ドリンクのみ・しっかりジャズ

178 7th Ave. S./TEL: 212-255-4037
178vanguard@gmail.com/villagevanguard.com


高級感あふれる歴史の詰まった店
Birdland Jazz Club

ミッドタウンにある、1949年創業の広々としたジャズクラブ。高級感あふれる店内で、食事をしながらハイレベルな演奏を聴くことができる。地下には、本店の半分ほどの人数を収容できるバードランド・ジャズ・シアターもある。店名はジャズサックス奏者、チャーリー・パーカーの愛称に由来する。

食事あり・しっかりジャズ

315 W. 44th St. (bet. 8th & 9th Aves.)
TEL: 212-581-3080/birdlandjazz.com


NPO団体が運営する
The Jazz Gallery

非営利団体によって運営されているジャズクラブ。ビルの5階にあり、席はパイプ椅子だが面白い演奏が聴けると評判だ。ミュージックチャージが他店と比べてリーズナブルで、若手のローカルミュージシャンの演奏を中心に、実験的な音楽が聴けることも。ニューヨークの今を感じられる場所となっている。

食事・ドリンクなし・多ジャンル

1160 Broadway, 5th Fl.
info@jazzgallery.org/jazzgallery.org


ホテルの地下にある穴場のジャズクラブ
The Django

トライベッカのロキシーホテルの地下にあるジャズクラブ。れんがのむき出した壁に囲まれた、おしゃれな店内はまるで隠れ家のよう。バーカウンターが併設され、テーブルで食事を楽しむこともできる。正統派ジャズからビッグバンド、歌ものなどの華やかな演奏まで、さまざまなジャンルの音楽が聴ける。

食事あり・しっかりジャズ

2 6th Ave./TEL: 212-519-6649
info@thedjangonyc.com/thedjangonyc.com


気軽に幅広いジャンルが聴ける
The 55 Bar

グリニッジビレッジにある半地下のジャズバー。ジャズクラブというよりカジュアルなバーのような雰囲気で、気負わずに入ることができる。若手からベテランまで、地元で活動するミュージシャンの幅広い演奏を聞くことができる。ジャズ以外にもロックやパンク、フュージョンなどいろんな音楽が演奏されるので、サイトで事前に確認してから足を運ぼう。

ドリンクのみ・多ジャンル・気軽

55 Christopher St./TEL: 212-929-9883/55bar.com

冬に聴きたいジャズ名盤

寒い日が続くこの季節にぴったりのアルバムを厳選!


**三富さん
推薦**

“Concert in the Garden”
Maria Schneider Orchestra (2004年発売)

© Maria Schneider Inc.

作編曲家で指揮者の、マリア・シュナイダー率いるビッグバンドのアルバム。一つ一つの音の繊細さ、積み重なる音の面白さを絶妙に表現できる彼女は、2000年以降のジャズ作曲家たちに多大な影響を与えた人物の一人である。同バンドの演奏は迫力があるだけでなく、繊細で美しい旋律に魅力がある。寒空にぴったりの楽曲がそろう。


三富さん
推薦

“The Thelonious Monk
Orchestra at Town Hall”
Thelonious Monk (1959年発売)

©︎ Concord Music Group, Inc.

ピアニスト、セロニアス・モンクのアルバム。録音されたのは1959年2月28日のニューヨーク。現存し、今もなおミッドタウンで営業しているThe Town Hallでのライブ録音である。冬のニューヨークで録音された、熱気にあふれた演奏を楽しんでもらえたら。


三上さん
推薦

“Undercurrent”
Bill Evans & Jim Hall (1962年発売)

© Capitol Records, Inc.

1962年にニューヨークで録音された、ビル・エバンスのピアノとジム・ホールのギターのみで演奏されるデュオアルバム。寒い日の夜、寝る前に聴きたいしっとりとした曲が並ぶ。モダン・ジャズ・カルテットのジョン・ルイスが作曲した“Skating In Central Park”といった、ニューヨークにちなんだ曲も。


三上さん
推薦

“My Song”
Keith Jarrett (1978年発売)

©︎ ECM Records GmbH

ピアニストのキース・ジャレットがヤン・ガルバレク(サックス)ら北欧出身のメンバーと結成した通称「ヨーロピアンカルテット」によるベストセラーアルバム。ヨーロッパジャズならではの空間を生かした演奏が心地良い。空気の澄んだ冬の空のような、透明感のある楽曲が並ぶ。


三上さん
推薦

“Perceptual”
Brian Blade (2000年発売)

©︎ Blue Note Records

ドラマーで作曲家のブライアン・ブレイド率いるフェローシップバンドのアルバム。寒くて家にこもりがちな毎日を抜け出したくなるような、自由で広々とした世界観が感じられる。ブライアン・ブレイドの、まるで歌っているかのようなドラムと、ギターで参加のカート・ローゼンウィンケルの素晴らしいサウンドに注目。


おすすめジャズ映画を紹介

ジャズってちょっと敷居が高い…。そんな人は、映画でジャズを身近に感じよう!

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「Whiplash」
(セッション)

【公開】2014年
【監督】デイミアン・チャゼル
【主演】マイルズ・テラー、J・K・シモンズ
【配信】Hulu、VUDU、Amazon Prime

【あらすじ】

名門音楽大学に入学したニーマンは、伝説の鬼教師フレッチャー教授のジャズバンドにスカウトされる。ここで成功すれば偉大な音楽家に一歩近づくと喜んだのもつかの間、待ち受けていたのは完璧を求められ、わずかなミスも許されない狂気のレッスンだった。


「La La Land 」
(ラ・ラ・ランド)

【公開】2016年
【監督】デイミアン・チャゼル
【出演】ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン
【配信】Hulu、Apple TV、Amazon Prime

【あらすじ】

舞台はロサンゼルス。カフェで働くミアは、女優を目指してオーディションを受けるが落選が続く日々を送る。一方ジャズクラブの経営を夢見るセブは、ピアニストとして働いていた店を解雇される。偶然が重なり出会った二人の、夢に向かって進む姿を描いたミュージカル映画。


「Bird」
(バード)

【公開】1988年
【監督】クリント・イーストウッド
【主演】フォレスト・ウィテカー
【配信】Youtube(有料)、Apple TV、VUDU

【あらすじ】

ジャズサックス奏者、チャーリー・パーカーの伝記映画。生まれ育ったカンザスシティーでの少年時代、チャン・リチャードソンとの結婚生活、34歳で亡くなるまでの人生の各場面をコラージュしてストーリーが展開される。題名はチャーリー・パーカーの愛称“Bird”から。


「I Called Him Morgan」
(私が殺したリー・モーガン)

【公開】2016年
【監督】カスパー・コリン
【出演】リー・モーガン、ヘレン・モーガン
【配信】Netflix、Amazon Prime

【あらすじ】

天才ジャズトランペット奏者、リー・モーガン殺人事件の真相に迫るドキュメンタリー。1972年、リーはイーストビレッジのジャズクラブで射殺される。犯人は内縁の妻ヘレン。彼女が死ぬ間際に残したインタビュー音源や、友人、関係者たちの証言、リー本人の映像で構成される。

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