島根の鉄道で3題話「オンラインツアーで出雲へ」「創業110年の名門鉄道」「MaaSで維持する地域づくり」【コラム】

2016年に一畑電車86年ぶりの新造車両としてデビューした7000系電車。JR四国の7000系をベースに、電気機器類はJR西日本225系を流用することでコスト削減を図っています(画像:一畑電車、島根県観光連盟)

箱根登山鉄道、大井川鐵道、銚子電気鉄道、伊予鉄道、JR釧網線――。最近の本コラムは地方鉄道づいています。コロナ禍で地方鉄道の経営環境が悪化しているのは、皆さまご存じの通り。斉藤鉄夫国土交通大臣も2022年2月8日の会見で、「地域公共交通の持続性を高める方策について、有識者検討会を設置して今夏までに方向性を取りまとめたい」と発言しています(初会合は2022年2月14日に開催されました)。

今回のテーマは島根県の鉄道、さらには関連する話題。JR東日本グループのルミネが主催する「オンラインの島根ツアー」、出雲大社へのアクセス鉄道「一畑電車」、JR西日本が邑南町で実践する「地方版MaaS」を、3題話にまとめました。

出雲オンラインツアーで伝統芸能の石見神楽を鑑賞(ルミネ)

ルミネは新宿や大宮、北千住などで駅ビルを運営するJR東日本のグループ企業。コロナの2020年に始めたのがオンラインツアーの「旅ルミネ」で、2年目の2021年度は島根への旅を連続して企画します。

2022年2月6日に配信したのが「おうち旅ルミネmeets出雲」。島根県中西部の出雲市と浜田市を目的地に「窯元での民芸談話」「日本酒とチョコレートのご当地グルメ」「一夜干しカレイの骨はずし」「石見神楽鑑賞」の4つの体験メニューを用意しました。

旅ルミネは「本物の旅の予行演習」。参加者には事前に出雲の食材が配送され、インターネットで生配信される現地映像を見ながら、現地の人と一緒に調理したり食事したりで旅気分に浸ります。東京―出雲市間は、JR東日本などが運行する電車寝台特急「サンライズ出雲」が結びます。「コロナが収束したらサンライズで島根へ。それまではルミネ店舗で島根産品の購入を」と呼びかけます。

須佐之男命vs大蛇 神楽の迫力に浸る

石見神楽を代表する演目「大蛇」。大蛇は竹で蛇腹状の骨組みをつくり、和紙を貼りあわせて伸縮させます

メニューからワンポイント、「石見神楽」をご紹介しましょう。起源ははっきりしませんが、平安時代末期から室町時代初期に始まった「大元神楽」に演劇の要素が加わって、現在のような興業スタイルになったと伝わります。

主な演目は「大蛇(おろち)」「塵輪(じんりん)」など。昔話のヤマタノオロチとして知られる大蛇は、諸国漫遊していた須佐之男命(すさのおのみこと)が、毒酒を飲ませて大蛇を退治する物語。八つの頭で襲いかかる大蛇を撃退する、ハイライトシーンは迫力満点です。

ツアーでは、毎週末に神楽が演じられる三宮神社(浜田市)の下岡望宮司が、ポイントを解説。ルミネ旅はビデオでしたが、魅力は十分に伝わりました。

鉄道の話題も少々。JR山陰線米子―益田間には、石見神楽のラッピング列車が走ります。車両はキハ126系2両編成。JR西日本米子支社と島根県観光振興課の共同企画で、運行開始は2012年です。2020年のリニューアルでは、内装に「恵比須」に登場する、事代主命(ことしろぬしのみこと)が描かれました。

JR山陰線に運行される石見神楽のラッピング車両=イメージ=。ドア部分には「鬼」、車体には「大蛇」が描かれます(画像:JR西日本)

県都・松江と出雲大社を結ぶ「ばたでん」

宍道湖畔を走る1000系電車。東急電鉄では東京メトロ日比谷線乗り入れにも使用された1000系電車が2014年、一畑電車に仲間入りしました。東急時代の中間車に運転席を取り付けて先頭車化したため、タネ車とは大きく印象が変わっています(画像:一畑電車、島根県観光連盟)

続いては、島根県の地方鉄道・一畑電車(通称「ばたでん」)。記憶をたどれば、私がばたでんに乗車したのは2014年8月。現在も続く「全国高校生地方鉄道交流会」が出雲で開かれ、現地取材しました。

一畑電車は、1912年設立の一畑軽便鉄道がルーツ。2022年は110周年です。1914年に出雲今市―雲州平田間が開業、1925年には一畑電気鉄道に社名変更し、1927年に電化されました。社名は一畑薬師に由来。眼病に霊験あらたかな〝目のお薬師さま〟として、古くから信仰を集めます。

路線は松江、出雲の両市にまたがり、北松江線(松江しんじ湖温泉―電鉄出雲市間)、大社線(出雲大社前―川跡間)の2路線。営業キロは42.2キロあります。山陰エリアでは第三セクターを除き唯一の民営鉄道で、2006年には一畑電気鉄道を持ち株会社として事業部門ごとに分社化。鉄道事業者では珍しい、「電車」の社名を名乗るようになったのはそれ以来です。

昭和初期生まれ、日本最古級の電車が映画の主役

一畑電車の歩みを物語る人気車両・デハニ50形電車。一畑オリジナル車両で、デハニ52とデハニ53の2両あります。2009年に営業運転を終了。1両は出雲大社駅で展示、もう1両は雲州平田駅構内で一般向け体験運転に使用されます(画像:一畑電車、島根県観光連盟)

最近、力を入れるのが観光鉄道としての利用促進で、きっかけは2010年公開の映画「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」。エリートサラリーマンの道を捨て故郷で電車運転士になった男性が主人公で、スクリーンに登場する1928年製のデハニ50形電車は、主演の中井貴一さんとともに、もう1人の主役と呼ばれました。

一畑ラストは、とあるセミナーで耳にしたこぼれ話のクイズ。映画公開後、一畑にクレームの電話がかかってきました。「資格のない中井さんに電車を運転させた」。もちろん本当に運転してはいません。CGでもありません。では、どうやって撮影したのか。鉄道好きな皆さんなら分かるはず。映画はダウンロードでも鑑賞できるようなので、よろしければ考えてみてください。

邑南町で地方版MaaS(JR西日本)

「スマートモビリティチャレンジシンポジウムin関西」では、東京大学生産技術研究所の須田義大教授(左)がモデレーターを務め、JR西日本デジタルソリューション本部の神田戦略企画室長(右)と大阪商工会議所の松本敬介産業部部長(中央)がMaaSの可能性を語りあいました

後段は、島根県内に路線を持つJR西日本の地域振興策。JR西日本米子支社は県中央部の邑南町(おおなんちょう)で、地方版MaaSの可能性をさぐります。

今回、地方版MaaSに注目したきっかけは、高速バスと旅行業のWILLERが2022年2月7、8日にオンライン開催したセミナー「MaaS Meeting 2022」。2日目には、セミナーの一環として近畿運輸局などが主催する「スマートモビリティチャレンジシンポジウムin関西」が開かれました。

トークセッションの「異業種・同業他社の垣根を越えた連携」には、JR西日本デジタルソリューション本部の神田隆戦略企画室長がパネリストとして登壇。JR西日本は「都市型」「観光型」「地方型」の3方向からMaaSの可能性を見極めます。

地方版MaaSの先陣をきったのが人口1万人の邑南町。JR西日本と邑南町は2020年3月に連携協定を結び、2023年3月までの3年間、MaaSを活用した「地域公共交通の利便性向上」や「持続的地域活性化」に取り組みます。

JRと邑南町のMaaS連携メニュー。地域住民に移動の機会を提供するとともに、エリア外との交流を活発化して地域活性化をめざします(資料:JR西日本)

鉄道が廃止された町でオンデマンドの配車システム

意外に思われる方もいらっしゃるでしょうが、邑南町に鉄道路線はありません。2018年3月末まで江津(島根県)―三次(広島県)間のJR三江線が走っていたのですが、現在は廃止。鉄道利用には35キロほど離れた山陰線江津駅への移動が必要で、その点でもMaaSは地域の死活にかかわる問題です。

鉄道廃止後、しばらくの間は代替バスが運行されましたが、現在は地域のNPO法人が手がける有償旅客運送に移行。住民のリクエストで運行ルートを決めるオンデマンド方式で、電話やスマートフォンでクルマを呼びだします。配車システムは、徳島市の専門企業・電脳交通が提供。支払いはクレジットカードなどのキャッシュレス化で、マイカーを持たない住民も、日々の買い物や病院への通院に不便を感じないように配慮します。

京都鉄博で邑南町フェア

JR西日本は、邑南町の観光交流人口拡大にも力を発揮します。2021年3月に京都鉄道博物館で開催したのが「島根県邑南町フェア@京都梅小路ハイライン」。2016年に廃止になった梅小路短絡線の線路跡を再活用したイベントスペース「ハイライン」で邑南町の魅力を紹介しました。来場者の89%は、「実際に邑南町を訪れてみたい」と回答しました。

ラストはJR西日本の島根観光振興策。JR西日本山陰営業部が事務局を務める、山陰観光連盟は2022年3月31日まで、SNSを活用した「JRで行く『ノスタルジック山陰』キャンペーン」を展開中です。連盟がインスタグラム公式アカウント、ツイッター公式アカウントを開設し、それぞれプレゼントが当たる企画を実施します。観光連盟ホームページからJR券を予約した人に、レンタカー割引券を進呈するなど特典も満載です。

記事:上里夏生

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