唇をかむ敗者

 「夢がかなった!」と飛び跳ねた経験が筆者に乏しいからなのか、大志に欠けているためか。例えば人を励ます歌で「きっと夢はかなう」といった歌詞を耳にすると、つい半信半疑になる▲かなう夢もある。努力を重ねて、それでも夢に届かない時もある。うまく説明できないが、小欄はなぜか、歓喜する勝者よりも、唇をかむ敗者を書くことの方がはるかに多い▲体操の内村航平さんのことは、五輪で金メダルを手にした歓喜のほかは「まさかの敗北」を多くつづった。超一流選手の心を凡人が知れるはずはないのだが、努力の末の悔しい結果をどう受け止めるのか、そこに目が行く▲北京五輪のスピードスケートでは、高木美帆選手の「金」に圧倒されながらも、精彩を欠いた小平奈緒選手の姿を心に刻む。大雪が降った1月、練習に向かう道の途中で滑り、足首を捻挫したことを明かした▲五輪の直前は「絶望的だった」という。レース後、「不格好な作品(滑り)になったが…」と言い、それでも「今を乗り越える姿を見せられた」と語った▲演技の前日に足首を痛めた羽生結弦選手もそうだが、厳しい戦いと分かっていて、なおも自分を奮い立たせる人の真っすぐな姿を目に焼き付ける。選手が流すうれし涙も、悔し涙も心の養分にして、五輪がもうすぐ幕を下ろす。(徹)

© 株式会社長崎新聞社