「前面展望映像が流れる自販機」も登場 変わり種も増えてきた「鉄道×自販機」事情が面白い【コラム】

「グランエミオ所沢」に設置された「前面展望映像が流れる自販機」(画像提供:西武鉄道)

西武鉄道 所沢駅直結の商業施設「グランエミオ所沢」に「前面展望映像が流れる自販機」が登場したと話題です。外観は西武電車「新2000系」をイメージしたデザインで、筐体に設置された大型モニターに運転士目線の前面展望映像が流れます。

前面展望映像は11分ほどで、飯能~元加治、西所沢~所沢、中村橋~練馬、椎名町~池袋と4区間のバリエーションが用意されていますが、この自販機は「映像」を販売しているわけではありません。

販売品目はあくまでも地元名産の狭山茶(狭山茶飲み比べセット、狭山茶ティーパック)。前面展望映像は展開するアイテムの魅力を最大限に引き出すために用意されたもので、自販機に近づくと商品購入画面に切り替わり、タッチパネルを通じて商品の選択・購入ができる仕組みです。

次世代自販機の企画・製造・販売を担うPRENOによれば、鉄道会社とのコラボ自販機を設置するのは今回が初めてとのこと。グランエミオ所沢と自販機の企画を考える際に、同社が地元にちなんだ企画として西武鉄道コラボを持ち込んだことで成立しました。

筐体に電車風のラッピングを施すのは特段珍しいものでもありませんが、最近ではこういった「変わり種」とも言える自販機が増えてきます。今回はそうした「鉄道」「自販機」の最近の話題を集めてみました。

タバコ自販機で「お茶」を買う

2008年のTASPO導入や2020年の健康増進法(受動喫煙対策法)全面施行により、減少の一途をたどる「たばこ自販機」――これを利活用して地域特産の茶を販売するというユニークな取り組みが進んでいます。

その名も「Chabacco(ちゃばこ)」。パッケージはタバコの箱風ですが、中に入っているのはスティックタイプのお茶の粉末で、水にもお湯にも溶かせるため、日本茶を手軽に楽しめる商品となっています。「タバコを取り出すと見せかけて、お茶で一服」というジョークグッズ的な使い方もできるのが面白いところ。

販売箇所によっては独特のパッケージデザインを採用し、収集意欲をかきたてます。たとえば西武園ゆうえんち駅では「おとぎ電車」を中心に据えた昭和ノスタルジーを感じられるパッケージの「Chabacco」を販売し、山口線の説明も加えます。

「西武園ゆうえんち駅」で販売していた「Chabacco」

「Chabacco」はもともと西武HDの新規事業創出専門部署「西武ラボ」から生まれた商品。鉄道関係では伊豆箱根鉄道駿豆線を皮切りに、2021年からは西武鉄道沿線でも販売を開始しました。大井川流域では「ゆるキャン△」コラボパッケージ版が販売されたこともあり、収集家にとっては今後、要・注目の商品となるかもしれません。

鉄道駅にも広がるか、「紙おむつ自販機」

【参考】西武鉄道所沢駅の「紙おむつ自販機」(2020年9月撮影)

2022年2月2日、阪神電鉄の大物駅に「飲料」と「紙おむつ」を購入できる自販機が設置されました。

「紙おむつ自販機」といえば、2017年3月「ウエルカムベビープロジェクト」が日本で初めて設置したことで話題になりましたが、大物駅に設置されたのは、ダイドードリンコ、セコム医療システム、大王製紙が共同で展開する自販機。両者に共通する仕様として、飲料と紙おむつの搬出口はそれぞれ分けられており、紙おむつは2枚から購入できます。

ダイドードリンコの「紙おむつ自販機」は道の駅や大型商業施設複合施設などを中心に設置が進み、2021年10月時点で39都府県、計200台に達しています。2022年2月時点で同自販機を設置している鉄道駅は7駅。先述の阪神電鉄 大物駅を除くと、関東では西武鉄道 所沢駅のみ、関西ではOsaka Metro 扇町駅、西長堀駅、住之江公園駅、西梅田駅、北浜駅に導入されています。

鉄道事業者は様々な施策を打って子育て世代のおでかけを支援します。たとえばベビーカーや車いすでの乗車を楽にするために新型車両の床とホームとの段差を縮小したり、駅構内でベビーカーのレンタルサービス(JR東日本「ベビカル」など)を展開したり……コロナ禍で新規導入・更新費を調達するのは容易ではなさそうですが、「紙おむつ自販機」も、そうした鉄道事業者の子育て支援策の一環として広がっていく可能性は大いにありそうです。

JR東日本の展開する「ベビカル」はエキナカでの買い物やちょっとした外出に便利なベビーカーレンタルサービス。貸出場所は絶賛拡大中です(写真は報道公開時のもの)

余談ですが、前述の「ウエルカムベビープロジェクト」の紙おむつ自販機は、鉄道駅にこそ設置されていないものの、空港や公園、大型ショッピングセンターなどを中心に展開しており、設置台数は2022年1月末時点で16都府県72台に達しています。

同プロジェクト事務局によれば、現時点では駅や鉄道施設等への具体的な設置計画等はないものの、「子育て中の方々の外出しやすいまちづくりとして、鉄道駅や関連施設への設置は進めていきたい」とのことでした。

名店の味を気軽に、冷凍ラーメン自販機が全国へ

JR二条駅に設置されたラーメン自販機(画像はJR西日本プレスリリースから)

最後に「冷凍ラーメン」の話題を少々。コロナ禍で気軽にラーメン屋にも行けやしないという状況の中、鉄道駅に「冷凍ラーメン」の自販機を設置するケースが増えています。

たとえば東京メトロは2021年11月、南北線飯田橋駅改札内にグルメ冷凍自動販売機「FROZEN24マート」を設置。これは「お家で楽しめるお店の味」をコンセプトとしたもので、様々な冷凍食品を販売できる仕様となっていますが、滑り出しは「一風堂」など有名店のラーメンや餃子をラインナップしました。

JR西日本は2021年12月、JR二条駅改札外に京都の名店「麺屋極鶏」の冷凍自動販売機を設置。サンデン・リテールシステムの冷凍自動販売機「ど冷えもん」を使用しています。本年2月には「エキマルシェ大阪」に第二弾が設置され、同店のTwitterでは設置の様子が紹介されました。

JR東日本は2022年1月~2月にかけて、大宮駅へ期間限定で「冷凍ラーメン」自動販売機を設置。丸山製麺の「ヌードルツアーズ」という自販機を使用しており、決済方法が「Suica 等の交通系電子マネー専用」となっていたのが特徴です。

新型コロナウイルス禍により「非接触・非対面」サービス需要が高まるなか、気軽に食品を購入できる「冷凍自販機」の設置は時代のニーズを捉えた動きと言えますが、面白いのはどの自販機でも本格的なラーメンを販売していること。ただの冷凍ラーメンならスーパーなりコンビニなりでも買えますが、そのクオリティでは「名店へ足を運び、その店ならではの味を堪能する」という体験を代替できないのかもしれません。

自販機によってはラーメンに限らず様々な食品を販売することも可能であり、その仕様が鉄道事業者にとっては大きなメリットになる可能性もあります。たとえば駅周辺の飲食店から冷凍メニューを募り、冷凍自販機で販売する――その駅周辺にはどんなお店があり、何が人気なのか。地元の名店を知るきっかけにもなりますし、出張中ならホテルへ持ち帰って夜食にもできる。提供する飲食店にとっても販路拡大の一手となり得ます。

技術の進歩やコロナ禍で変わる「鉄道×自販機」事情。もし変わり種の自販機を見つけたら、ちょっと足を止めてみてはいかがでしょうか?

記事:一橋正浩

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