愛くるしい瞳や無邪気で気ままな性格が魅力の猫。
たくさんの癒しをくれる存在ですが、屋外を歩く野良猫たちの一生はとてもハードです。
寒さや飢え、交通事故や虐待の被害に遭う猫も少なくありません。
そういった不幸な猫を減らそうと、倉敷で活動しているのが倉敷猫まもりの会です。
おもに倉敷市保健所に収容された猫たちを救い、猫を飼いたい人との橋渡しを行なっています。
活動内容や思いを、倉敷猫まもりの会 代表の塩田陽子(しおた ようこ)さんに聞きました。
倉敷市保健所にやってくる猫たちの現状
殺処分(さつしょぶん)とは、人間に危害を及ぼすおそれのある動物、または不要となった動物の命を断つこと。
野良犬・野良猫が保健所や動物愛護センターに収容され、殺処分となるケースは深刻な社会問題のうちのひとつです。
日本における平成16年度の猫の殺処分数は238,929匹。数が減少し、令和2年度には19,705匹になりました。
参考
環境省の統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」
▼倉敷市での猫の殺処分数は平成14年度は1,829匹でした。
どんどんと減り、令和元年度は35匹が収容後に事故や病気が原因で亡くなったものの、猫の殺処分は現在、倉敷市では行なわれていません。
倉敷市保健所は負傷した猫や、生後およそ1か月未満の子猫を収容します。
殺処分ゼロを実現している大きな要因が、倉敷猫まもりの会との連携の仕組みです。
倉敷市保健所にやってきた猫のほとんどは、倉敷猫まもりの会が引き取り、里親を探しています。
倉敷猫まもりの会では令和2年、倉敷市保健所から153匹をレスキューし、市民から引き取った猫も含めて207匹の命を里親に引き継ぎました。
倉敷猫まもりの会の活動について
倉敷猫まもりの会は、おもに倉敷市保健所に収容された行き場のない猫たちを引き受け、猫を飼いたい人へ譲渡し、倉敷市における猫の殺処分をゼロにする活動を行なっています。
2013年、塩田陽子(しおた ようこ)さん、平賀由美(ひらが ゆみ)さんの2人でボランティア活動をスタート。当初から倉敷市保健所の猫を引き受け、里親募集を行なっていました。
2018年、もっと多くの猫を助けるため、任意団体「倉敷猫まもりの会」を設立。
倉敷市の平成31年度市民企画提案事業に採択され、乳飲み子の猫を育てるミルクボランティアの仲間を増やす取り組みをスタートし、2021年12月現在は約20人のミルクボランティアが活動中です。
主な活動は以下のとおりです。
- 保護猫たちの一時預かり・里親募集
- 譲渡会・イベントの実施
- ミルクボランティア・預かりボランティアの育成
- 寄付を募る
それぞれ詳しく紹介します。
保護猫たちの一時預かり・里親募集
倉敷猫まもりの会では、倉敷市保健所に子猫が持ち込まれると、おおよそ以下の流れで里親を見つけます。
- 倉敷市保健所から電話がかかってくる
- 受け入れ可能なメンバーのなかで誰が預かるかを決める
- 猫が健康でない場合は病院で初期治療をしてもらう
- 多くの場合は乳飲み子なので1~2か月、担当のミルクボランティアが自宅でお世話をする
- インターネット(公式Webサイト、里親募集サイト、ブログ、Instagram)で里親募集をスタート
- 預かりから2か月後、ワクチン接種
- 里親希望者が集う「譲渡会」デビュー
倉敷市保健所に収容される猫のほとんどが生後およそ1か月未満の子猫であるため、一日に何度もミルクをあげながらていねいに育てていくのです。
インターネットや譲渡会を通じて「我が家に迎えたい」と里親希望の申し込みがあると、譲渡の運びとなります。
申し込みから譲渡までは、おおよそ以下のとおりです。
- 里親希望の連絡が入る
- アンケートに答えてもらい、譲渡の条件に合致しているか確認
- お見合い(猫にとっての新しい家・家族の確認のため、ミルクボランティアも一緒に訪問)
- 「お迎えする前にそろえるものリスト」を参考に、猫を育てるための準備をしてもらう(準備後、写真を送ってもらう)
- 誓約書を交わす
- 2週間のトライアル期間後、何事もなければ譲渡
2週間のトライアル期間中に、家族にアレルギーがあることがわかったり、すでに家族の一員であるほかの動物との相性が難しかったりすると、譲渡とはなりません。
里親は倉敷市民である必要はなく、他県からの申し込みもあります。
そのほか、譲渡には以下のような条件(抜粋)があります。
- 完全室内飼い
- 毎年のワクチンと避妊去勢手術実施
- 家族全員の同意があること
- 家族にアレルギーのないこと
- 心身ともに、子猫のお世話ができる状態であること
- 猫を飼うにあたって安定した収入があること
- 飼っている犬猫の不妊手術を済ませていること
- 長時間ケージで飼わないこと
- ひとり暮らし、同棲、未成年のかたはNG
- シニア世代だけの家族はNG(後見人がいる場合は可) など
倉敷市保健所で引き取った子猫だけでなく、事故などで負傷した成猫や、市民から引き取る猫を保護し里親を探すケースも増えてきています。
譲渡会・イベントの実施
1か月に1~2回、猫の里親を募集する譲渡会を開催しています。
里親希望のかたが訪れ、実際に猫の姿や性格を見て、家族として迎えるかを検討できる場です。
当日連れて帰ることはできず、譲渡の条件に合っているかなどを検討し、譲渡の準備を進めていきます。
譲渡会のほか、夏休みにおもに子どもたちに動物との共生について考えてもらおうと、写真展を実施したことも。
ミルクボランティア・預かりボランティアの育成
猫の殺処分をなくすために、子猫を預かることができるミルクボランティアの育成を行なっています。
倉敷市の平成31年度市民企画提案事業の採択を受け、現在は倉敷市保健所協働事業として、行政と協働で事業を進めてきました。
離乳後の猫の預かりボランティアも募集中です。
また、倉敷市との協働事業として、猫に関する困りごとの相談の受付も行なっています。
寄付を募る
屋外で育った子猫を育てるには、医療費や物資が必要です。倉敷猫まもりの会では寄付を募っています。
Amazonの「ほしい物リスト」には猫用のフードや猫砂(トイレ用の砂)などが並び、自分の予算の範囲で購入しての寄付が可能です。
また、寄付金はゆうちょ銀行の口座で受け付けています。
Instagramは活動報告アカウントのほかに「倉敷猫まもsupport」という寄付報告専用アカウントがあり、支援物資や寄付金の報告を実施中です。
ミルクボランティアの育成、里親募集・寄付の募集の情報発信などを通じ、助けられる猫の数を着実に増やしてきた倉敷猫まもりの会。
支援の輪が広がってきた過程や活動への思いを、代表の塩田陽子さんに聞きました。
倉敷猫まもりの会 代表 塩田陽子さんにお話を聞きました
──塩田さんが保護猫活動を始めてから今に至るまでを教えてください
塩田(敬称略)──
私はもともと、野良犬を助けるボランティアをしていたんです。
株式会社マキシマ電業があるこのあたりは工業地帯で野良犬が住みやすく、問題になっていた時期がありました。
通勤するときに犬が保健所に連れて行かれるのを見るのがつらくて、ボランティアを始めました。
犬の場合、狂犬病予防法に基づき活動することになるので、成犬ではなく子犬のみを保護して里親を募集していたんです。
この地域の野良犬・子犬の数が減ってきていた平成25年頃、共同代表の平賀と知り合いました。
平賀は猫を保護するボランティアをしており、話を聞くと、倉敷市保健所には一年に約600匹の猫が持ち込まれていると。
犬のように法律がないことや、引き取って乳飲み子を世話できる人が少ないことから、子猫たちの多くは保健所にやってきたその日に処分されているという現状を知りました。
当時は近所で野良猫や、去勢・避妊手術をしていない飼い猫が子猫を生んだりすると持ち込むケースも多かったようです。
私自身、猫が好きだったことから胸を打つものがあり、「一緒に活動させてください」と平賀に話したのがこの活動のきっかけです。
最初の年、昼夜問わずミルクをあげ続け、3~4人で年間約20匹の子猫を救うことができ、達成感がありました。
「でもまだ大半は処分されている。人を増やしてみよう」と考え、ミルクボランティアを2人増やしたところ、さらに20匹以上の命を救えたんです。
ひとりでの活動では救える命に限りがあるけれど、仲間を増やせば倉敷のすべての猫を救えるかもしれないと思いました。
助成金を活用し、助けられる猫の数を増やすためにミルクボランティアを育成したいと考え、平成31年度市民企画提案事業に応募したんです。
無事に採択となり、説明会やボランティア育成セミナーを開催し、さらに5人、ミルクボランティアが増えました。そしたら、年間140匹も救うことができました。
同時に、環境の変化や野良猫の去勢・避妊といった他団体のかたの活動のおかげもあり、倉敷市保健所に持ち込まれる猫の総数が減ってきました。
そのこともあって、倉敷市保健所の猫のほとんどを、倉敷猫まもりの会で助けられるようになってきたんです。
今は行政との協働事業として、倉敷市保健所と一緒にお互いにできることを考え、話し合いながら活動を進めています。
現在、倉敷市では猫の殺処分は行なわれておらず、令和2年は倉敷市保健所からレスキューした153匹に加え、市民から87匹を引き取りました。
── 今は子猫だけではなく、成猫も保護しているのですね。
塩田──
倉敷市保健所には、子猫だけでなく交通事故・病気の猫も収容されます。
これまで子猫以外は断らざるを得なかったのですが、支援の輪が広がり寄付をたくさんいただけるようになったことから、交通事故・病気の猫も含め、ほぼ100%助けられるようになってきました。
外で育った子猫や交通事故・病気の猫はもともと弱っていることも多く、引き取り後に懸命にお世話をしても残念ながら譲渡までいかず亡くなるケースもあります。
けれど、ミルクボランティアが増えたことでていねいに育てることができるようになり、その死亡率も下がったんですよ。
時期にもよりますが、市民からの引き取りにも少しずつ対応できるようにもなってきました。
成猫の場合、引き取り後に猫たちは「家猫修業」をします。外で育った猫は人に慣れていないので、まずはボランティアメンバーの自宅で人に慣れてもらう訓練をするんです。
最初は「シャーッ」と警戒していた猫も、じきに触れるほど心を開いてくれて、見た目もきれいになります。
家猫修業中の猫は、今(取材時点)6匹ほど。子猫と違い、成猫は里親希望のかたと巡り合うのに時間がかかることが多いです。
──倉敷猫まもりの会の体制について教えてください
塩田──
本部として運営にも関わっているメンバーは6人です。SNSの発信や行政とのやりとりなどを行なっています。
ミルクボランティアが14人。平成31年度市民企画提案事業でのミルクボランティア育成以降、活動に関心を寄せて仲間となってくれたメンバーたちです。
団体として活動を継続できるよう、仕組みを整えています。
たとえば、口頭で同じように伝えるのは難しいと感じ、冊子のマニュアルやルールブックを作りました。
また、LINEグループでみんなと情報共有ができる仕組みもあります。
メンバーのひとりが写真と一緒に「この子を預かりました」と入れると、「かわいいですね」、「がんばってくださいね」とほかのメンバーのコメントが自然と入り、支えあえる場になっています。連帯感が生まれました。
命を預かるので、ひとりで抱えるのは大変。困ったことがあれば、みんなで解決していけたらと思っています。
マニュアルやルールについては、 懇親会を兼ねた研修会を半年に1回開催するなどして改善を重ねているんです。
せっかく皆さんと作り上げてきた仕組みなので、次世代につないでいく方法を考えていきます。
──今後やっていきたいことはありますか
塩田──
一度、保健所で失いかけた命ですから、幸せに長生きしてほしいという思いがあり、倉敷猫まもりの会の譲渡条件は厳しめです。
お見合いの段階でご自宅に伺ったときや、ご家族と話したときにNGとなる場合も多々あります。
脱走防止対策ができないおうちや、室内飼育への理解がないかたなどです。
けれど条件が厳しくても里親が見つかるということがわかりましたし、返却率はゼロ。
信頼を置いてくださり、2匹目もリピートで引き取ってくださるかたも多くいらっしゃるんです。
これまで通り、ミルクボランティア・里親の双方が安心できるよう、猫たちを送り出していきたいです。
体制としては、ミルクボランティアに限らない預かりボランティアも増やしていければと思っています。
成猫の場合、里親が決まるまでの期間が子猫に比べて長く、たくさん預かることができていません。
けれど、ずっと家にいるのが難しく乳飲み子を預かれないかたや、年齢的に譲渡できないけれど猫好きなシニア世代など、成猫の預かりボランティアならではのマッチングもできると思っています。
実際に今、 シニア世代の女性で一人暮らしのかたにボランティアをお願いしていて、成猫6匹が巣立っていきました。
社会と協調しながら活動を進めていくことが大切だと思っています。
たとえば世の中には猫が嫌いな人もいるでしょう。そういったかたには嫌な思いをさせないように、人も猫も誰もが暮らしやすい、共存していけるまちづくりにつなげていきたいです。
おわりに
私は今、友人が保護した猫と暮らしており、毎日癒されています。「猫と暮らしても良い」と大家さんが言ってくれたので引き取ることができました。
以前はペット不可のアパートに暮らしており、猫との出会いがあっても家族に迎えるのを諦めたことがあります。
お話を聞き、以前の私のように住環境や猫アレルギーなどで猫と暮らせない人でも、寄付の協力やSNSでの応援など、協力できることがたくさんあるとわかりました。
猫を家族に迎えたいかたにも、そうでないかたにも、倉敷猫まもりの会の取り組みを知ってほしいです。
幸せな猫へのシンデレラストーリーが、倉敷でたくさん生まれますように!