奇跡の軽量ボディ「990S」はロードスターの楽しさをてんこ盛りにした“究極のND型”である

マツダはオープンスポーツカー「ロードスター」を2021年12月16日に一部改良した。新機能KPCの採用と共に注目を集めたのが、最軽量モデル「990S」の発表だった。ND型ロードスターオーナーの自動車ライター、伊藤 梓さんが解説する。

マツダ 新型ロードスター 特別仕様車「990S」(6速MT)[2021年12月16日一部改良モデル/4代目・ND型] [Photo:和田 清志]

見た目はほとんど変わっていないけど…中身の変革が著しかった今回の一部改良

新たに追加されたロードスター 特別仕様車「990S」(6速MT)

2021年末に商品改良されたマツダ ロードスター(ND型・2015年デビュー)。一見すると、大きな改良があったようには見えないが、どんなシーンでもロードスターとの一体感を生む『キネマティック・ポスチャー・コントロール(KPC)』の採用や、ロードスターの最軽量モデル『990S』の追加など、見かけ以上にロードスターを楽しむ要素が増えている。

KPCの詳しい説明については、別記事を参照してもらうことにして、今回は、商品改良後のロードスターのそれぞれのグレードにどんな違いがあるのかをたっぷり紹介したい。

最大のニュースは車重1トンを切った最軽量の特別仕様車「990S」の新設だ!

今回のマツダ ロードスター一部改良で、おそらく誰もが気になっているのが、新しく追加されたグレード「990S」だろう。

これは、今回の商品改良から初設定されたもので、全グレードの中でもっとも最軽量のグレードになっている。

他グレードと違うのは、レイズ製のホイールとブレンボ製のブレーキがついていることと、幌が紺色の「ネイビートップ」になり、エアコンのルーバーやフロアマットのロゴにもアクセントのブルーが施されていることだ。

,
,

諸元表では990S、そしてベースとなった「S」グレードともに“990kg”と記載されている。だが日本の諸元表は5kg未満の数値は切り捨てられるので、実際には990Sの方が軽いという。

ブレンボのブレーキは、ノーマルと比べるとローターが1サイズ大きいが、全体的な重量はほぼ変わらない。大きいのはホイールの違いで、1本あたり約800g軽いため、合計で約3.2kg軽量化されていることになる。単なる重量減ではなく、バネ下の重量が抑えられていることもあって、クルマの運動性能には大きく効いてくる。

さらに990Sは、ノーマルよりもレートの高いスプリングを採用し、しっかり感が増していることと、ダンパーは伸び側をやや弱めているので、より足が柔軟に動くようになっている。

そして、なんと電動パワーステアリングとECU(Electronic Control Unit:エンジン制御用の電子ユニット)の設定まで専用チューニングされているというから驚きだ!

単なる特別仕様車の扱いじゃない! アシの設定からエンジン制御まで全てが独自仕様だ

これらの改良と、先に挙げた新機能KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)の相乗効果によって、マツダ 新型ロードスター 990Sのステアリングフィールは、軽やかさに加えて落ち着いた雰囲気になった。ECUはアクセル開度に対してパワーがやや出やすくなっている設定としたため、軽快感が増している。

もともとマツダ ロードスターのベーシックグレードSは、軽快で楽しく、ヒラヒラ感は抜群だったものの、その分、乗り味はやや軽薄だったのは否めない。上記の変更によって990Sは、Sのヒラヒラ感を残しながらも、豊かに動く足回りと上質な乗り味を両立させている。

普通であれば、単なるグレード違いでばねやダンパーを変えたり、さらにパワステやECUまでチューニングしたりするというのは考えられないことだ。990Sは、それだけロードスター好きのために考えられた、マツダ肝入りのモデルだし、ロードスターの楽しさをてんこ盛りに盛り込んだグレードと言って良いだろう。

「とにかくロードスターらしい運転を楽しみたい!」という人なら、正直この990Sを選んでおけば間違いない。

カーナビやオートエアコン、オートライトなどの快適装備がついてない…990Sはちょっとストイック過ぎるかも!?

とはいえ990Sは、ベーシックなSをベースにしたモデルのため、走り以外の装備はとても簡素だ。

純正ナビ(マツダコネクト)は付いていないし、エアコンやワイパーはマニュアルだし、オートライトもシートヒーターもついていない。私自身、これらが付いていない競技車両ベースの「NR-A」というグレードのロードスターに乗っているが、実はまぁまぁ不便だ。毎日のことだし、運転する度に何度も操作する部分なので、正直付いていないことによって“QOL(Quality of Life)”は下がる(運転だから“QOD”?)。

なので、現行ND型ロードスターファンとしては大興奮する要素しかない990Sだが、あくまで走りに特化した究極のグレードだということは覚えておいた方がいいかもしれない。

[筆者:伊藤 梓(自動車ライター)/撮影:和田 清志]

© 株式会社MOTA