「恐怖の村」シリーズを構成する3つの要素とは? 『牛首村』公開記念 シリーズまとめ

YouTube映画レビュアー・茶一郎さん制作 「恐怖の村」シリーズまとめ動画公式書き起こし

「恐怖の村」シリーズ第三弾『牛首村』公開記念。背筋を凍らす、これぞクールジャパン!日本の心霊スポットを舞台にした「オラこんな村いやだ」。「恐怖の村」シリーズの過去作『犬鳴村』『樹海村』、そして最新作『牛首村』は、一体どんなシリーズだったのかについて“ゆるく”お伝えします。

(左)「犬鳴村」©2019 「犬鳴村」製作委員会 (中央)「樹海村」©2021「樹海村」製作委員会 (右)「牛首村」©2022「牛首村」製作委員会

1作目『犬鳴村』あらすじ

シリーズ1作目『犬鳴村』。臨床心理士の奏(かなで)。ある日、家に帰ると奏のお兄さんの恋人の様子がおかしい。目がどこを見ているのか分からない、焦点が定まらない感じで、奇妙なわらべ歌を歌っている。一体、何を歌っているのか?奏がお兄さんに、どうして恋人がおかしくなったかを聞いてみると、どうやらお兄さんと恋人は心霊スポットに行ったとわかる。心霊スポットの名前は「犬鳴トンネル」。兄たちが「犬鳴トンネル」に行ったことから、兄と奏の周りで奇妙な事が起こり始めます。

「恐怖の村」シリーズを構成する3つの要素

恐怖の村シリーズ1本目『犬鳴村』。日本では興行収入14億円とヒットしました。シリーズで最も有名な『犬鳴村』をベースにまとめていきたいんですが、ホラー映画を分かりやすくまとめるという、この行為自体が正直野暮というか、作品の持っている怖さを目減りさせてしまうと思いますので、ぜひ本編と合わせて予習・復習用にご覧ください。

このシリーズ、とても分かりやすく同じ構造で作られています。3つの要素の合体ですね。1つ目は「心霊スポット」。特にネット、掲示板上でよく知られている有名ネタ「心霊スポット」を一つの軸にしています。2つ目は「幽霊/ホラー描写の詰め合わせ」、「心霊描写デラックスセット」です。これもネット上で有名な怪談、心霊ネタを映像化した、とても多種多様な心霊描写が、ややストーリーを逸脱する形で詰め込まれています。そして最後の3つ目は、「血縁という呪い」というテーマ。これは大いに清水崇監督の作家性から来ているものだと思います。清水崇監督はこの「恐怖の村」シリーズを「血縁三部作」と呼んでいますが、ミステリー的に主人公が呪いの元凶を探していく過程で、必ず主人公の“血縁”が物語に絡んでくる。自分の家族、先祖、血縁が、逃れられない呪いのように、「心霊スポット」を介して主人公に絡みついていく。そういうモチーフを描きます。「心霊スポット」×「心霊描写デラックスセット」×「血縁という呪い」の3つを定型にして繰り返しています。

「犬鳴村」©2019「犬鳴村」製作委員会

シリーズの要素1 心霊スポットが舞台に

一つずつ見ていきましょう。ネット、掲示板上でよく知られている有名な「心霊スポット」が舞台になるということで『犬鳴村』では、名前の通り「犬鳴トンネル」が登場します。福岡県に実際にある犬鳴峠、犬鳴隧道。ネットで「心霊スポット」を検索した事ある方は、絶対に一度は耳にされた事あると思います。本作に限らずですが、ここ10年のジャパニーズホラー=Jホラーは、ネットで話題になったネタを逆輸入的に物語にするケースが多くなりました。この「恐怖の村」シリーズはそういった逆輸入ケースの最大手という感じですね。

大映画会社・東映が、YouTube上にたくさんある「犬鳴峠に行ってみた」といった一般の投稿を、一本の映画にするという企画。当時、驚きましたし、新しさを感じました。このネットからの逆輸入を強調するキャラクター/設定があります。「恐怖の村」シリーズすべての作品の発端は、大谷凛香さん演じるアキナもしくは動画投稿者のアッキーナにある。これがシリーズお決まりになっています。「大体こいつのせい」という、狂言回しじゃないですが、必ず一般人の動画投稿者の承認欲求、バズり欲がストーリーの元凶になっているというのが現代的なのかもしれません。新作『牛首村』でも大谷凛香さん演じるアッキーナが登場しますので、どうやらかすのか、チェックしてみて下さい。

シリーズの要素2 ネット発の心霊/怪談描写

舞台となる心霊スポットがネット発の逆輸入だとすると、劇中のホラー描写/心霊描写も逆輸入が多いです。ネットの怖い話・都市伝説とか、某掲示板のオカ板(オカルト板)とか、検索してはいけない言葉とか、あとは「意味怖(意味がわかると怖い話)」とか。お好きな方はおそらく一度は聞いたことがある心霊ネタを、かなり忠実に映像化する。そこも逆輸入になっていますので、ネット世代の我々にはドンピシャというホラーシリーズなんです。

例えば1作目『犬鳴村』だと、知らない番号から電話がかかってきて、電話に出るとポコポコポコと水の音がする。「何だろうな~」と、その番号を調べたら、もうこの世には存在しない、ダムに沈んだ村からの電話番号だったみたいな。これはネットでも有名な話ですし、テレビでも昔、「人志松本の〇〇な話」の「ゾッとする話」で島田秀平さんが話されていたと思います。そんなダムに沈んだ村からの電話を、物語に合うようにアレンジしたホラー描写があったりします。

一番驚いたのは二作目『樹海村』。これもそもそもタイトルが、青木ヶ原樹海には自死をしようとした人が死にきれずに、そこでそのまま住んで村を作っている。その村の名を「樹海村」という。この都市伝説をそのまま映画にしていますが、この『樹海村』の大きなネタとして「コトリバコ」というのが登場します。この「コトリバコ」というのは検索してはいけない言葉で有名ですが、ご存じない方は寝る前とかに検索していただくと、気分悪く眠りにつけると思います。こういった具合に、ネット発の逆輸入、映像化というのが心霊描写の特徴になっていまして、この「恐怖の村」シリーズは心霊描写が豊富です。ここが楽しいですよね。“映像化してくれた”といううれしさと、手数の多い個々の心霊・ホラー描写=「心霊描写デラックスセット」に、毎度、楽しませていただくという、エンターテインメントとして楽しいホラーシリーズが「恐怖の村」シリーズです。

シリーズの要素3 テーマ「血縁という呪い」

3つ目は、「血縁という呪い」がテーマとして浮き上がってきます。主人公が、心霊スポットの元凶を、ミステリーのように真相を探っていくと、必ず自分の「血縁」にたどり着く。この不気味さは、エンターテインメントとして楽しんでいられない部分かもしれません。この「血縁」は、本シリーズの清水崇監督作品らしいところです。清水崇監督は常に、「逃れられない理不尽な恐怖」という、Jホラーの基本中の基本を追求されている方なんです。

監督作で最も有名な『呪怨』シリーズは、ただその家に足を踏み入れただけ、住んだだけで呪われてしまう。別にお地蔵さんを蹴るとか、バチが当たることをしたとかではなく、住んだだけ。これで呪われてしまうというのが、『呪怨』の最も怖いところです。呪いの元凶である前に住んでいた人の郵便物が間違って届いてしまう、という描写が『呪怨』にありますが、清水崇監督作品はこの怖さなんです。自分ではどうしようもない、前に住んでいた人の呪いのせいで、自分が呪われるという理不尽さ。これを追求されていまして、特に『輪廻』(2005)という作品では、自分の前世のせいで呪われてしまうという、“どうすればいいんだよ”という無理ゲー感、生まれた瞬間から詰んでいる感、これは「恐怖の村」シリーズにも引き継がれています。

確かにシリーズの発端はアキナのせいですが、主人公にとっては生まれた瞬間から確定している「血縁」という呪いのせいだった。血縁、出自に向き合わなければいけない。家族の闇、先祖の影の歴史と対峙しなければいけない。この湿度の高い不気味さが、「恐怖の村」シリーズで最も不気味なあたりです。同時代には、『ヘレディタリー/継承』という「継承」について、血筋についての傑作ホラーがアメリカでも作られましたが、「恐怖の村」シリーズを語る上での最後のピースは「血縁という呪い」、ひいては清水崇監督的な「理不尽ホラー」ということだと思います。

「樹海村」©2021「樹海村」製作委員会

2作目『樹海村』

2021年公開の2作目『樹海村』。引っ込み思案な響(ひびき)は、姉の友人の引っ越しの手伝いに駆り出されます。その引っ越しの最中に、新居の床下で風呂敷に包まれた箱を見つけます。風呂敷を開けると、何とも禍々しい見た目の謎の箱が。その箱を見つけてから、響の周りで不気味な出来事が起こり始めます。

恐怖の村シリーズ2作目『樹海村』は、検索してはいけない有名な言葉「コトリバコ」の呪いを物語のエンジンにして、最終的に呪いの元凶の青木ヶ原樹海にたどり着く。やはり先ほど挙げた定型の3つの要素からなる一本です。個人的には、最新作『牛首村』を含めた「恐怖の村」シリーズで、一番優れているのは『樹海村』だと思います。樹海というロケーションが映画的に豊かですし、「コトリバコ」を発端とするホラー描写の乱れ打ちを、とても堪能しました。清水崇監督は、スウェーデンの傑作『ボーダー 二つの世界』、またウィリアム・フリードキンの隠れた珍作『ガーディアン/森は泣いている』を影響作として挙げていたのを記憶しています。その系譜にある森の怖いホラー、森ガールも裸足で逃げ去る森ホラーとしても、『樹海村』は印象深いです。

先ほど言い忘れていましたが、「恐怖の村」シリーズは人体破壊描写をきちんとやっています。『犬鳴村』では、水にふやけて腐った皮膚がズルッと取れる描写とか。この『樹海村』でも、“何でそこをちゃんとやるんだよ!”という、『呪怨』のオリジナルビデオ版的な肉体破壊描写もご注目下さい。

「牛首村」©2022「牛首村」製作委員会

最新作『牛首村』

最新作の『牛首村』。ある心霊スポットで一般人が配信した映像。奏音(かのん)はこの映像に自分と瓜二つの姿・見た目をした謎の女性を見つけます。その女性の正体を探るため、奏音は心霊スポット「坪野鉱泉」に向かいます。

富山県にある心霊スポット、実際に痛ましい失踪事件が起きた「坪野鉱泉」を舞台に、この世で最も恐ろしい怪談と呼ばれる「ウシノクビ」の真実が明かされるという触れ込みです。「ウシノクビ」の怪談を聞いた人は必ず死んでしまう。だから内容を誰も知らない。中身がないというのが本質の怪談「ウシノクビ」の真実とは!?

シリーズを更新し続けて3作目。最新作『牛首村』に、少し困惑する方もいらっしゃるかもしれません。というのも、かなり作り手側が、先ほどから申し上げている「お決まり」のパターンを意識して繰り返しているからです。『樹海村』と照らし合わせると、「青木ヶ原樹海」が「坪野鉱泉」になって、「コトリバコ」が「ウシノクビ」になっただけといえばだけです。これを「またこのパターンか」と停滞と見るか、「実家のような安心感」とお決まり展開に安心と感じるか。観客の既視感と安心感が、“ハッケよーい残った残った”とせめぎ合います。皆さんはどちらでしょうか。しかしこの『牛首村』。中盤のホラー描写は結構頑張っています。シリーズの中でもかなり新しい見せ方の「飛び降り」シーンがありまして、これには私も不謹慎ながら驚きました。皆さんが楽しく怖がれることを願っております。

最後に

恐怖の村シリーズ過去作『犬鳴村』『樹海村』、そして最新作『牛首村』。個人的には毎年1作のペースで「水戸黄門」的なお決まりのホラー大作シリーズでも良いのかなぁなんて思ったり、いや清水崇監督にはそろそろ新しい怖さを追求して欲しいなぁなんて思ったり。恐怖の村シリーズ第三弾『牛首村』公開記念、「恐怖の村シリーズ」ゆるまとめでした。

本記事は、圧倒的な情報量と豊富な知識に裏打ちされた考察、流麗な語り口で人気のYouTube映画レビュアーの茶一郎さん制作による、映画スクエアの公式YouTubeチャンネル「映画スクエア Topic」で公開した動画の、公式書き起こしです。読みやすさなどを考慮し、編集部で一部変更・加筆しています。

【作品情報】
牛首村
2022年2月18日公開
配給:東映
©2022「牛首村」製作委員会


茶一郎
最新映画を中心に映画の感想・解説動画をYouTubeに投稿している映画レビュアー

© 合同会社シングルライン