恋するハートの疾走感!小泉今日子「艶姿ナミダ娘」に詰まっている17歳のリアル  小泉今日子 デビュー40周年のアニバーサリー・イヤー!

「艶姿ナミダ娘」で感じる小泉今日子のヴォーカルの魅力

『スター誕生!』での普通っぽさ。デビュー時のイメージイラスト、大山和栄さんが描いた黄色いワンピースの女の子と実際の違和感、70年代の色合いが強い楽曲… 同学年の女子であるわたしから見て小泉今日子さんというのは、デビューからしばらく、それほど興味を引くアイドルではなかった。

ただ、男子からの人気は既にあったのだろう。『明星』『平凡』『近代映画』あたりを見ていて、顔が小さくて歯がきれいで、グラビア映えする女の子だと思ったものだ。

1983年春頃に髪を切った彼女は、暫くして5月に「まっ赤な女の子」をリリースした。「あぁ、曲の感じが変わったな」と私が思ったのはこの時期だ。サウンドから古めかしさが消え、その時期の旬の洋楽のエッセンスを取り入れて、歌い方がよりパーソナルに、セクシーさを伝える感じになった。

そして7月リリースのアイドルポップの王道的な「半分少女」では、当時の朝日放送での高校野球の住友グループCMのBGMを思わせる清純なサウンド上で、よりパーソナル&セクシーさを強調したヴォーカルを聴かせた。

そして11月リリースの「艶姿ナミダ娘」。

シンセドラムが弾け、オリエンタル風なキーボードのフレーズ、アース・ウインド&ファイアーの「フォール・イン・ラヴ(Fall in Love with Me)」を思わせるレコードの早回し的フレーズで終わるイントロを経て、頭サビ「艶姿ナミダ娘 色っポイね」。この「いろっぽいねぇ~ ねぇ」、と少しディレイさせているあたりがすでに艶っぽい。明らかに誘っている。

彼女のヴォーカルの魅力は、微妙な揺らぎと力の抜き加減、そこから生まれる生々しさだと思っている。

夕暮れ時に「明日また逢えるよ」で帰されちゃうなんてイヤイヤ。もっともっと一緒にいたいと、舗道で公衆の面前で彼の肩におでこをつけて泣く、恋する女の子のいじらしさ。このままじゃ恋人同士でなくなっちゃう不安。恋人同士なら、恋して抱き合うことは自然なこと… そのデリケートでなまなましい歌声には、17歳の女の子のリアルがつまっている。

作詞・康珍化、作編曲・馬飼野康二が描く“普通の女子高生の気持ち”

2017年発売の『コイズミクロニクル~コンプリートシングルベスト1982-2017~』の同梱書籍「コイズミシングル~小泉今日子と50のシングル物語」によると、作詞を手掛けた康珍化さんは、夏の終わりに原宿駅近くでデートの終わりを惜しむ浴衣姿の女の子たちをヒントに、タイトル「艶姿ナミダ娘」を思い付き、タイトルとサビのコピーと、サブコピー「意味深 I Love You」だけを指定して作曲を依頼したという。

ディレクターの田村充義さんは、作曲とアレンジを馬飼野康二さんに依頼した。当時の人気番組『欽ドン! 良い子悪い子普通の子』の設定で小泉今日子さんは「普通の子」的なイメージを狙ったという田村ディレクターのインタビューが記載されているが、まさに1983年の普通の女子高生が好きな男の子に思う気持ちが凝縮されている。

小泉今日子さんが「艶姿ナミダ娘」のシングルジャケットで見せる、上目遣いで潤んだ表情は、“もう少し彼との仲を進めたい” そう思っている女の子のまっすぐな気持ちがとてもよく表現されていると思うのだ。

サウンドに乗った “恋するハート”

恋するハートの疾走感は、サウンドに顕著に現れている。

早いテンポでグイグイリードするリズム隊。その上でキラキラと華やかに賑々しく多彩に展開されるキーボード。主張するホーン隊や、Eveの超ファンキーなコーラスが心の嵐を煽る、煽る! 煽る!! マイケル・センベロの「マニアック」を思わせる、疾走感があってダンサブルなテクノサウンドに乗る彼女の生々しいヴォーカル。

このサウンドが「小泉今日子の今度の歌カッコイイやん」と、あまり女性アイドルに興味を示さない17歳の私の耳を惹いた。そして歌番組での彼女の歌唱がどんどん上手くなっていくのを目の当たりにし、彼女は加速度的にきれいになっていった、と思っている。

YouTubeで見られる当時の各歌番組では、ほぼオリジナルに忠実なアレンジが施されているが、微妙に各番組での個性が目立つ。

『レッツゴーヤング』ではベーシストとギタリストが主張しすぎだが個人的には好きなアレンジ。全員集合での岡本章生とゲイスターズはホーンが目立つ。

『ザ・ベストテン』では弦が目立つゴージャス版。『レコード大賞』のゴールデン・アイドル賞ではリンドラムが目立つが、マイクトラブルがあり少々かわいそうだった(バッキングだけを聴こうとする向きには貴重な記録であるが)。

お正月番組において振袖で多少テンポを落として歌ったこともある。もちろん振袖では踊れないので振付はあってないようなものであったが、これはこれで貴重な記録。

Night Tempoとのコラボも期待大

変わり種としては、2020年にノーランズが英語詞をつけてカヴァーしている。詞はどうあれアレンジはほぼオリジナルに沿っているが、イントロ部分のキラキラっとしたジャパネスクなフレーズがないのが惜しい。

2022年、彼女自ら「艶姿ナミダ娘」の昭和グルーヴ化をNight Tempoさんにオファーし、テンポを落としてフューチャー・ファンク化した作品を発表した。

オリジナルとは趣が若干異なるが、Night Tempoさんとのコラボから彼女の作品を知るひとも出てくることを考えると結構重要なポイントになるのではないか… と私は期待している。

カタリベ: 彩

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