デジタルとビジネスの二刀流人財を育成し、DXを加速せよ "見える化"から"変わる化"への進化の道筋を考える 製造UPDATAものづくりDX最前線レポート

左から
株式会社日本オープンシステムズ 常務取締役 事業部門担当 駒野 英史氏(モデレーター)
AGC 株式会社 化学品カンパニー戦略本部DX 推進室技術企画グループ グループリーダー 石井 崇則氏

「見える化」「わかる化」「変わる化」で実現するプラントDXの取り組み

講演冒頭で石井氏より、「見える化」「わかる化」「変わる化」の定義が提示された。

**・「見える化」 業務がデジタル情報になる(情報のデジタル化・可視化)
・「わかる化」 業務にデジタルが溶け込む(デジタル化による効果実感)
・「変わる化」 DX(変革)**

「見える化」から「変わる化」に至る説明が石井氏の講演と、駒野氏による間の手で流れるように進行した。

なぜ見える化に取り組むべきなのか

見える化はグランドデザインを描く上で重要なフェーズとなる。DX では、まずデータありき。基盤となる見える化の部分をきちんと作っておかないと、費用対効果を検討することさえ覚束なくなる。

まずは、出来るだけ幅広くデータを収集する必要がある。とは言え、データは多種多様。手書きだったり古い形式だったりすることも珍しくない。見える化の段階では、データを集め、蓄え、ある程度整理し、つないでいくことが大切となる。

■見える化でのデータ取得

人に紐付く情報:電子帳票などに置き換えて直接入力
→検査、点検、巡視、ヒヤリハット、安全、衛生など

モノからの情報:RFID や IoT センシングに置き換えてダイレクトにデータを取得
→現場計器、コンテナ容器、資材、車両、建機、など

有線から無線に置き換えデータ取得を容易にする
→屋外の工場、広大な工場では有線の配線は難しい
→BWA(自営無線通信ネットワーク)は一つの選択

製造業ではデータ収集は当たり前のこととして根付いているため、製造に必要なデータは既に蓄えられているのが一般的だ。しかしデータはデジタル化されているだろうか? 製造以外のデータは標準化・一元化されているのか? データはお互いに繋がっているか? IT と OT(オペレーショナルテクノロジー)は上手く連携しているか? ……などなどチェックすべき項目は少なくない。

なお手書き情報の入力に際しては、入力の規則や業務の流れを一旦整理するなど、ルールの見直しを積極的に行いたい(例:タブレットを利用した帳票自体の電子化など)。業務改善に繋がるきっかけにもなる。

ACG化学品カンパニーの見える化の基盤

見える化では「何を見たいか」を吟味する必要がある。自問自答を繰り返すことで、どんなシステムを組むべきなのか見えてくる。製造業で実績があり、目的に合ったダッシュボードや BI ツールを選定する必要がある。

ACG化学品カンパニーでは「CHAMP」という見える化の基盤を構築している。CHAMP を通して工場の問題がピックアップされ、見える化とわかる化の橋渡しが行われる。

ACG化学品カンパニーのわかる化の基盤

見える化によって実現されたデータの可視化により、データの分析・活用が行われる。

■データの分析・活用の例

**・相関関係→因果関係の発見
・状況監視→傾向予測の実現**

見える化「CHAMP」に対し、データ活用の基盤として「CHART」と呼ばれる基盤を構築している。

コーディングを極限まで減らしグラフィカルなツールを組み合わせて、ETL(抽出・変換・格納)の機能やその先の各種データの解析機能を搭載。ローコードツールである Alteryx を積極的に活用することで、ビジネスユーザーがデータを使いこなすことが簡便になっている。

デジタル技術内製化を加速させる二刀流人財

デジタル技術のつかいこなしに関して「内製化するべきか否か」という議論があるが、この点に関して同氏は「内製化は重要」という立場だ。

「デジタル技術はセンシングも通信もアプリケーションを含めた開発環境も多種多様。日々変わって行くのでスピード感も必要だが、それにはビジネスのこともデジタルの使いこなしも理解している二刀流人財を育成することが大事だと考えている」(石井氏)

AGC化学品カンパニーではデジタル技術を三つの階層に分類して考えている(図参照)。その内下段と中段に相当するデータテクノロジー(基礎的な技術の理解)とデータエンジニアリング(データの加工集計や簡単な解析)の習得をビジネスユーザーにも求めている。つまり二刀流を使いこなせる中間層を増やそうと考えているが、こうした人財が増えれば、ローコード開発やデータ解析が業務の一部として当たり前の世界が訪れる。

新しい技術はつぎつぎと登場する。新技術を取り入れる際は外部の力を借り、短期間で基盤をつくることが少なくない。そのとき外の人間とデータという共通言語で話せる人財が多ければ、ことがスムーズに運ぶ。社内にアンテナの感度の高い人財が増えてくると、DX 推進のスピードは加速していくだろう。

「『二刀流の刀のどちらが大きいか』という部分に関して個人間でバラツキが出てくるが、その多様性が変化に対応する力になる。この差は歓迎すべきことである」(石井氏)

「価値が出るんだったら、データを取っておこう」も立派な変わる化

かつては「データ解析は時間を掛けてやるもの」という意識があったかもしれない。しかしリアルタイムでデータの取得が出来、高速での処理が可能となった現在、「価値が出るなら、データを取って整理しておこう」という考えが根付いてきた。つまり企業文化に変化が起きたと言える。

「DX の最終的なゴールは変わる化だ。しかし到達には時間がかかる。我々としてはささやかでも変わる化まで行き着いた事例を複数作っておきたい」と石井氏。

同氏は「DX に取り組んで数年になるが、まだ頂上が見えない」と語る。というのは登っても登っても、新しい頂上が見えてくるからだ。そこで同氏は世の中での相対的なポジショニングを意識しているそうだ。「現在自分たちが登山の何合目にいるかは容易に把握出来ない」(石井氏)と心情を吐露する場面も見受けられた。

「今回のようなイベントやウェビナー、各種展示会に参加することで情報感度を磨いておくように心掛けている。我々の取り組みを紹介することで、他社と意見交換する機会も生まれる。新しい気づきを得るためにもオープンな取り組みが重要だと考えている」という言葉で、同氏は講演を締めくくった。
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