Z世代と呼ばれる若者の間で、短歌がブームとなっている。ブログやmixiが盛んだった頃は”Twitterの140文字なんて短すぎる!”と思ったものだが、そこから更に文字数が減り、わずか31文字で表現する現代短歌。今回はその中でも最も切れ味のある歌集「老人ホームで死ぬほどモテたい」を執筆した上坂あゆ美さんにお話を聞いた。
――まず短歌との出会い、制作のきっかけを教えてください。
上坂:物心ついた時から、何かを表現したいという創作欲求があり、美術大学に進学しました。でも合理的な性格なのか、本当に価値はあるの?と葛藤があって。絵やデザインなど手を動かす行為は全然楽しめず、創作欲求だけを持て余していました。そのまま社会人になって、たまたま”新鋭短歌シリーズ”を手に取り、現在短歌のシャープな面白さに感動しました。その後、実際自分で詠んで初めて新聞の歌壇コーナーに投稿してみたんです。そしたら穂村弘さんに採っていただいて。そこから調子にのって今に至ります。今思えば、手を動かすより頭で考える方が好きだったんだなーと。短歌は無料でてきるので!
――絵や写真はお金がかかりますが、短歌は今始めようと思ったらできるとこがいいですね!31文字で表現を完結させて、あとは読者に委ねるというのは、かなり難しいのでは?どのように作られているんですか?
上坂:まず表現したい出来事や感情があったら、スマホで文字数気にせずメモしてます。それを元に31字に当てはめ削ったり足したりを繰り返します。分からなくなってきた時には、歌人の友人にアドバイスをもらったり、Twitterのアンケ―トで決めることもあります。
――上坂さんの作品は、切り口が鋭いというか、1行で心えぐられる短歌が目立ちますよね。人間の強さを表現されていると思います。昔の風流で上品でとっつきにくい百人一首のような和歌をイメージされている人はかなり驚くのでは?
上坂:現代短歌というジャンルでは口語表現で短歌をつくっていて、俵万智さんの「サラダ記念日」とかもそうですよね。ただ私は、父親がパチンコなどのギャンブル中毒で、姉が元ヤンで、といった変な家庭環境だった部分が短歌に影響しているんだと思います。偏見かもしてませんが短歌つくられる人って、文化的に成熟している家庭環境の方が多いイメージなので、私のような”ストリート育ち”みたいな歌人は目立つのかもしれません。ラップだよね!とか、パンチラインが効いてる!と言われたり、今回帯を書いていただいた東直子さんには、上坂さんの歌はヤンキーぽい、って言われました(笑)
――「老人ホームで死ぬほどモテたい」というタイトルはどうやって付けられたんでしょうか?
上坂さん:この本は、地元や家族が学校に違和感を感じている、昔の私のような皆さんに読んで欲しいなと思っていて。過去を呪って生きるのではなく、未来への眼差しを示したかったんです。
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あとがきには、こう綴られている。「いつか老人ホームに入るころには、わたしの中の全てのわたしから、死ぬほどモテたい。手放しで称賛せざるを得ないような、かっこいいわたしになるのだ」と。過去のわだかまりを手放し、未来を掴むための短歌である。31文字に詰め込まれた人生の塊。読書が苦手な人にも手に取りやすいが、ページ開けば最速で心を刺され、閉じてもしばらくその痛みは消えない。短歌に馴染みのない人にこそ、手に取ってもらいたい一冊である。
上坂あゆ美さん関連情報
「老人ホームで死ぬほどモテたい」上坂あゆみ著:http://www.kankanbou.com/books/tanka/shinei/0506
上坂あゆ美Twitter:https://twitter.com/aymusk
(よろず~ニュース特約・ゆきほ)