「李在明氏は対日強硬派」の見方否定 韓国大統領選キーパーソンに聞く(2) 韓国与党の宋永吉代表

ソウルの国会議事堂で共同通信と単独会見する韓国の与党「共に民主党」の宋永吉代表(共同)(了) 20211018

 韓国大統領選の両陣営キーパーソンに日韓関係や北朝鮮政策について直接聞く連続インタビュー、2回目は革新系与党「共に民主党」の宋永吉代表だ。文在寅政権では元徴用工問題などで日韓関係が急速に悪化。李在明候補は過去、日本に厳しい発言を繰り返したため日本ではさらなる関係悪化への警戒感があるが、宋氏は「対日強硬派」との見方を否定し、関係改善に意欲を表明した。(共同通信=岡坂健太郎)

 ▽反日イデオロギーのように映るかもしれないが…

 李氏は、過去には日本を「侵略国家」と呼び「敵性が完全に解消されたとみるのは難しい」と主張、厳しい姿勢が目立った。昨年11月の記者会見でも「輸出規制(強化)で韓国に経済攻撃を試みたのも事実だ。日本に警戒心を持たないわけにはいかない」と批判したが「日本の国民と国家を愛している」とも語った。

韓国中部・大田で握手を交わす与党「共に民主党」の宋永吉代表(右)と大統領候補の李在明氏=21年10月(聯合=共同)

 宋氏は「(李氏には反日)イデオロギーがあるように映るかもしれないが(大統領になれば)実用主義で韓日関係を打開していくだろう」との見方を強調する。自身も日本の人脈を生かして関係改善に努めると語った。昨年9月に訪米した際の印象として、日米韓協力を重視する米国も「韓日関係を心配している」と話し、ブリンケン米国務長官が韓国の李秀赫駐米大使と何度も会い、日韓関係改善について議論していると明らかにした。

 ▽元徴用工問題は折衷案を見いだせる

 宋氏は「韓日間で今、最も必要なのは経済協力だ」と語り、輸出規制強化の解除を日本政府に求めた。親交がある河野太郎行政改革担当相(当時)と非公開でオンライン会談し、日本からの半導体の輸出増を要請したこともあるとし「(規制が)解除されれば信頼が高まるだろう」と語った。

 韓国最高裁が日本企業に元徴用工への賠償を命じた問題では「政治的問題にしなければ企業と請求権者(元徴用工)の間で解決できる事案なのに安倍晋三政権が国家間の問題にした」と批判。日本同様に三権分立の原則がある韓国では司法判断を尊重するほかないとした上で「全ての可能性をテーブルに載せて対話をすれば(日韓間で)接点や折衷案を見いだすことはできる」と強調した。

◎キーワード「韓国人元徴用工訴訟」

 韓国最高裁は2018年10~11月、日本の植民地時代に労働を強いられたとして韓国人元徴用工らが損害賠償を求めた訴訟で、日本製鉄(旧新日鉄住金)と三菱重工業に賠償支払いを命じる確定判決を出した。判決を受け韓国で追加訴訟が相次いだ。日本政府は19年夏、半導体材料の対韓輸出規制を強化。韓国側は徴用工問題を巡る事実上の報復措置と受け止め、日本製品の不買運動が起きるなど日韓関係悪化につながった。

東京で開かれた行事で河野太郎氏(左から3人目)らと写真に納まる宋永吉氏=19年10月(聯合=共同)

 

 基金をつくったり、慰安婦問題を巡る2015年の日韓合意に基づき設立された財団への日本の拠出金を活用したりすることも検討可能だとした。両国の法律家らが議論する案にも触れた。韓国では、文喜相前国会議長らが日韓の企業、個人からの寄付金を元徴用工らに支給する法案を提出し、日本の政界から期待の声も上がったものの廃案となった経緯がある。

 ▽北朝鮮にマクドナルド出店?

 北朝鮮情勢では、岸田文雄首相が拉致問題解決のため、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と無条件で向き合うと表明していることについて「非常に良い話だ。会うべきだと思う」と歓迎し支援する考えを表明。南北協力のためにも、北朝鮮と日米両国の関係改善が重要だと語った。拉致問題解決のためにも「(日本が北朝鮮側と)会って話をする必要がある」と述べ、国内政治に利用するために北朝鮮たたきをすべきではないと話した。

ソウルの韓国大統領府で並んで歩く(左から)宋永吉氏、文喜相氏、文在寅大統領=17年5月(聯合=共同)

 北朝鮮を「第2のベトナム」となるよう変化を促すべきだとの考えも語った。ベトナムがかつて戦火を交えた米国と国交正常化し「今は事実上、親米国家になっている」と指摘。朝鮮戦争を経験した北朝鮮と米国もベトナムのように関係改善を図れるはずとの主張だ。

 また、北朝鮮にマクドナルドをオープンさせるとの“奇策”も口にした。「米韓は北朝鮮侵略や体制転換を図る意思はないと言っているが、北朝鮮は疑っている。米国が攻めてくると住民に説明し、防衛訓練もしている」。そこで米国に侵攻の意思がないことを示す「象徴的措置」として平壌などにマクドナルドを開店させようという論理だ。現実味は乏しそうだが、北朝鮮が体制の安全保証を重視しているのは事実だろう。宋氏のアイデアは米朝、南北関係の好転を何とか模索したいという与党や革新系勢力の切実な願いのあらわれと見ることができそうだ。

  ×   ×   ×

 宋永吉氏(ソン・ヨンギル)63年、韓国南西部の全羅南道・高興生まれ。延世大で総学生会長を務めた。94年に司法試験に合格し、弁護士活動を経て国会議員に5回当選、外交統一委員長や韓日議員連盟副会長を歴任。西部・仁川市長も務めた。13年には韓国放送通信大の日本学科を卒業。21年5月、知日派の李洛淵氏の後任として与党「共に民主党」代表に選出された。

韓国大統領選がよく分かるグラフィック解説はこちら
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