GSOMIA「運用拡充を」、日韓安保協力を強固に 「韓国大統領選キーパーソンに聞く」(4)李在明候補陣営の外交ブレーン、魏聖洛氏

共同通信と会見する韓国与党「共に民主党」の大統領候補、李在明氏の外交ブレーンを務める魏聖洛氏=昨年12月、ソウル(共同)

 韓国大統領選の両陣営キーパーソンに日韓関係や北朝鮮政策について直接聞く連続インタビュー、4回目は与党「共に民主党」の李在明候補の陣営で「実用外交委員長」を務める魏聖洛氏。北朝鮮核問題を巡る6カ国協議の韓国首席代表などを歴任した外交のエキスパートだ。日韓関係改善や米国を交えた安全保障協力の強化に意欲を表明。日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)について「(日韓協力の)象徴性もあり非常に重要。運用を充実させることで安保協力の基礎を強固にする必要がある」と述べた。

 キーワード「日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」

 軍事上の機密情報を提供し合う際に第三国への漏えいを防ぐ協定。安倍政権と韓国の朴槿恵(パク・クネ)前政権が2016年11月23日に署名し、同日発効した。効力は1年で、満了の90日前に終了の意思をどちらかが書面で伝えない限り自動更新される。韓国の文在寅政権は19年8月、日本が輸出管理の優遇対象国から韓国を除外したための対抗措置として協定破棄を決定した。失効直前の同年11月22日、日韓両政府は失効が回避されたと発表した。

 ▽李氏、日韓関係の重要性を分かっている

 GSOMIAは日韓が北朝鮮に関する機密情報を交換するのに不可欠な枠組み。文在寅政権は日本による対韓輸出規制強化への報復措置として破棄を決定。米国の要求もあって失効直前で維持に転じたが、日韓関係次第で「いつでも破棄できる」との立場を取る。魏氏の発言はこうした姿勢とは一線を画した形だ。

会談に先立ち記念写真に納まる相星孝一駐韓大使(左)、韓国与党「共に民主党」の李在明候補(中央)と魏聖洛氏=21年12月、ソウル(陣営提供・共同)

 対日強硬発言が目立つ李氏について「(陣営に)来てから頻繁にやりとりしているが反日的な考えを持っている方では全くない。日韓関係の重要性、改善の必要性をよく分かっているし、当選して就任すれば当面の懸案になることも理解している」と強調した。「李候補は日本を訪問したこともあり、日本人の礼儀正しさや誠実さには常に良い印象を持っている」

 ▽関係改善の意思に基づき歴問題解決を

 魏氏は日韓の懸案についても関係改善への意思をベースに取り組むことが大事だと強調した。昨年11月の韓国警察庁長官による上陸に日本が反発した島根県・竹島(韓国名・独島)の領有権問題について「韓国の領土だとの原則に立脚しつつも、関係改善に見合った行動をすべきだ。あえて改善に役立たないことをして、雰囲気を害する必要はないと思う」と指摘。

 元徴用工や元慰安婦問題については「解決法がないわけではないと思う。何より重要なことは、両者の関係を改善しなければならないという強い共感を維持することだ」と語った。「(日本側には)何度やってみても(歴史問題は)うまくいかなかったという疲労感があるかもしれない。理解できないわけではない」と話す一方「全てのボールは韓国にあるという態度では解決策を見つけるのが難しい」として柔軟に協議を続けるべきだと呼び掛けた。「韓国と日本の利益、地域の利益、グローバルな利害関係を考えても両国は関係を改善しなければならない」

 ▽北朝鮮の核心利益はコメや肥料ではない

 魏氏は特に日米韓の安保協力の必要性を訴えた。「北朝鮮の核や潜在的な脅威を抑制する上でも、インド太平洋地域で起こっている新しい力学に韓国がうまく対処する上でも、また韓国がグローバルな次元で役割を果たす上でも大きく役立つ」

首脳会合のためロシアのサンクトペテルブルクに到着した朴槿恵大統領(左)を出迎える魏聖洛・駐ロシア大使(当時)=2013年9月(聯合=共同)

 日米や中ロの代表と共に北朝鮮核問題に取り組んだ魏氏は「非核化をしろと圧迫と制裁を加えるだけでは実現しない、というのが教訓だ。なぜなら(圧迫すれば)ますます防御的になって縮こまり、被害意識の化身になるからだ」と分析する。

 非核化を進展させるには「北朝鮮が重視すること」を考える必要があるとし「北朝鮮にとっての核心的利益はコメや肥料などではなく、安保や平和や信頼の構築にある」と強調。朝鮮戦争の終戦宣言から平和協定に向かう「平和トラック」を非核化と並行させるアプローチが必要だと語った。「非核化を進めれば(体制の)安全保障や信頼構築で得られるものがあるんだな、と北朝鮮に思わせなければならない」

 ▽韓国の経済力にふさわしい先進外交を

 魏氏は、外交経験のない李氏の陣営入りをなぜ決心したのか。「最も重要だったのは、李候補が実用主義的で現実主義的な観点を持っていること。それは対外政策でも同じだ」。李氏が人口千万人を超える北部京畿道の知事を務め「CEO(最高経営責任者)のような仕事をした」と評価し、決断力や推進力を備えた同氏と「一緒に多くの仕事ができると期待を持つようになった」という。

 魏氏は「韓国外交は今はまだ(朝鮮半島周辺の)地域にやや限定されている。李候補は『G10』(世界10位圏の経済力)にふさわしい国際社会での役割を果たし、先進外交の姿を見せるだろう」とアピールしている。

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 魏 聖洛氏(ウィ・ソンラク)54年韓国西部・全州生まれ。ソウル大外交学科卒。79年外務省入省。北米局長などを経て09年に朝鮮半島平和交渉本部長に就任、北朝鮮核問題を巡る6カ国協議の韓国首席代表を務めた。11~15年に駐ロシア大使。

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