中国経済の「時限爆弾」―中国経済「死に至る病」(下)|石平 不動産バブルの崩壊は、中国経済全体を破綻に追い込むほどの破壊力を持っている。中国経済にとっての「時限爆弾」が爆発する時はいつか。

負の連鎖

前々回(中国経済「死に至る病」)前回(失血死する中国経済~中国経済「死に至る病」)の本欄は、中国の経済問題を連続して取り上げ解説した。

その要点はこうである。国内消費が徹底的に不足しているなかで、中国はいままでずっと輸出と国内投資の拡大で経済成長を維持してきたが、その内実は借金頼りのインフラ投資の拡大によって目を見張るほどの巨額な負債を生み、中国経済の破綻を招きかねない深刻な「負債問題」を作り出した、ということである。

中国経済はその負の連鎖から抜け出せない。インフラ投資を減らせば、その分だけ成長率が急落して経済成長が失速するからである。インフラ投資拡大は中国経済にとっての「死に至る病」の一つだが、実はこれと並んで、不動産投資の継続的拡大もまた、中国経済の命取りとなる重い「病」である。

不動産投資額206兆円

「不動産病」の原因の一つは、まず投資規模のあまりの巨大さにある。たとえば2019年度、中国全国の不動産投資総額は13・2兆元に達しているが、それは日本円にして約206兆円、19年の中国の国内総生産(GDP)の13%に相当する。一国のGDP13%が不動産投資によって作り出されているとは、世界経済史上でも稀に見る重度な「不動産依存症」である。日本と比較すると、その大きさがよく分かってくる。

2019年度、日本国内の商業用不動産投資総額は4兆1448億円である。単純計算で、同じ19年の中国の不動産投資の約2%規模である。逆に言えば、要するに中国は1年間で日本の約50倍もの不動産投資を行い、なんとか経済成長を引っ張っているわけである。中国経済がどれほど不動産投資に依存しているか分かろう。

しかし長期的に見れば、このような不動産頼りの経済成長が永遠に続くことはない。住宅に関して言えば、中国全国ではこれまで約12億軒の住宅が建造されている。3人で一軒に住むと計算して、36億人を収容できる住宅がすでに出来上がっている。だが、2010年代半ばから中国の新生児出生数は毎年のように激減しており、若年層の人口数は今後減る一方だから、住宅市場はいずれ完全に飽和状態となる。いくら作っても売れない。

そうなれば、経済成長を牽引してきた不動産投資の拡大は止まり、その分だけ中国経済も低迷する。

バブルであれば、いずれ弾ける

不動産市場が抱えるもう一つの大問題は、すなわち投資・投機による不動産バブルの膨らみである。この20年間、中国では富裕層だけでなく、普通のサラーリマンや公務員の間でも、銀行から借金して2軒目、3軒目の住宅を投資あるいは投機用に購入することが一般的な社会的風潮となってきた。それほど大量の住宅が、住むためではなく、投資・投機用に建造され売買されている。これはどう考えても、不動産市場のバブル化である。

一方、中国の不動産価格はすでに暴騰しすぎている。たとえば上海・深セン・北京の三大都市の不動産価格はいま、それぞれ世界第4位、第5位、第6位を占める。国民の平均所得が中等国水準の中国で、不動産の平均価格がすでに先進国並みになっているということは、間違いなくバブルであろう。バブルであれば、いずれ弾ける。

不動産を投げ売りして一斉に逃げる

前述のように、不動産市場はいずれ飽和状態となって不動産が売れない時代が来る。不動産が売れなくなると、全体の価格は当然下がる。そうなった時、投資・投機用に2軒目、3軒目を購入していた人々は静観できない。不動産価格が下がる方向に転じれば、自分たちの財産が日々減っていくからである。

彼らは、手持ちの不動産をある時から投げ売りして一斉に逃げることになるだろうが、その結果として不動産価格は暴落、すなわち不動産バブルの崩壊が起きる。

中国人民銀行党委員会書記が警告

不動産バブルが崩壊すれば、不良債権の大量発生によって金融システムが機能不全に陥り経済活動が麻痺し、中産階級の大量破産により国内消費がさらに落ち込んで、経済の破綻に拍車をかける。それに、バブルの崩壊に伴って不動産投資も激減するから、中国経済の一割以上を支える巨大産業の一つが完全に沈没することになろう。

2020年12月1日、中国人民銀行党委員会書記・中国銀行保険監督管理委員会主席の郭樹清氏が、「不動産バブルはいま、わが国の金融安全にとって最大の脅威」との趣旨の発言を行って大きな注目を集めたように、中国金融行政のトップは、すでに不動産バブル崩壊の危険性を察知して警告を発している。

不動産バブルの崩壊は、何も金融の安全だけの脅威ではない。それは、中国経済全体を破綻に追い込むほどの破壊力を持っている。その意味で、不動産バブルの崩壊は今後、中国経済にとっての「時限爆弾」と言える。それが爆発する日はすなわち、中国経済の終わりの始まりとなるであろう。(初出:月刊『Hanada』2021年8月号)

石平

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