日韓シャトル外交復活を 韓国大統領選キーパーソンに聞く(3) 尹錫悦候補陣営の外交ブレーン、金聖翰氏

共同通信と単独会見する韓国の金聖翰元第2外務次官=2022年2月7日、ソウル(共同)

 韓国大統領選の両陣営キーパーソンに日韓関係や北朝鮮政策について直接聞く連続インタビュー、3回目は保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦候補の陣営で「外交安保政策本部長」を務める金聖翰氏。今は研究者だが、李明博政権では外務第2次官として国際外交の実務を取り仕切った。日韓関係について「崩れた相互信頼を回復するため、近い地理的条件を生かして首脳が頻繁に会うべきだ」と強調、尹氏が当選すれば首脳が相互訪問するシャトル外交復活を推進する意向を示した。「徹底した国際共助」の下で、北朝鮮の非核化に最優先課題として取り組むとも述べた。(共同通信=岡坂健太郎)

 ▽懸案をテーブルに置いて包括的解決を

 

李明博大統領の対インド外交の現場に同席する金聖翰第2外務次官(右、いずれも当時)=12年3月、ソウル(聯合=共同)

 金氏は元慰安婦や元徴用工問題、日本の対韓輸出規制強化、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)などを挙げ「一つ一つ解決しようとすればいつ解決できるのか。全ての懸案をテーブルの上に置いて包括的な解決を試みるというのが尹候補の構想だ」と説明。「崩壊した相互信頼を回復するため、首脳会談をなるべく頻繁にできればいい。だからシャトル外交を強調している」と語った。

 キーワード「日韓シャトル外交」

 日韓両国の首脳が相互訪問して会談する仕組み。故盧武鉉大統領は小泉純一郎首相と鹿児島県指宿市やソウルなどで会談を重ねたが、小泉氏の靖国神社参拝に盧氏が反発して立ち消えとなった。李明博大統領はシャトル外交を再開したが、2011年12月に京都で行われた野田佳彦首相との会談で慰安婦問題を巡る応酬となり、以後途絶した。朴槿恵大統領は訪日せず、文在寅大統領は安倍晋三元首相と再開に合意したが、本格的な実現には至らなかった。

 金大中大統領と小渕恵三首相による1998年の日韓共同宣言に触れ「日本が(植民地支配の)悲しい歴史を美化せず被害国である韓国に対して心から謝罪し、韓国はそれを受け入れて未来を共に切り開くとの精神だが、韓日の後続政権がきちんと実現できなかった。双方の責任だ」と話した。歴史問題などの具体的解決策には踏み込まなかったが、一方の努力だけでは実を結ばないと指摘、「(日韓が)膝をつき合わせて解決策を探さなければならない」と、日本側の積極的な姿勢も必要だとの見方を示した。

 ▽ショーのための南北首脳会談はやらない

 一方、南北関係改善を目指す文在寅政権が「北朝鮮中心主義」に陥り、日本などとの外交懸案に「迅速、機敏に対応できなかった」と批判。尹氏が当選すれば国際社会と歩調を合わせ、核放棄が有益だと北朝鮮が判断するようなロードマップ(行程表)を日米などと協議し作成すると話した。李氏が当選すれば「文政権のシーズン2(第2幕)になる」と皮肉った。

北朝鮮核問題を巡る6カ国協議の米次席代表を務めたビクター・チャ氏(左から2人目)らと討論会に参加する金聖翰氏=18年4月(聯合=共同)

 北朝鮮制裁は「ほぼ唯一のレバレッジ(てこ)」だとし、完全な非核化に近づくまでは解除すべきでないと語った。保守政権では一度も実現していない南北首脳会談について「対話のための対話、ショーはやらない」として条件の整わない会談に否定的見解を示した。

 日米韓の連携の重要性も強調した。最近、中国軍機が日韓の防空識別圏などに進入する事例が相次いでいることを挙げ「(日米韓の結束が弱まれば)中国はそのすきを突く戦略を採るが、きちんと協力すればそうした試みはせず正常な日中、韓中関係を維持すべきだと考えるだろう」と分析。「その出発点は韓日関係(改善)だ」と述べた。

 東南アジア諸国などへの政府開発援助(ODA)外交でも、日米には見えにくい「韓国の存在感」を活用できると言う。「戦前から産業国家だった日本はある意味とても遠くにいる国だが、韓国は『もう少し頑張れば(近づける)』という身近なロールモデルだ。韓国のようになるということは、経済発展と同時に政治的に民主化しなければならないということだ」と指摘。中国が援助攻勢をかける途上国などを日米韓側に引き寄せる効果があるとアピールした。

 ▽尹氏、日本の経済安保政策に強い関心

韓国最大野党「国民の力」の尹錫悦候補(左)の外交安保公約の記者会見に同席する金聖翰・元外務第2次官(後列左端)=21年9月、ソウル(聯合=共同)

 尹氏は、日韓関係改善を前提に日米韓の経済安保閣僚会議の開催を提唱している。金氏は、経済安保推進法案を準備する日本の動向について「(尹氏が)非常に関心が高い。今どうなっているのか、よく尋ねられる」と明かした。「サプライチェーン(供給網)のネットワークに韓国が積極的に参加してこそ、21世紀半ばに韓国が現在よりはるかに発展することができる」とも強調する。

 検事一筋で生きてきた尹氏だが、金氏によるとニクソン米政権で大統領補佐官を務めたキッシンジャー氏の著書「外交」を自分で買ってきて読むなど、かねて外交安保への関心は高かったという。経済学者の父親の影響もあり、自由主義経済を志向しているとも明らかにした。

  ×  ×  ×

 金 聖翰氏(キム・ソンハン)60年ソウル生まれ。高麗大英語英文学科卒。米テキサス大オースティン校で政治学博士。12~13年、李明博政権で外交通商省第2次官。現在は高麗大教授で、保守系野党「国民の力」の大統領候補、尹錫悦氏陣営の外交安保政策本部長を務める。

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