GKの奮闘で見応えのある内容 退場判定で崩れた試合のバランス

J1 G大阪―鹿島 後半、競り合う鹿島・上田(右)とG大阪・昌子=パナスタ

 良い攻撃がシュートに結びつき、ゴール枠をとらえる。GKは1点と思われる瞬間に美技ではじき出す。しまりなく大量点が入る試合よりも、そのようなゲームは見ていてずっと楽しい。2022年のJ1シーズンが開幕。2月19日のガンバ大阪対鹿島アントラーズは、一つの疑問点を除けば、かなり充実感のある内容だった。

 G大阪は1―3の敗戦だった。その中で試合を最後まで見応えのある内容としたのはGK石川慧。体調不良の東口順昭に代わってゴールマウスに立った。J1のリーグ戦に限れば、ベガルタ仙台時代の2016年に2試合に出場しただけで、これが3試合目。もちろんガンバに加入してからは初出場だ。

 石川は開始3分に鹿島の荒木遼太郎のボレーを見事にセーブ。その後、いったい何本、決定機を防いだだろう。前半の土居聖真のヘディングシュート、後半も上田綺世のヘディングシュートに染野唯月の右足シュートと、見事に反応。鬼神のようにはじき出していった。

 その石川でも防ぎきれないシュートがあった。鹿島の鋭い攻撃がガンバの守備網を切り裂いた場面だ。前半20分、鮮やかなスルーパスがゴールを生み出した。センターサークルで後方からのパスを受けたディエゴピトゥカがターン。その瞬間、上田が動きだす。間髪を入れずに繰り出されるピトゥカの縦パス。守備陣の裏に抜けた上田は、ペナルティーエリア右から豪快に右足を振り抜いた。

 ボールを「奪ったら背後を狙っている」。中盤の選手と上田との約束事が実った連係プレー。ハンマーでたたいたような強烈なシュートがゴールネットを揺らした。上田の巧みな動きだしに、ピトゥカのピンポイントパスが合ったゴールだった。

 鹿島の先制点から6分後、ガンバも目の覚めるようなゴールを決めた。宇佐美貴史の左CK。ペナルティーエリア外へ飛んだヘディングのクリアボール。狙っていたのが小野瀬康介。ピッチに落下して弾んだ瞬間のボール。抑えの利いた右足ハーフボレーの難易度の高いシュート。ボールは右ポストをかすめるようにゴールに飛び込み、試合は振り出しに戻った。

 ガンバにとってもったいなかったのは、自陣からのビルドアップにミスが出たことだ。前半30分にペナルティーエリアで柳沢亘のパスを鹿島の土居に引っ掛けられ、ベルギーから復帰した鈴木優磨にゴールに押し込まれた。片野坂知宏新監督のつなぐサッカーの進化過程では、このような代償も払わなければいけない場合がある。

 鹿島が攻勢ではあるが、勝負の行方は分からなかった。退場の判定で試合のバランスが崩れたのは残念だった。前半38分にガンバは前線の起点となっていたパトリックが一発退場。ガンバは数的不利に陥り、守勢に回った。後半に入っても、ガンバはしぶとい守りを見せる。しかし、守備を固め、カウンターを狙うしかない。その希望を打ち砕いたのが、鹿島の流れるような攻撃だった。

 後半21分、ペナルティーアーク手前で待ち構えた荒木にピトゥカから縦パスが入る。荒木は巧みなターンから右前方にラストパス。待ち構えたのが上田だ。ストライカーらしいボールの受け方。半身でパスを呼び込むと、ワントラップから素早くシュートを放つ。右足インサイドで狙い澄ましたシュートには、GK石川もほとんど反応することができなかった。鹿島の攻撃の多彩さが目立った試合。なかでも、一発で裏を狙えるピトゥカの縦パス、さらに上田の点を取るセンスの良さが際立っていた。

 しかし、ガンバ側からすれば「もし、あれがなければ」と悔いの残る試合だったに違いない。前半38分のパトリックの退場だ。

 その場面を振り返ってみよう。鹿島の攻撃に対し、ガンバがヘディングでクリアしたところから始まる。ボールに先に反応したのはパトリックだ。パトリックはドリブルでボールを持ち出そうとする。そこに後方からスライディングタックルを仕掛けたのが鹿島の鈴木だった。

 もつれあって倒れる2人。パトリックは先に立ち上がろうとした。鈴木はパトリックの左脚を、右腕で抱えるようにして妨害する。それを振り払おうとしたパトリックの左腕が、荒木友輔主審には鈴木への肘打ちに見えたようだ。公式記録での退場の理由は「S2」と記されていた。乱暴な行為だ。

 残念だったのは荒木主審が、何もしていないと主張するパトリックに有無を言わさずにレッドカードを提示したことだ。この試合、退場の場面以前に荒木主審は2度ほどビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の確認を行うしぐさを見せていたように思う。この場面でもVARをもっとうまく使えば、パトリックが肘打ちを行っていないことは分かったのではないだろうか。前半で1人退場者を出せば、残り時間をまともに戦うのは難しい。それを考えれば、もう少し時間をかけて判定してほしかった。

 GK石川の奮闘で大差はつかなかった。退場がなければ、もっと競った内容の試合になっていたはずだ。試合自体はゴール前の場面も多く、とてもスリリングだった。それだけに11人対11人の試合を最後まで見たかった。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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