高速貨車、ワキ10000

大宮駅 ワキ10000 カートレイン P: Cassiopeia sweet, Public domain, via Wikimedia Commons

今回は高速貨物列車に使われていた貨車のお話をさせていただこうと思います。

現在の貨物輸送は、コンテナが主体で、以前は紙専用のパレット輸送には青色に塗られたワム80000と呼ばれる昔ながらのパレット積みの貨車が使われていましたがこれもコンテナ輸送になったようで、貨物列車も100 km/h以上で走れる貨物列車が一般的となりました。

昔の貨車は最高速度が85 km/hまで

2軸車の場合その構造上高速運転が難しく、試作車として100 km/h対応の車掌車ヨ9000が試作されました。この貨車は2軸貨車でありながら100 km/h走行が出来るように計画された貨車で、冷蔵貨車などの最後尾に連結される予定でしたが、試験の結果当初の目的を得ることができず、昭和43年のダイヤ改正では、65 km/h指定を受けて、黄色帯を纏って。石炭列車に連結されていました。

高速貨車が誕生した背景は?

それまでの国鉄の貨物列車の最高速度は基本的には85 km/hが最高で、二軸貨車を連結した場合は75 km/hに制限されていました。

それでも、100~200 km程度の中距離は言うに及ばず、東京~大阪という中・長距離でもトラック便が台頭していました。そこで、名神高速道路も未だ開通していない時期でしたが、鉄道貨物輸送は困難になると考えた国鉄は、高速運転できる貨車を開発することとなりました。

この時試作された貨車は、最高速度を100 km/hで走行を目指したワキ「1000」高速貨車でした。

パレット輸送に適合させたワム80000と同じ側面両開き式を採用

最初に試作された、高速貨車はワム80000パレット搭載用貨車を延長して、ボギー車でかつ100 km/hで走行できるようにブレーキ装置に電磁弁を設ける(後述)などの措置を加えたもので、連結器も従来の自動連結器改め、小型の密着自動連結器とブレーキ管を同時に連結できるようにしたものでした。

ワキ10000 イメージ図

このときに開発された、試作車では空気バネ式並びにコイルバネ式の2種類の台車が試用された他、引き戸は鋼製だったのですが車両に自重が重くなりすぎる問題が判明したことから、量産車ではアルミ製の引き戸が採用されました。

その後製造されたスニ40やスニ40、ワキ8000がアルミ製の引き戸を採用したのは同様の理由からのようです。

余談ですが、ワム80000と同じ鳶色のワキ5000形という貨車は、最高速度85 km/hの一般貨車で、ワキ10000を元に製造された貨車になります。

台車の軽量化を図ったもので、台車の重量が軽くなったことから、高価なアルミドアではなく従来通りの鋼製プレスドアに戻ったと言われています。

ワキ10000を基本として、冷蔵車とコンテナ車が開発されることに

ワキ10000は、汎用的な貨車でしたが、高速貨車として、冷蔵車並びにコンテナ用貨車も開発されることとなりました。

冷蔵車は、レサ10000、レムフ10000と言う形式で、レムフは、冷蔵車の車端部に車掌室を設置したものでした。

当時は、現在のクールコンテナのように温度を一定に保つことができませんので、貨車に大量の氷を入れて車内を冷やす方式だったため、常態的に氷を使うことから腐食が厳しく、工場入場の度には大幅な修復を要したとも言われています。

コンテナ車は、すでに誕生していたコキ5500を基本として、ワキ10000で開発された台車を組み合わせたもので、5tコンテナを5個搭載できるようになっていたほか、コキフ10000は、レムフ10000同様に車端部に車掌室が設置したものでした。

電磁ブレーキで空走距離を減らせる工夫を

これら高速化車の特徴は「空気ばね」を貨物で初めて採用したことと、電車と同じ「電磁直通ブレーキ」をブレーキに採用したことの二つでした。

貨車に「空気ばね」を使った理由は荷物をやさしく運ぶ?といった目的ではなくて、貨物の高速輸送時に安定させようと思えば、バネを柔らかくすれば沈み込む両が大きくなって結果的に重心が下がって安定するのですが、連結器の沈下量の制限が45 mmという制限があるのであまり柔らかいバネにできませんし、そうかといって固いバネを使うと空車時に跳ねすぎて逆に危険性があるということで、空気ばねに白羽の矢が立ったのです。

空気ばねであれば、45 mmまでの沈下量で収まるように空気ばねで調節することが可能となるということで、採用されたようです。

実際に、大型トラックなどでもこうした構造を採用することが多いみたいですね。

結果的には、乗り心地もマイルドになって緩急車に乗務する車掌にも好評だったそうです。

余談ですが、その後製造されたコキ50000(95 Km/h)用は種々改良を施し台車が空気からバネに戻ったため車掌車は逆に乗り心地が悪くなり、空気ばね台車と交換する羽目になりました。

【著者】加藤好啓

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