【コラム】マカオのカジノ法改正案上程 注目ポイントをチェック(WEB版)/勝部悠人

現在、マカオ政府とコンセッション(カジノ経営権契約、カジノライセンスに相当)を結ぶ6社が約40のカジノ施設を運営。6社の契約満期日が今年(2022年)6月26日に迫っている。コンセッション満期を迎えるにあたり、政府は再入札を実施する方針を一貫して示しており、ベースとなる法律の整備を進めている。

マカオの娯楽場幸運博彩経営法律制度(通称「カジノ法」)は、現行カジノコンセッションのスタート時期にあたる2001年に制定されたもの。政府は20年の間にカジノ業界はもとより、経済・社会状況も大きく変化したことを踏まえた改正が必要とし、昨年(2021年)9~10月にかけて同法改正に関するパブリックコメント(意見公募手続き)を実施した後、同年12月下旬に総括報告書を取りまとめた。そして、今年1月中旬、マカオ立法会に改正法案が上程されるに至った。以下、カジノ法改正案の内容について、ポイントを挙げて紹介する。

ライセンスは最大6枚としており、いわゆるサブライセンスの禁止が明文化された。現状も6枚だが、正副3枚ずつ(本ライセンス3枚それぞれにサブライセンスが1枚ずつ紐づく)という変則的なものとなっており、見直しを意味する。政府はパブコメ総括報告において、カジノ業界が一定の規模を維持することで、社会の安定と雇用機会を確保する重要な基盤となり、また安定的な税収の保証による政府の収支バランス均衡化が各種民生福祉の継続と社会インフラ建設推進を有利かつ安定的に実現できるとの見方を示していた。

契約期間は最大10年、例外的な状況下において最大3年の延長が可能とした。現状の約20年+延長最大5年との比較では大幅短縮となるが、パブコメ総括報告では、20年より短縮の意見が最も多く、政府も契約期間の短縮によって発展の趨勢や政策に応じてタイムリーかつ適切にカジノ業への調整をかける余地が生じ、業界の競争力確保につながるとの考えを示していた。なお、カジノ施設は契約事業者が所有する不動産内に設置することとし、現在マカオに存在する「衛星カジノ」については本規定に沿わず、これに該当する新ライセンスの取得社があった場合、3年の猶予期間内に対処することが求められる。
契約事業者及びカジノ業界参入者(社)に対する資格審査と規制メカニズムの強化が盛り込まれた点にも注目したい。カジノ運営事業者が国家(中国)及びマカオ特別行政区の安全に対する脅威となる、あるいは適切な資格を持ち合わせない(疑わしい資金源や犯罪グループとの取引の存在など)と判断された場合、マカオの首長にあたる行政長官が一方的にライセンスを取り消すことができるとしている。また、契約事業者の資本金規模を50億パタカ(日本円換算約710億円)に、マカオ永久居民がマネジングダイレクターとして保有する株式比率を15%にそれぞれ引き上げ、契約事業者または支配株主企業の発行済み株式に占める上場株式の割合も制限するとした。パブコメで物議を醸した政府代表の契約事業者への派遣は企業の業務運営及び独立性に干渉する恐れがあるとして見送られた。

カジノ仲介業者(ジャンケットプロモーター)に対する制限も大幅に強化。サービス提供先は契約事業者のうち1社に限り、特定のスペースを借りて独自のVIPルーム運営することやレベニューシェア契約を結ぶことも不可とされ、コミッションのみを受け取ることができるとされた。契約事業者がコミッションにかかる税金(カジノ売上ベース)を源泉徴収することで透明性を確保するとしている。税率は5%で、交通・宿泊といったいわゆるコンプの部分はコストとして控除対象となるとしている。

ゲーミングテーブルのコントロールについても言及があり、行政長官が総台数の上限及び各台の年間最低売上額を設定し、2年連続で最低売上未達となった場合、政府が削減の権利を有するとしている。現行では新規テーブル割当の申請にあたって一定の総量制限が存在するのみであることから、制限強化と受け取れる。

改正法案は、1月24日のマカオ立法会本会議で賛成多数で一般性通過となり、次のステップである立法会常設委員会での細則性審議に入る。その後、立法会本会議で細則性表決が行われる予定だが、次期コンセッションの一般競争入札プロセスは改正法をベースに展開するため、(現行コンセッションの満期となる)今年6月末までに審議がまとまらない可能性もあり、政府は既存コンセッションを短期延長して対応する考えを示している。

マカオ・コタイ地区に建ち並ぶ統合型リゾート群=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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