グリフィー親子に連続アーチを献上した男 カーク・マカスキル

1990年9月14日、マリナーズのケン・グリフィーSr.とケン・グリフィーJr.の親子がメジャー史上初、そして現在に至るまでメジャー史上唯一となる快挙を成し遂げた。親子で二者連続アーチを放ったのだ。その2本のアーチを献上したのは当時エンゼルスに在籍していた右腕カーク・マカスキル。この男はNHLのウィニペグ・ジェッツ(現アリゾナ・コヨーテズ)からもドラフト指名を受けたアスリートだった。メジャーリーグ公式サイトのマイケル・クレア記者はそのマカスキルを特集する記事を公開している。

マリナーズ戦に先発したマカスキルは初回先頭のハロルド・レイノルズを歩かせたあと、2番グリフィーSr.をカウント0-2と追い込んだものの、センター左への4号先制2ランを浴びた。次打者グリフィーJr.にはボールが3球続き、グリフィーJr.はカウント3-0からの4球目、ストライクゾーンに甘く入ってきた速球を狙い打ち。これが左中間への20号ソロとなり、現在に至るまでメジャー史上唯一となる「親子二者連続アーチ」の快挙が達成された。

マカスキルは当時のことを振り返り「誰も(その記録に)気付いていなかったんじゃないかな」と語る。マカスキル自身もグリフィーJr.が二塁に到達したくらいでようやく何が起こったかを理解したという。マカスキルは現在、高校野球のコーチをしているが、毎年9月14日の記念日になると友人や家族、教え子からメッセージやムービーが送られてくるため、その瞬間のことを忘れたくても忘れられないそうだ。父の日にもハイライト映像が送られてくることがあるという。「教え子たちはみんなそのことを知っているから、いつも定期的に思い出させてくれるんだ」とマカスキルは笑いながら言う。

観客のほとんどが気づいていなかったと思われる快挙だが、マカスキルは「グリフィーJr.はわかっていたと思う」と考えている。「カウントが3-0になったから(父親との連続アーチを打つことは)彼の頭のなかにあったと思う。彼の能力のレベルを考えると、狙って打ったんだろう。それをやってのけるのはすごいことだよ」と見事に快挙を成し遂げたグリフィーJr.を称えた。

マカスキルの父親はプロの世界でも活躍した元ホッケー選手であり、マカスキル自身も高校まではホッケーがメインで、野球は楽しい趣味に過ぎなかった。大学でもホッケーと野球を両立し、1981年にNHLのウィニペグ・ジェッツからドラフト4巡目で指名を受けたが、翌1982年にはエンゼルスが同じくドラフト4巡目で指名。マイナーで1年プレーしたあと、スプリング・トレーニングに招待されたことがきっかけで野球を優先するようになった。NHLでも1試合だけベンチ入りした(試合出場なし)マカスキルだが、もしホッケーの道を選択していたら、グリフィー親子の快挙は実現していなかったかもしれない。

マカスキルはその後、1985年にメジャーデビューを果たし、エンゼルスで7年、ホワイトソックスで5年、合計12年間のメジャー生活で6度の2ケタ勝利を含む通算106勝をマーク。グリフィー親子に連続アーチを浴びた1990年も12勝を挙げた。自身が複数のスポーツをプレーしていたこともあり、マカスキルは「9歳とか10歳のときに盲目的に1つのスポーツに集中し始めるのはよくないと思う。10歳から1つのスポーツに打ち込めば大学の奨学金が待っているという考え方は本当に有害だ。見たくもない」と語る。また、グリフィー親子に連続アーチを献上したことについては「二度と破られることのない記録だと思う。でも、あの試合はエンゼルスが勝った(7対5)んだよ」と話している。

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