2023年7月に地球から1000万km先を通過する小惑星「2022 AE1」一時は衝突リスクの懸念も

2022年1月6日、アリゾナ州(アメリカ)のレモン山天文台で実施されている「レモン山サーベイ」によって、小惑星「2022 AE1」が発見されました。近年では毎年大量の小惑星が新たに見つかっていますが、2022 AE1は発見から半月ほどの間、研究者から高い注目を集めることになります。

現在は追跡観測の結果、2022 AE1は2023年7月上旬地球から約1000万km離れたところ(地球から月までの距離の20倍以上)を通過していくことが明らかになっています。ところが発見から間もない段階では、この時期に地球へ衝突するリスクが懸念されていたのです。

【▲ 現地時間2022年1月19日の夕方にスペインのカラー・アルト天文台で撮影された小惑星「2022 AE1」(中央)(Credit: ESA/NEOCC)】

2022 AE1は推定直径70mの小惑星で、地球に接近する軌道(※)を公転している「地球近傍天体(NEO)」の一つです。欧州宇宙機関(ESA)の地球近傍天体調整センター(NEOCC)によると、地球と2022 AE1の公転軌道が最も接近する部分の間隔は約1万km(0.00007天文単位)しかありません。

※…2022 AE1は近日点距離0.668天文単位・遠日点距離2.273天文単位の軌道(アポロ群に分類)を約1.78年周期で公転している

地球に対するNEOの衝突リスクを評価する指標のひとつに、小惑星の衝突確率・予想される衝突時期・衝突時のエネルギーをもとに算出される「パレルモスケール」というものがあります。アメリカ航空宇宙局ジェット推進研究所(NASA/JPL)の地球近傍天体研究センター(CNEOS)によると、パレルモスケールの値が「-2」から「0」の小惑星は注視すべき状況にあり、「0」以上の小惑星はある程度懸念すべき状況にあるとされています。

CNEOSによれば、2022年2月25日時点でパレルモスケールが「-2」以上の小惑星は「ベンヌ」(パレルモスケール-1.41)と「1950 DA」(同-1.42)の2つのみ。小惑星の大半はパレルモスケールが「-2」未満とされています。

関連:NASA探査機がサンプル採取した小惑星「ベンヌ」の地球への衝突確率を算出

ところがESAによると、発見から間もない時点での2022 AE1のパレルモスケールは「-1.5」と算出されました。NEOCCの天文学者Marco Micheliさんは、ESAにいるこの10年ほどの間、これほど危険な小惑星を見たことはなかったと語ります。

小惑星の軌道を決定するには、最低でも3回の観測が必要です。1回目の観測ではその時点での小惑星の位置が判明し、2回目の観測では大まかな移動方向や速度がわかりますが、どのような軌道を描いているのかは3回以上観測しなければわからないからです。観測期間が長くなればなるほど軌道の情報もより正確になり、不確実性は低くなっていきます。

ただ、最終的には衝突の可能性が否定される小惑星も、追跡観測の過程で算出される衝突リスクが一時的に高くなることもあるといいます。「この小惑星は衝突しないと断言するのに十分なデータが集まるまで2022 AE1を追跡することはゾッとするものでした」(Micheliさん)

【▲ 小惑星「2022 AE1」(白)と水星から火星までの惑星の軌道を示した図。JPLの小天体データベースより(Credit: NASA/JPL)】

NEOCCの所長を務めるLuca Conversiさんは「パレルモスケールがこれほど高い小惑星はとても稀なので最初は驚きましたが、同じような連絡は(より低い値ではありますが)年に何回か受け取るので、それほど心配していませんでした」と語ります。しかし、世界各地の望遠鏡ネットワークを使用するESAの追跡観測とJPLの検証結果は、依然として2022 AE1の衝突リスクが高いことを示していました。

タイミングの悪いことに、2022 AE1は満月前後の月の影響で1月12日から19日まで観測できなくなってしまいました。Micheliさんは「ただ待つしかありませんでした」と振り返ります。そのうえ、2022 AE1は太陽から遠ざかって暗くなりつつあります。NEOCCのLaura Faggioliさんは「2022 AE1の軌道が不確かなままであれば、可能な限り大きな望遠鏡で観測を続けるために、あらゆる手段を行使したでしょう」と語ります。

幸いなことに、月の明るさによる影響が弱まった後に再開された観測の結果、2022 AE1の衝突リスクは低いことが判明。一時はNEOCCがリスクを懸念する小惑星リストの筆頭だった2022 AE1は、リストから削除されるに至りました。前述のように、現在では2023年7月の最接近距離は約1000万kmと判明しています。

サイズが小さな小惑星は流星として地球の大気圏で燃え尽きるか、地表に落下するとしても小さな破片になることが大半です。しかし、直径100m前後もあるような小惑星は、仮に人口密集地に落下すれば甚大な被害をもたらす可能性があることから「シティ・キラー」と呼ばれることがあります。

推定される2022 AE1の直径はシティ・キラーより小さいものの、2013年2月ロシアのチェリャビンスク州上空で爆発して約1600名の負傷者や建物の被害をもたらした天体(推定10m前後)よりも大きく、1908年6月にシベリアへ落下していわゆる「ツングースカ大爆発」を引き起こしたとみられる天体(推定50~80m)と同程度の大きさです。2022 AE1が2023年に地球へ衝突する可能性は否定されましたが、この小惑星が2022年1月まで未発見だったことを考えれば、同程度の大きさを持つ未発見のNEOがまだまだあると予想されます。

【▲ DARTのミッションを解説したイラスト。探査機(Spacecraft)が衝突することで、ディディモス(Didymos)を周回するディモルフォス(Dimorphos)の軌道が変化する(白→青)と予想されている(Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

現在NASAは「惑星防衛」(プラネタリーディフェンス※)の一環として、2022年9月~10月に小惑星「ディディモス」の衛星「ディモルフォス」の軌道変更を試みる探査機「DART」によるミッションを実施しています。現在はまだ衝突のリスクを予測することしかできませんが、将来の人類は衝突リスクが懸念される小惑星の軌道を変更するミッションを積極的に実施するようになるかもしれません。

※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、いずれは小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組み

関連:NASA探査機衝突後の小惑星を観測するESAのミッション「Hera」

Source

  • Image Credit: ESA/NEOCC
  • ESA \- The rise and fall of the riskiest asteroid in a decade
  • NASA/JPL \- Small-Body Database Lookup (2022 AE1)
  • NEOCC
  • CNEOS

文/松村武宏

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