映画「Bebas」ネタバレ解説&インドネシア語講座

映画「Bebas」が3月10日からNetflixで配信されます。映画館で見た時は、観客があちこちでどっと湧いているのが印象的でした。笑いのツボに加え、スラングやスンダ語が使われているので、何がおかしいのか、ちょっとわかりにくい場面もあります。インドネシア語家庭教師のカルティカさんへの「Q&A」で、疑問点を解説します!

文と写真・池田華子

「Bebas」(Courtesy of Netflix)

「Bebas」はリリ・リザ監督による、韓国映画「サニー」のインドネシア版。インドネシアへの翻案が見事に成功している素晴らしい作品だ。私にとって、この映画が特に印象的な理由は、観客の盛り上がりようがすごかったからだ。インドネシアでの劇場公開は2019年10月で、公開直後で大入りだった時も合わせて、数回、見に行った。インドネシア人の観客は元々ノリが良くて、しーんと静まり返った日本の映画館とは違った雰囲となる。とはいえ、ここまで盛り上がった映画は初めてだった。しょっちゅう、どっと笑い声が起きる。

映画館を揺るがすほどの爆笑。しかし、中には、ウケているポイントがわからない所もあった。笑いを理解することはインドネシア文化を理解することになるのではないか? いや要は、わからない所を知りたい!と、映画の主人公と同じスンダ人で、インドネシア語家庭教師のカルティカさんと一緒に映画を見に行き、鑑賞後に疑問点をぶつけて解説してもらった。

ちょっとネタバレもありますが、こちらの解説を参考に、是非、インドネシア語で「Bebas」の世界を楽しんでください!

映画のストーリー

西ジャワ州スムダンからジャカルタの高校に転校してきたフィナ(下写真の右から3人目)は、グループ「Bebas」(自由)の一員となる。リーダーのクリス(同4人目)、眉毛を整えることに執念を燃やすジェシカ(同2人目)、「口が武器」のジョジョ(右端)、母親が実業家で裕福な家のギナ(左から2人目)、そして美少女のスチ(左端)。「自分の心に従い、自由に生きられるように」との願いを持って団結する「Bebas」だったが、ある事件が起こり、離ればなれになってしまう。そして23年後……。

「Bebas」の主人公たち(高校生時代)### ■なぜ仲間同士で「Monyet(Nyet)」(サル)という呼び方をするの?

クリスの第一声は「Cari siapa lo, nyet?」(サル、誰探してんの?)です。親密な仲の子供たちは、そういう呼び方をすることがあります。「Goblok」(バカ)とかね。スンダでは「Anjing」「Jing」(犬)とも言います。「犬なんて、ひどい!」と思うかもしれませんが、親しみの表現で、侮蔑の意味はありません。

親しみの表現では「Nyet」「Jing」という短縮形を使い、本当に怒っている時は「Monyet」「Anjing」と言う場合が多いです。

■転校生のフィナが発音を笑われたのはなぜ?

フィナは自己紹介で「Nama saya Pina」(私の名前はピナです)と言って、クラス中から大笑いされます。

スンダ人は「F」「V」の発音が苦手で、「P」になります。フィナも早速、「ペスパ(「ベスパ」ではなく)に乗って来たの?」と、からかわれています。

最初の病室のシーンで、フィナのお母さんは「ルイヴィトン」を「ルイピトン」と言っていましたね。テレビ「ティーフィー(TV)」は「ティーピー」になります。

ちなみにフィナ・パンドゥウィナタ(Vina Panduwinata)は歌手の名前です。まったく同じ名前にするのもおかしいですね。

■「Geng Bebas」と「Baby Girls」の仲が悪いのはなぜ?

「Geng Bebas」は公立高校で、「Baby Girls」は私立高校。「公立」対「私立」、といった構図になっていますね。

■「Geng Bebas」と「Baby Girls」の「屋上の戦い」で、「桁の学校」だの「南極」だの言っているのは何のこと?

公立高校の場合、「メンテン第1小学校」のように、校名に数字が付きます。「Baby Girls」が「Geng Bebas」を「Sekolah Digit」(桁の学校)と呼んでバカにしたのは、そういう意味です。

「Baby Girls」が「あんたたちなんか、南極でクマと一緒にいろ」と啖呵を切ったところ、クリスが「Gawat, gawat, gawat(ヤバい)」と笑いながら拍手をして、「クマは南極にはおらんわ。クマがいるのは北極や!(脳内翻訳:関西弁)」と言い返します。相手のバカさが「ヤバい」、いかにも私立校生という感じが出ています。英語の「Posession」と「Position」の間違いも、同じ意味合いとなりますね。

■屋上の戦いでクリスが言った「裸足の悪魔」って何のこと?

クリスは、「フィナはスムダンから来た『裸足の悪魔』だ。彼女の目を見たら、悪魔が家までついて行くぞ」と脅します。フィナは靴下を忘れたので、裸足でした。それを見て、とっさに名付けたんでしょうね。

■屋上の戦いで、フィナは一体何を叫び出したの?

この部分はスンダ語です。空腹でぶち切れたフィナは「私はずーっと食べてないんだ。腹が減り過ぎて、あんたたちみんなを食いたいわ」というようなことをスンダ語でわめきます。

これに恐れをなした「Baby Girls」は、「Liputan 6を見なきゃ」と言って逃げ出して行きます。

ちなみに、次のけんかの後、「MTV Asiaを見なきゃ」と言って「Baby Girls」が逃げ出す時の捨てぜりふ、「ナディア・フタガルンはあんたより大事だわ」のナディア・フタガルン(Nadya Hutagalung)とは、MTVのDJです。

■ジャカとフィナが夜に道を歩いている時、「ボーッ」と大きな音を立てて通って行くのは何?

「Tukang kue putu」(プトゥ売り)です。プトゥは米を蒸して作ったお菓子です。その場で作るので、笛吹きやかんのような大きい音がします。音が大きいので、呼び止めても、売り子に聞こえないほどです。それで、手をたたいて呼び止めたりしていました。最近では、あまり見かけなくなりましたね。温かいので、夜食にしたりします。

■フィナが家を出るお兄さんに呼びかける「Aa」とは?

インドネシア語の「Kakak(兄)」や「Mas」は、スンダ語では「Aa」です。フィナは「Aa, mau ke mana?」(お兄さん、どこへ行くの?)と呼びかけていますね。妻が夫を「Aa」と呼んだりもします。

■お兄さんがぺぺスを取って行くシーンで笑いが起きるのは?

政治に熱くなっているのに、食べ物にもしっかり関心のあることがおかしいんです。

■日本でも昔よく見かけた、びょーんと伸びるおもちゃ(スプリング)は、インドネシア語では何て言いますか?

Pegas(発音は「プガス」)です。映画では「ゲームボーイ」も出て来ましたね。

■靴(sepatu)はスラングでは「sepokat」になるのですか?

そうです。スラング(Bahasa prokem)として、「sepokat」は1980年代から90年代ごろから使われ始め、今でも使われています。ほかに、次のようなスラングがあります。

お手伝いさん(pembantu)→pembokat
お父さん(Ayah)→Bokap
お母さん(Ibu)→Nyokap
お金(duit)→dokat

例文も挙げておきましょう。
「お父さん元気にしてる?」→「Bokap apa kabar ya?」
「お金あるよ」→「Ada dokat」

「私」(saya)はジャカルタ弁では「サエー」「アエー」と言ったりします。「グエ(gue)」になると、もっと近しい感じがします。「あなた」は「ルー(lu)」や「ロ(lo)」。

さあ、これで映画を見る準備は出来ましたね!

大人になった「Bebas」の主人公たち。1人欠けているのはなぜか?

カルティカさん
リリ・リザ監督と同じ、ジャカルタのLab School出身。小学校は5年だけ、自習方式というユニークな実験校だった。子供のころ、父親の仕事の関係で日本に約1年住んだことがあり、日本語が流暢。主に日本人へのインドネシア語家庭教師をしている。

映画の背景となった文化・音楽の解説は、武部洋子さんの「インドネシア映画『Bebas』:1995年のジャカルタ風景」に詳しい。

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