微小重力下での火災研究 宇宙での防火住宅設計に役立つプロジェクト開始

【▲CIR内の火炎設計調査の一環として、さまざまな条件で発生する煤の量を調べるために点火された炎の1つ。黄色い点は、高温になると黄色く光る煤のクラスター(Credit: NASA)】

人類は「火」の使用により文明を大きく進歩させました。同時に「火」との戦いは、宇宙への進出を果たした今も続いており、火災が生命や財産を奪う災害であることに変わりはありません。

衣服、ベッド、家具に含まれる燃えやすい物質を取り除くための研究と基準のおかげで、アメリカ人は数十年前よりも安心して家で暮らせるようになりました。NASAは、宇宙飛行士を守るために、同様の研究と基準を用いています。

しかし、火は宇宙(微小重力下)では地球上とは異なった振る舞いをします。重力と空気の流れの変化は、火の広がり方を変え、消火を困難にする可能性があります。それでは、将来的に月や火星で居住する時、どのような防火住宅を設計すれば良いのでしょうか?

その研究にヒントを与えてくれるのが、ノースロップグラマンの国際宇宙ステーション(ISS)への17回目の貨物補給ミッションで開始された「固体燃料点火および消火」(SoFIE)プロジェクトです。この一連の実験は、宇宙での火災をより深く理解するための道を開く可能性を秘めています。SoFIEは、ISSに設置されている、安全に燃焼できるチャンバーを備えたCIR(Combustion Integrated Rack:燃焼統合ラック)で行われます。

SoFIEプロジェクトは、NASAが宇宙服、キャビン、居住空間の素材や設計を選択する際に役立ちます。また、この実験は、宇宙飛行士がより遠くへ行き、より長く滞在するために、宇宙で火災やくすぶっている物質を消火するための最適な方法を明らかにするのにも役立つと思われます。

2020年に撮影された冒頭の画像は、CIR内の火炎設計調査の一環として、さまざまな条件で発生する煤の量を調べるために点火された炎の1つです。黄色い点は、高温になると黄色く光る煤のクラスターです。微小重力環境では、煤が炎の中に長く留まるため、このクラスターが地上よりも大きくなります。

また、宇宙での炎の成長、減衰、消滅を実証するために、数年前にISSで合成樹脂を燃焼させる「固体の燃焼と抑制」(BASS)と呼ばれる予備実験が行われました。こちらはその時の画像で、上段は炎が成長していく様子、下段は炎が消えていく様子です。

【▲ISSで行われた、合成樹脂を燃焼させる「固体の燃焼と抑制」(BASS)と呼ばれる予備実験の画像。上段は炎が成長していく様子、下段は炎が消えていく様子。(Credit:NASA)】

関連:ノースロップ・グラマン「シグナス補給船」打ち上げ成功 日本の実験機器・超小型衛星も搭載

Source

  • Image Credit: NASA
  • NASA \- Studying Flames in Microgravity
  • NASA \- Fighting Fire with Fire: New Space Station Experiments Study Flames in Space
  • NASA \- Overview for Northrop Grumman's 17th Commercial Resupply Mission

文/吉田哲郎

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