【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第8回:フェリーに乗って買い出し

「瀬戸内のアートの島」として知られる、香川県の直島。フリーランスライターの筆者は、夫の仕事の都合で思いがけず直島で暮らすことに。人気の観光地でもある離島での生活とは、いったいどのようなものなのでしょう。直島の魅力や離島ならではの苦労話など、住んでみたからこそわかった「離島生活のリアル」を連載形式で綴ります。8回目の今回は、フェリーでの買い出しについて。

島民の買い出し事情

前回の第7回で「直島の住民はフェリーに乗って買い出しに行くことが多い」ことをお伝えしました。そこで今回は島民の「買い出し」とはどのようなものか、レポートしたいと思います。

直島の住民が買い出しに行くことが多いのは、20分ほどで行ける岡山県玉野市の宇野。買い出しの頻度は人それぞれですが、毎週のように宇野のスーパーに買い出しに行く家庭も珍しくありません。

筆者は宅配食材のOisixも活用していることに加え、平日はなんだかんだで忙しいので、買い出しに行く頻度は少なめ。気づいたらもう、2カ月以上も買い出しに行っていませんでした。

島のスーパーで買うよりも宇野まで買い出しに行くほうが圧倒的に安上がりなのですが、フェリーが1時間に1本程度なので、宇野まで行ってスーパーで買い物をして帰ってくるだけでも2時間ほどかかります。

フリーランスライターの筆者は、スケジュールには融通がきくものの、「買い出しに行って浮くお金よりも、買い出しにかかる2時間で稼げるお金のほうが多いな」なんて考えてしまうと、買い出しに行くのがおっくうになってしまっていたのです。

直島島民が買い出しに行く「宇野」

とはいえ「さすがにそろそろ、いろいろなものを買いたいしなぁ」と思い立ち、とある平日に1人で買い出しに行くことに。

直島からフェリーで20分ほどで行ける宇野は、岡山県の南端に位置する港町。宇野が属する玉野市は、造船や金属などの製造業が中心で、観光地といった雰囲気ではありませんが、宇野港から直島、豊島、小豆島への船が出ているので、瀬戸内の島々への玄関口としての役割を果たしています。

宇野港周辺は瀬戸内国際芸術祭の会場にもなっており、駅舎もアート。スーパーで買い物をするだけだともったいないので、買い出しついでに前から気になっていた台湾式茶芸館に行ってみることにしました。

宇野の商店街にたたずむ「無天茶坊」は、中国高級茶藝師資格を持つ台湾の袁振麗さんが厳選した台湾茶を軸に、ランチや台湾スイーツなどが楽しめるお店。

かつては銀行だったという店内は異国情緒たっぷりで、ゆったりと流れる時間に身を置くと、一瞬で台湾にやってきたかのような気持ちになれました。

今回は杏仁豆腐と台湾烏龍茶をオーダー。何煎も楽しめる台湾茶を少しずつ味わっていると、「そういえば九份で飲んだお茶もそうだったなぁ」と、なつかしい台湾の思い出がよみがえってきました。

無天茶坊

住所:岡山県玉野市築港1-10-10

営業時間:11:00~16:00

定休日:水・木曜日

公式サイト:https://muten.cccworks.net/

「普通のスーパー」が島民には『宝の山』

「無天茶坊」を後にして、宇野でいつも行っているスーパー「マルナカ」へ。島民には安いと評判の「エブリイ」派も多いようなのですが、筆者は初めて宇野で行ったスーパーが「マルナカ」だったこと、なおかつあまり混雑しておらず、通路などの店内空間にもゆとりがあって買い物がしやすいことから、ついつい「マルナカ」に行ってしまいます。

激安スーパーでもなければ高級スーパーでもなく、ごくごく一般的なスーパーなのですが、普通のスーパーは島民にとって「宝の山」。「わぁ~なんでもそろってる!!」「しかも安い!!」と、品ぞろえの豊富さと値段の安さに興奮してしまいます。

繰り返しますが、ほとんどの日本人にとっては、ごく普通のスーパーです。筆者も、直島に引っ越してくる前は、このようなスーパーで買い物をすることが「当たり前」でした。しかし、その「当たり前」が叶わない離島では、一般的なスーパーの品ぞろえや鮮度、値段の安さがとてつもなく贅沢に思えるのです。

なんだか、ドイツに住んでいた当時、日本に一時帰国してスーパーに行ったときの感覚に似ています。日本・ドイツ間と直島・宇野間では距離が全然違うので、ドイツに住んでいたときのほうがもっと切実でしたが……。

ちょっと脱線してしまいましたが、宇野のスーパーでよく買うのは、調味料やお茶などの日持ちのするものに加え、キッチン用品や当日料理に使う野菜など。

直島では手に入らない種類のヨーグルトやフルーツジュース、チーズなどはちょっとしたご褒美です。季節柄か、島のスーパーでは何カ月もマッシュルームを見かけることがなかったので、宇野のスーパーでマッシュルームに対面した瞬間は「久しぶり~!」という喜びでいっぱいになりました。

直島の住民のなかには買い出し用にナイロン製のカートを持っている人も少なくありませんが、筆者は島民歴が浅いので、リュックで代用しています。

船が出るまで時間がない!

実は今回、「無天茶坊」に長居しすぎてしまい、スーパーでの買い物にかけられる時間がわずか10~15分という事態になっていました。

「ちょっとカフェでお茶をしてスーパーで買い物をするくらいなら十分」と考えて、今回の宇野滞在は1時間30分を予定していたのですが、台湾茶が時間をかけて何煎も楽しむものであることを考慮していなかったのです。

「無天茶坊」を後にするタイミングで時間がないとわかっていたので、急いで買い物を済ませたのですが、スーパーを出た時点で船が出るまで12分というタイミング。

港までさほど距離があるわけではないものの、パンパンのリュックを背負っているうえ、エコバッグも持っているので、走ろうとしても全然スピードが出ない……。1便逃すとその次の船は1時間後なので、「食料品抱えてカフェに入るわけにもいかないし、困る~!」と焦りました。

結局、出航の1分前に乗船することができ、なんとか間に合ったのですが、港の手前の信号が青だったからよかったものの、赤だったら乗り遅れていたことでしょう。

以前、買い出しが終わった後、船が出るまで宇野港で20~30分待つことが何度かあったので、「待ち時間を少なくしたい」と1時間30分滞在で予定を組んだのですが、ギリギリのスケジュールを立ててしまうと精神衛生上よくないですね。「荷物を持って息を切らしながら走るくらいなら、20~30分港で待ったほうがマシだな」と思いました。

節約以上の意味がある「買い出し」

船の時間のことで「ギョッ」となった瞬間もあったものの、やはり買い出しに行くと、直島では買えないものが手に入るので、家ごはんのバリエーションも広がりますし、日々の生活が豊かになるなぁと実感。

つい「買い出しに行って浮くお金よりも、買い出しにかかる2時間で稼げるお金のほうが多い」などと即物的なことを考えてしまいますが、買い出しに行って普段島では手に入らないものを買うことには、単なる節約以上の意味があります。

これを機に「次からはもっと気軽に買い出しに行く習慣をつけよう」と思ったのでした。

[All photos by Haruna]

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